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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第35話 楽白ちゃんの糸はチートだった


 完成した服を両手で持ち上げた瞬間、私は確信した。


 ――やり過ぎたかもしれない。


 白を基調とした軽装。だが見た目とは裏腹に、内側にはびっしりと刺繍された魔法陣。

 素材は楽白(らくはく)製の糸。


 鑑定結果。


 防刃8000。

 魔防10000。

 小自動回復。


 「……うん。これは国宝級では?」


 正直、軽い気持ちで作った。

 だが蜘蛛地獄(ゴライアス)の糸という時点で、もう素材がバグっている。


 ――幼虫って何。

 ――幼虫でこれなら成体どうなるの。


 そんなことを考えつつ、私は満足げに頷いた。


 その時だった。


 「へぇ……」


 背後から、ぞわりとする声。


 振り向く。


 そこに立っていたのは、金貨の匂いを嗅ぎ取る捕食者――宥子(ひろこ)


 視線は一点。

 私の手の中の服。

 そして作業台の上に並ぶ糸玉。


 「……売れるな。」


 言い切った。


 「売らない。」


 即答。間髪入れず。


 だが宥子(ひろこ)は諦めない。


 「聞いて。冷静に考えよ?これ、商業ギルドに持ち込んだらいくらになると思う?

 布だけでも高級品。さらに付与(エンチャント)付き。

 しかも原材料費ゼロやで?」


 「ゼロじゃない!楽白(らくはく)ちゃんの労力!」


 「労力って言うても吐いてるだけやろ?」


 その瞬間、空気が変わった。


 しん……


 床の下から、みょーん、と白い影。


 楽白(らくはく)登場。


 言葉はない。

 念話もない。


 だが。


 ――圧。


 空気が重い。

 湿度が上がったような、じっとりとした緊張感。


 楽白(らくはく)が糸玉の前にぴたりと陣取る。


 そして、ゆっくりと身体を上下。


 ……怒ってる?


 「な、なんやねんその無言の圧力……」


 宥子(ひろこ)が一歩引く。


 私は内心でガッツポーズ。


 「これは研究素材!

 ボタン量産計画も始まってるし!」


 「ボタン?」


 私はレジン試作を取り出す。

 小型シリコンモールドで作った試験品。


 透明な中に砕いた屑魔石。


 「これに最初からspell(スペル)を組み込む。

 ボタン一つで回復、清掃、温度調整。

 状況次第で魔力循環補助。」


 宥子(ひろこ)の目が完全に輝く。


 「……それ量産出来る?」


 「出来る。」


 「売れる?」


 「爆売れ。」


 沈黙。


 カルテットがざわつく。


 〈金の匂いがするで〉

 〈姉ちゃん復活やな〉

 〈でも糸は売られたくないですの〉


 葛藤する宥子(ひろこ)


 商魂 vs 妹の研究。


 そして、みょーん、と楽白(らくはく)が糸を一本、ゆらりと垂らした。


 ――これは私の。


 そんな雰囲気。


 「……分かった。」


 ついに折れた。


 「糸は研究用として確保。

 ただし量産体制に入ったら商業登録。利益は折半。」


 「七三!」


 「六四!」


 「五分!」


 最終的に五分五分で合意。


 私は糸玉を抱きしめた。


 ――守った。


 だが夜。


 私はこっそり予備糸玉を巻いていた。

 備蓄は正義。


 その背後から。


 「在庫管理中?」


 また来た。


 「違う!」


 糸玉を奪い合う姉妹。


 そこへ、みょーん!


 楽白(らくはく)が私の肩に飛び乗り、糸を私の腕にくるくる。


 完全ガード。


 「共闘すな!」


 〈姉ちゃん不利や〉

 〈賭けるか?〉

 〈飴で賭けますの〉


 最終的に、


 研究用保管庫を設置。

 鍵は私。

 帳簿は宥子(ひろこ)


 そんな妥協案で落ち着いた。


 はぁ、と息を吐く私。


 楽白(らくはく)が頬に触れる。


 撫でる。


 「ありがとうね。」


 糸はただの素材じゃない。


 これは未来を編む糸。


 私達の装備。

 私達の武器。

 そして――金策の種。


 隣で既に皮算用を始めている宥子(ひろこ)を見て、私は苦笑する。


 戦いは終わらない。


 商業ギルドとの攻防。

 価格設定戦争。

 そして糸の奪い合い。


 だが今はいい。


 私は糸玉を抱え、夜の灯りの下で思う。


 ――この糸で、もっと凄い物を作ってやる。


 みょーん、と跳ねる楽白(らくはく)


 サイエスの夜は、今日も平和(?)だった。


 嵐の前の、静かな前哨戦として。

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