第37話 副収入は戦略的に!お小遣い戦争
翌朝のサイエスは、やけに清々しかった。
だが私――容子の懐事情は、まったく清々しくない。
「……減ってる。」
金貨袋をひっくり返し、机の上に並べる。
チャリン。
チャリ。
軽い。圧倒的に軽い。
原因は明白だ。
姉、宥子。
調合スキル上げ、隠密強化、索敵強化。
さらに中級ポーション用スクロール大量確保。
確実に将来へ投資している。
それは分かる。分かるのだが。
「私のお小遣いが圧迫されてるのは事実。」
食後の茶を啜りながら、私は真顔で宣言した。
「何の話?」
宥子が首を傾げる。
「副収入を得る。」
〈金の匂い〉
〈するな〉
床でだらけていた赤白と紅白が即座に反応。
フードの中で楽白がもぞり、と動く。
空気が震えた。
――やるの?
「やる。」
私は立ち上がった。
◆
私が目を付けたのは、市場の端。
サイエス中央市場は常に賑わうが、端の通路は空きが多い。
つまり、競争が緩い。
「ここだな。」
露店申請は簡単だった。
小規模販売なら即日許可。
扱う品は決まっている。
――楽白糸の小物。
ニットは売らない。絶対に売らない。
だが端糸で作った小さな御守り、指輪の飾り紐、髪留め程度なら問題ない。
付与は最低限。
魔力安定、微小回復、疲労軽減。
「実用品で、ちょっと嬉しい程度。」
それが狙いだ。
〈売るのか〉
〈怒られるぞ〉
「姉には内緒。」
◆
昼前。
露店を開くと、通行人が足を止めた。
「これ、光ってる?」
「微弱な魔力付与です。」
私はにこやかに答える。
価格は控えめ。
だが品質は本物。
最初に売れたのは、疲れた表情の女冒険者。
「これ、楽になる?」
「保証はしませんが、好評です。」
半分事実。半分商売。
金貨一枚。
チャリン。
心が弾む。
「……いける。」
午後には小物の半分が売れた。
楽白はフードの中で誇らしげ。
空気がぽわん、と温かい。
◆
だが、問題は夕刻に起きた。
「……容子?」
背後から聞き慣れた声。
振り向くと、宥子が立っていた。
笑顔。
目が笑っていない。
「露店?」
「副収入。」
「楽白糸?」
沈黙。
フードが震える。
――怒られる?
「ニットは売ってない!」
即答。
宥子は露店を見回し、ひとつ手に取る。
鑑定。
沈黙。
「……微弱付与のみ。」
「そう。」
「価格は?」
「良心的。」
「利益率は?」
「五割。」
沈黙。
やばい。怒るか。
だが次の瞬間。
「場所が悪い。」
は?
「中央通路に出すべき。回転率が倍。」
「え?」
「ブランド名付けよう。」
私は目を瞬かせた。
怒らないのか。
「副収入は悪くない。でも戦略が甘い。」
商人の顔だ。
「三日後、王城近くで市がある。そこに出す。」
「ちょっと待って。」
「量産体制どうする?」
「……楽白?」
フードの中で、ぽわん、と気合の空気。
――やる。
覚悟を決めたようだ。
「ただし条件。」
宥子が指を立てる。
「売上の三割、共有資金。」
「二割。」
「二割五分。」
「……成立。」
握手。
〈商人だな〉
〈血は争えぬ〉
◆
三日後。
王城前広場は人で溢れていた。
貴族、騎士、商人、冒険者。
露店を開くと、瞬く間に客が集まる。
「これ、噂の楽白糸?」
「はい、正規品です。」
ブランド名は――
『白糸工房』
単純だが覚えやすい。
売上は予想以上だった。
金貨が積み上がる。
私は内心で歓喜しつつ、冷静を装う。
「副収入、成功。」
宥子が笑う。
「やるじゃない。」
その瞬間。
フードからひょこっ。
楽白が顔を出し、誇らしげに空気を震わせた。
――稼いだ。
私は思わず笑った。
「うん。稼いだ。」
副収入は、ただの小遣いではない。
自分の力で築いた金。
自分の判断で得た成果。
その重みは、袋の重さ以上だ。
「次は限定品出す?」
「調子に乗るな。」
だが、胸は高鳴る。
サイエスの空の下。
私は確信する。
商魂も、戦闘も、絆も。
全部ひっくるめて。
私達は、もっと稼げる。
そして今日の副収入は――
ハンバーグを豪華にする資金となるのだった。
めでたし。
……いや。
次の商戦は、もう始まっている。




