表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/60

第37話 副収入は戦略的に!お小遣い戦争


 翌朝のサイエスは、やけに清々しかった。


 だが私――容子(まさこ)ふところ事情は、まったく清々しくない。


 「……減ってる。」


 金貨袋をひっくり返し、机の上に並べる。


 チャリン。

 チャリ。


 軽い。圧倒的に軽い。


 原因は明白だ。


 姉、宥子(ひろこ)


 調合スキル上げ、隠密強化、索敵強化。

 さらに中級ポーション用スクロール大量確保。


 確実に将来へ投資している。

 それは分かる。分かるのだが。


 「私のお小遣いが圧迫されてるのは事実。」


 食後の茶を啜りながら、私は真顔で宣言した。


 「何の話?」


 宥子(ひろこ)が首を傾げる。


 「副収入を得る。」


 〈金の匂い〉

 〈するな〉


 床でだらけていた赤白(せきはく)紅白(こうはく)が即座に反応。


 フードの中で楽白(らくはく)がもぞり、と動く。

 空気が震えた。


 ――やるの?


 「やる。」


 私は立ち上がった。


 ◆


 私が目を付けたのは、市場の端。


 サイエス(さいえす)中央市場は常ににぎわうが、端の通路は空きが多い。

 つまり、競争が緩い。


 「ここだな。」


 露店申請は簡単だった。

 小規模販売なら即日許可。


 扱う品は決まっている。


 ――楽白(らくはく)糸の小物。


 ニットは売らない。絶対に売らない。

 だが端糸で作った小さな御守り、指輪の飾り紐、髪留め程度なら問題ない。


 付与は最低限。

 魔力安定、微小回復、疲労軽減。


 「実用品で、ちょっと嬉しい程度。」


 それが狙いだ。


 〈売るのか〉

 〈怒られるぞ〉


 「姉には内緒。」


 ◆


 昼前。


 露店を開くと、通行人が足を止めた。


 「これ、光ってる?」


 「微弱な魔力付与です。」


 私はにこやかに答える。


 価格は控えめ。

 だが品質は本物。


 最初に売れたのは、疲れた表情の女冒険者。


 「これ、楽になる?」


 「保証はしませんが、好評です。」


 半分事実。半分商売。


 金貨一枚。


 チャリン。


 心が弾む。


 「……いける。」


 午後には小物の半分が売れた。


 楽白(らくはく)はフードの中で誇らしげ。

 空気がぽわん、と温かい。


 ◆


 だが、問題は夕刻に起きた。


 「……容子(まさこ)?」


 背後から聞き慣れた声。


 振り向くと、宥子(ひろこ)が立っていた。


 笑顔。


 目が笑っていない。


 「露店?」


 「副収入。」


 「楽白(らくはく)糸?」


 沈黙。


 フードが震える。


 ――怒られる?


 「ニットは売ってない!」


 即答。


 宥子(ひろこ)は露店を見回し、ひとつ手に取る。


 鑑定。


 沈黙。


 「……微弱付与のみ。」


 「そう。」


 「価格は?」


 「良心的。」


 「利益率は?」


 「五割。」


 沈黙。


 やばい。怒るか。


 だが次の瞬間。


 「場所が悪い。」


 は?


 「中央通路に出すべき。回転率が倍。」


 「え?」


 「ブランド名付けよう。」


 私は目を瞬かせた。


 怒らないのか。


 「副収入は悪くない。でも戦略が甘い。」


 商人の顔だ。


 「三日後、王城(おうじょう)近くで市がある。そこに出す。」


 「ちょっと待って。」


 「量産体制どうする?」


 「……楽白?」


 フードの中で、ぽわん、と気合の空気。


 ――やる。


 覚悟を決めたようだ。


 「ただし条件。」


 宥子(ひろこ)が指を立てる。


 「売上の三割、共有資金。」


 「二割。」


 「二割五分。」


 「……成立。」


 握手。


 〈商人だな〉

 〈血は争えぬ〉


 ◆


 三日後。


 王城(おうじょう)前広場は人で溢れていた。


 貴族、騎士、商人、冒険者。


 露店を開くと、瞬く間に客が集まる。


 「これ、噂の楽白(らくはく)糸?」


 「はい、正規品です。」


 ブランド名は――


 『白糸工房』


 単純だが覚えやすい。


 売上は予想以上だった。


 金貨が積み上がる。


 私は内心で歓喜しつつ、冷静を装う。


 「副収入、成功。」


 宥子(ひろこ)が笑う。


 「やるじゃない。」


 その瞬間。


 フードからひょこっ。


 楽白(らくはく)が顔を出し、誇らしげに空気を震わせた。


 ――稼いだ。


 私は思わず笑った。


 「うん。稼いだ。」


 副収入は、ただの小遣いではない。


 自分の力で築いた金。

 自分の判断で得た成果。


 その重みは、袋の重さ以上だ。


 「次は限定品出す?」


 「調子に乗るな。」


 だが、胸は高鳴る。


 サイエスの空の下。


 私は確信する。


 商魂も、戦闘も、絆も。


 全部ひっくるめて。


 私達は、もっと稼げる。


 そして今日の副収入は――


 ハンバーグを豪華にする資金となるのだった。


 めでたし。


 ……いや。


 次の商戦は、もう始まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ