表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/130

第130話 神と怨霊の会談

 夜のビル屋上。


 ネオンが瞬く都市の空を背に、風に髪をなびかせて立つ女神が一柱。


 阿迦留姫命(あかるひめのみこと)|。


 海を越え渡来した光の姫神は、腕を組んだまま、こちらをじろりと睨んだ。


「……宥子(ひろこ)


「はい?」


「悪霊を連れて来るな」


 即答である。


 背後で漆黒の鎧を纏う皇霊――|アベル・フォン・ミスト|が、わずかに眉をひそめた。


「悪霊とは心外だな」


「心外も何も、瘴気ダダ漏れや」


 屋上のコンクリートがミシリと鳴る。


 私は両手を上げた。


「まあまあ。今から更生プログラムや。紹介状欲しいねん」


「誰にだ」


菅原道真公すがわらのみちざねこう|」


 その名を出した瞬間、阿迦留姫命(あかるひめのみこと)|が鼻で笑う。


「よりによって天神様か。難儀やな」


「学問都市作るねん。適任やろ?」


 アベルが小声で呟く。


「その者は強いのか」


「元人間で、死後に神格化。怨霊から天神へ昇華したレジェンドや」


 アベルの蒼炎が揺れる。


「……興味深い」


「取り次いでくれるなら――」


 女神はにやりと笑った。


楽天(ラティエン)|で買い物させろ」


「は?」


「通販だ。あれは便利だ。前回ログイン切れた」


 私は頭を抱えた。


「選んでええけど、予算あるで」


 スマホを差し出すと、阿迦留姫命(あかるひめのみこと)|は光の指で高速スクロールを始めた。


「これも良いな。酒。つまみ。限定醸造……」


「ちょ、無限にカート入れんな!」


「神は制限を嫌う」


「うちの給料二十万や!」


 ぴたりと手が止まる。


「……社長なのに二十万か?」


「上は金持たん主義や」


「清貧すぎぬか」


 結局、二十万ギリギリまで酒と珍味で埋め尽くされた。


「……満足か?」


「うむ」


 そして指を鳴らす。


 空間が歪み、光の道が開く。


「天満宮へ案内する」


 ◇


 静かな境内。


 月光に照らされた社殿の前で、一柱の神が待っていた。


 烏帽子姿、静かな眼差し。


 菅原道真公すがわらのみちざねこう|。


「……異世界版の私か」


 開口一番、それだった。


「は?」


「そなた、学問都市を築く気だろう」


「話早いな!?」


 道真公の視線がアベルへ向く。


 アベルは息を呑んだ。


「……人が、本当に神として祀られている」


「左様。信仰は力となる」


 蒼炎が揺れる。


「我は王家を滅ぼしたい」


 静かな殺意。


 道真公は頷いた。


「その気持ちは分かる」


「分かるんかい」


「私もかつては怨霊と恐れられた」


 私は慌てて割って入る。


「ちょ、待って! ここ日本! 天照大神(あまてらすおおみかみ)|祀られてるから王家滅ぼしたらアカン!」


 道真公が咳払いする。


「……それは困る」


 アベルは腕を組む。


「天照大神が祀られているならば、全面衝突は得策ではないな」


「やろ!?」


 少し考え込み、アベルが言う。


「では、死なぬ程度に呪えば良い」


「ほどほど呪詛!?」


 道真公が静かに頷く。


「学業不振、経済停滞、軽い腹痛程度ならば問題あるまい」


「基準ガバガバや!」


 だがアベルは乗り気だ。


「それで手を打とう」


 私は頭を抱えたが、全面滅亡よりはマシだ。


 やがて話題は学問へ移る。


 経済構造、貨幣制度、学術振興。


 アベルの目が輝く。


「……弟子にしていただけぬか」


 道真公が微笑む。


「志は悪くない」


 私は咳払いする。


「待った。弟子入りはええけど、うちと従魔契約せなあかん」


 アベルが眉をひそめる。


「従魔だと?」


「管理上必要や。暴走防止」


 沈黙。


 やがてアベルは深く息を吐いた。


「……従魔で良い」


「即落ち!?」


「学問の道を得られるならば、些事だ」


 道真公が扇を広げる。


「契約を」


 私は魔法陣を展開した。


「従魔契約」


 光の鎖が結ばれる。


 レベル451の巫女と、レベル1892の皇霊。


 異様な主従。


 だが成立した。


 ◇


 転移。


 本来はサイエスへ戻るはずだった。


 だが繋がったのは――王都の自宅。


「なんでや!」


「座標が王都固定だ」


 アベルが冷静に言う。


 私は車のキーを掴んだ。


「しゃあない。飛ばすで」


 夜道を爆走。


 ミスト公爵領へ。


 助手席には、元皇太子にして未来の神候補、そして従魔。


「この世界、面白いな」


「まだ序章やで」


 学術都市建設。


 夫婦神奉斎。


 王家軽度呪詛。


 課題は山積み。


 だがアベルの瞳に、かつての絶望はない。


 代わりにあるのは――知への渇望。


 車は闇を裂き、ミスト領へと走った。


 神話の続きを書くために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ