表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/130

第126話 元王太子の残響


 ミスト公爵邸を中心に張られた結界の光が、濃霧に沈む街並みを白く縁取っている。


 本隊二百名は容子(まさこ)の指揮下、外周から瘴気の流れを断ち切り、浄化陣を段階的に重ねている。巫女と神巫、合わせて二百名。呼吸は一つ、歩幅も揃い、祓詞の抑揚さえ統一されていた。


 一方、私は――宥子(ひろこ)は十名を率いて内側へ踏み込んでいる。


「二人一組、視界共有! 背中預けろ!」


 石畳を蹴った瞬間、路地という路地からアンデットが溢れ出す。


 骸骨兵、腐肉を垂らす屍人、怨念の塊のような亡霊。


 だが恐れるに足らん。


 前衛神巫が槍で弾き、後衛巫女が札を走らせる。


 十名やけど密度は濃い。動きに無駄がない。


「街を一周浄化や! 最後に屋敷! 姉は中枢確認中や、こっちは足場固める!」


 私は駆け出す。


 ほぼランニングや。襲い来る屍を拳で砕き、蹴り飛ばしながら、四隅へ魔石を埋設していく。


「「祓い給え、清め給え――エクストラルヒール!」」


 白光が爆ぜ、ゾンビが塵となる。


「それ回復魔法やぞ!? 攻撃用途ちゃう!」


 思わず叫ぶが、理屈は通っている。神聖属性を帯びた回復魔法はアンデットにとって猛毒。効率はともかく確実や。


 走り抜け、館前へ辿り着く。


 そこで私は確信した。


「……邪神やない。」


 瘴気は濃い。だが性質が違う。


 これは神格の波動やない。


 人の絶望や。


 押し潰され、封じられ、行き場を失った魂の膨張。


<姉ちゃん、どうや?>


<内部確認済み。邪神反応なし。封印対象は一霊体。>


<誰や?>


<皇太子から引き摺り降ろされた元公爵――アベル・フォン・ミストや。>


 私は足を止めた。


<……元公爵?>


<王位継承争いに失脚。この地に蟄居させられ、死後も封印。>


 胸が重くなる。


<暴走寸前ちゃうん?>


<半暴走や。街のアンデット発生源は彼の怨嗟。封印が逆効果になっとる。>


 私は歯を食いしばる。


<墓地を調べる。>


 ◇


 屋敷裏手の墓地は不自然な静寂に包まれていた。


 風もない。


 虫も鳴かない。


 墓石は風化し、文字は読めへん。


 その時――


『……アベル様を……』


 振り向くと、淡く揺らぐ女性の霊。


 気品ある面差し。だが悲しみに沈んでいる。


「見えるで。話して。」


『わたくしが……見えるのですか?』


「巫女やさかいな。」


 彼女は名乗った。


『アナスタシア・フォン・ミスト……夫を……アベル・フォン・ミストをお救い下さい……』


 語られる過去。


 アベル・フォン・ミスト。


 かつて公爵家を継ぎ、政治にも才を発揮した人物。


 だが王位継承争いの渦に巻き込まれ、敗れた。


 王家は彼の才と人望を恐れた。


 反旗を翻す可能性を危惧し、この地へ蟄居を命じた。


『あの方は権力に執着などありませんでした……ただ民を守りたかっただけ……』


 志を奪われ、役目を剥がれ、閉ざされた生。


 死後もなお、封印。


『封印は……王家の命で……』


 私は拳を握る。


 浄化やない。


 “口封じ”や。


 暴れぬよう、歴史に影を落とさぬよう、魂ごと閉じ込めた。


『どうか……あの方を解き放って……』


 彼女は桃色の石が嵌まったブローチを差し出す。


『これを……アベル様へ……アナスタシアは共にいると……』


 光が石へ吸い込まれる。


 形見や。


 私はそれを受け取る。


「必ずとは言えん。でも最善は尽くす。」


 彼女は安堵の笑みを浮かべ、消えた。


 ◇


 待機地点へ戻ると、十名が即座に立ち上がる。


「封じられとるんは邪神ちゃう。」


 私は告げる。


「元公爵、アベル・フォン・ミストの霊や。」


 空気が張り詰める。


「王家の尻拭いや。滅したら歴史ごと葬ることになる。解放して暴走したら街が終わる。」


 そこへ本隊の結界光が近づく。


 二百名が整然と展開。


 容子(まさこ)が前へ出る。


「話は聞いた。」


 私はブローチを差し出す。


「救える可能性はある。未練は“人”や。」


 姉は静かに頷く。


「ならやる事は一つや。」


「……救済か?」


「封印を解き、暴走を抑え、未練を断つ。」


 難易度は最上級。


 相手は邪神やない。


 絶望を抱えた一人の男。


 元公爵アベル・フォン・ミスト。


 その魂を滅するのではなく、救う。


「行くで。」


 二百十名の祓詞が重なる。


 霧の奥、屋敷中心部。


 瘴気が脈打つ。


 それは邪悪ではない。


 裏切られ、閉じ込められた魂の悲鳴や。


 今から私達は、その檻を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ