第34話 楽白とお揃いの装備品を作ってみた
――灰鐘盗賊団騒動から数刻後。
破壊された扉は鋼翼騎士団が仮修理してくれたが、塞風宿の一室はまだどこか戦場の余韻を残していた。
そんな中。
琴陵宥子が薬師ギルドへ籠もり、ポーションを量産している頃――
私たちティムチームは、例によって私のメディションホール内アトリエに集合していた。
「頑張って服を作るぞー!」
高らかに宣言する琴陵容子。
そう、服である。
アクセサリーも大事だが、何より重要なのは装備。
私たちの現在の戦闘服は、私のお手製で防御力は高い。
――高すぎるのが問題なのだ。
「これ売ったら金貨何枚になるかしら」
以前、目を¥マークにした琴陵宥子がそう呟いたのを私は忘れていない。
売 る な 。
自分たちの命綱を市場に流すな。
だから今回は、“売られても困らないレベル”の服を作る。
ちゃんと強いけど、ギリギリ理性が勝つラインのやつ。
そこで出番なのが――
「楽白ちゃん、頼りにしてるよ!」
天井から逆さにぶら下がる楽白が、ぴと、とこちらへ視線を向ける。
言葉はない。
だが、誇らしげな気配。
そう、楽白の糸は異常な強度を誇る。
盗賊団を一網打尽にした実績付きだ。
「お揃いの普段着兼戦闘服を作る!」
色染めは時間がない。
なので今回は白。
真っ白。
姉妹揃って白コーデ。
――どう見ても目立つ。
「まあいっか!」
私は残っている玉を十個取り出し、ざくざくと首元から編み始める。
高速。
リズム。
編み棒が小気味よく鳴る。
<まーちゃんは、器用ですねぇ>
サクラがぷるぷる震えながら見上げる。
<ほんま見かけによらずっちゅーやつやな>
赤白が余計な一言。
「見かけって何よ!」
<なぁ、おやつ喰いたいわぁ。どうせ琴陵宥子遅くなるんやろ!?>
紅白が床でだらける。
「勝手に食べたら夕飯抜きね。食事メモってるし」
<バレへんって。この我儘ボディに陥落するやん>
どんな自信だ。
<サクラもぉ、食べたいですぅ!!>
サクラまで!
「何でそんな食い意地張ってるの!?」
私はそこまで食に執着しない。……多分。
編み物は順調に進む。
前衣、後衣、模様編み。
戦闘用なのでさりげなく魔力導線を組み込む。
姉が見たら売却本能が刺激される絶妙ライン。
あと袖だけ、というところで――
ちょん、ちょん。
楽白が触手で編み物と自分を交互に指す。
「……あ」
思い出した。
お揃い作るって約束してた。
「糸、足りないな」
<何やもう終わったんか??>
紅白。
「まだ。楽白ちゃん、こないだと同じ糸10玉分お願い」
お尻をつんつん。
ぶる、と気配が震え、前回と同じ強度の糸がきっかり十玉分出現。
完璧。
「ありがとう」
私はチョコレートをぽいっと投入。
触手が上下にぴこぴこ。
かわいい。
だが。
<ずるいで!>
<せや!何で楽白だけなん!?>
<サクラもチョコ食べたいのぉ>
合唱。
「お前らは何もしてないでしょ!これはお礼!お・れ・い!」
<<<琴陵宥子に言うで(からねぇ)!!>>>
卑怯!!
私は唸る。
「臭い残すなよ!? 水で口ゆすぎ! 無臭に近いの出すから!」
取り出したのはピュア・ロッシェ メレンゲ。
ふわさく。
ほぼ無臭。
「あーん」
四匹に配給。
案の定、静かになった。
今のうちにパンツも編む。
2着+1匹分。
レース。
ビジュー。
付与魔法。
鑑定。
物防30000、魔防15000、小回復。
「……売るなよ姉ちゃん」
不安しかない。
◆◇◆
宿の部屋に戻ると、数分後に宥子が帰還。
扉を開けた瞬間。
「なにこれ可愛い!!」
白コーデの楽白を見て崩壊。
顔が完全に蕩けている。
「売らないからね!」
私は即座に服を抱きしめた。
「え、売らないの?」
目が光る。
怖い。
「これは自分用!」
姉は名残惜しそうに鑑定。
「……中級どころか上級冒険者でも欲しがる性能よ」
「だから売らない!」
蛇ちゃんズがどや顔。
サクラがくるくる回る。
楽白は静かに糸を揺らす。
そして――
「……北西の山脈、封鎖中らしいわ」
姉がぽつり。
私は固まる。
「ドワーフの洞窟?」
「ええ。鋼翼城から通達が出るかも」
封鎖。
でも存在は確定。
行く予定はない。
ないけど。
私は窓の外を見る。
夕暮れの塞風宿。
遠くに連なる山影。
きっとあの向こうに、坑道と鉱石とロマンがある。
「……そのうちね」
姉がため息。
「まずはポーション作り手伝いなさい」
現実。
だが私は白い戦闘服をぎゅっと抱く。
いつか必ず。
盗賊団でも騎士団でもなく、
本物の冒険のために。
今日作ったこの服を着て――
私はドワーフの洞窟に、絶対行く。
予定は、まだないけど。




