表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/130

第129話 皇霊契約

 元公爵邸最上階――玉座の間。


 扉を開け放った瞬間、空気が裂けた。


 黒紫の瘴気が渦を巻き、空間そのものが軋む。床に刻まれた古い紋章がひび割れ、天井から黒い霧が滴る。


 その中心。


 玉座の前に立つ、漆黒の鎧。


 蒼炎を瞳に宿す王。


 アンデットエンペラー。


 そして――アベル・フォン・ミスト。


 宥子(ひろこ)は日本刀を握り直し、目を細めた。


 視界に浮かぶ数値。


 レベル1892


 対する自分は451。


 差は1441。


 笑えるくらい絶望的や。


「……我が眠りを妨げるのは、貴様か」


 低い声が響く。


 怒りを孕んだ声。


 いや、怒りというより――憎悪。


 空気が震え、床が砕ける。


「随分とご立腹やな」


「当然だ」


 蒼炎が激しく燃え上がる。


「我を追い落とした王家。虚偽を並べ、罪を擦り付け、歴史から消し去った。民を守ろうとした我を、反逆者に仕立て上げた」


 黒炎が天井へ噴き上がる。


「王家への恨みは深い。滅びるまで呪い続ける」


 それが、この街を包む怨念の正体。


 個人的怒りではない。


 理不尽に奪われた誇りと名誉。


 私は小さく息を吐いた。


「なるほどな。そら拗れるわ」


 床を蹴る。


 一閃。


 神気を帯びた刃が鎧を打つが、火花を散らして弾かれる。


 反撃の黒炎。


 一撃で結界が粉砕され、壁へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 HPが一気に削れる。


 レベル1892の圧力は桁違い。


 正面からでは無理。


 数合で理解した。


「無力だな」


「せやな」


 血を吐きながら、私は懐へ手を伸ばす。


 取り出したのは、容子(まさこ)から託されたブローチ。


 アナスタシアの想念が宿る宝飾。


「これ、見覚えあるやろ?」


 蒼炎が揺れた。


 ブローチが光り、白銀の女性が姿を現す。


「アベル……」


 アナスタシア。


 その声に、黒炎が一瞬静まる。


「……なぜ」


「あなたを止めに来ました」


 彼女は優しく語る。


 誤解、陰謀、王家の策謀。


 それでも愛していたこと。


 あなたは間違っていなかったこと。


 瘴気が薄まる。


 だがアベルは首を振る。


「王家の罪は消えぬ」


「せやろな」


 私は立ち上がる。


「なぁ、アベル」


 蒼炎の瞳が向く。


「人神にならへん?」


 沈黙。


 そして嘲笑。


「人が神になれるわけがない」


「普通はな」


 一歩踏み出す。


「うちは異世界人や」


 炎が揺れる。


「異世界……?」


「せや。うちの世界には“信仰”って仕組みがある。祀られれば力を得る。歴史を語り継がれれば存在が固定される」


 私は指を三本立てた。


「神になる条件、提示してええか?」


 アベルは黙って聞く。


「一つ。この地を学術都市として再建する。知が集まる街にする」


 彼の瞳が細まる。


「二つ。アナスタシアと共に、アベル・フォン・ミストを神として祀る」


 アナスタシアが息を呑む。


「三つ。王家のやらかし――不正と陰謀を公にする。正史として残す」


 玉座の間が静まり返る。


 やがて、アベルが低く笑った。


「面白い。だが、それは貴様の願望ではないか?」


「ちゃうで」


 私は真っ直ぐ見返す。


「それが、あんたの怒りを鎮める最低条件やろ?」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがてアベルは言った。


「……それらが守られるなら」


 黒炎が収束していく。


「我は祟らぬと誓おう」


 空気が震える。


 誓約の気配。


「だが、虚偽であれば――」


「その時は好きに呪えばええ」


 私は肩を竦めた。


「こっちも命懸けや」


 アベルの蒼炎が静かに揺れる。


「条件がある」


「言うてみ?」


「貴様の世界を見せよ。異世界とやらを。その上で契約を結ぶ」


 にやりと笑う。


「社会見学か。ええで」


 魔法陣を展開する。


「一時的契約(ティム)


 光の鎖が二人を繋ぐ。


 レベル451とレベル1892。


 常識外の結束。


 契約成立。


「では、行くぞ」


 転移陣が輝く。


 光が弾け――


 次の瞬間。


 畳の匂い。


 テレビの待機ランプ。


 日本の自宅リビング。


 黒鎧の皇霊が静かに立つ。


「……ここが異世界か」


「せや。ここから神様プロデュース始めるで」


 アベルは静かに周囲を見回す。


 怒りはまだ消えていない。


 だが理性がある。


 そして、条件付きの誓約がある。


 学術都市建設。


 夫婦神としての奉斎。


 王家の罪の公表。


 それを守る限り、祟らない。


 守らねば――どうなるかは分からない。


 私は刀を肩に担ぎ、笑った。


「ほな、未来の神様候補。まずはコンビニから行こか」


 1892の皇霊は、わずかに口元を緩めた。


 神話の芽は、静かに異世界で根を張り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ