第125話 霧都強行
王都を発ったのは、まだ夜の名残が空に沈んでいる刻限だった。
先行するのは私――容子率いる本隊。
巫女百五十名、神巫五十名。
総勢二百名。
白装束が街道を埋める様は、もはや宗教団体というより遠征軍である。
「隊列、縦五列。間隔維持。索敵は常時展開」
私の号令に、二百の足並みが揃う。
ザッ、ザッ、と地を踏み鳴らす音が霧の街道へ溶けていく。
目指すはミスト公爵領。
最近、アンデットの大規模発生が確認されている土地だ。
◇
一方その後方。
「甘い! 腕立て百回追加!」
宥子の怒号が響く。
率いるのは、わずか十名。
アンナ、リオン、巫女数名、神巫数名。
少数精鋭という名の、実戦ブートキャンプ部隊である。
「お嬢様、移動中です」
アンナが冷静に指摘する。
「移動中やからや! 疲労状態で戦えるようにするんや!」
リオンは地面に手をつきながら必死に食らいつく。
「僕は……置いていかれません……!」
「声小さい!」
「はいっ!」
その瞬間、森が揺れた。
◇
本隊側。
霧が急に濃くなる。
空気が冷える。
「止まれ」
二百名が一斉に静止。
次の瞬間――
森の奥から現れたのは、骸骨兵の大群。
数、三十以上。
さらに後方から腐臭。
ゾンビの群れも続く。
「想定内や」
私は札を抜く。
「第一列、前進。第二列、結界展開。第三列以降、浄化待機」
命令が波のように伝わる。
前衛神巫五十名が一斉に槍を構え突撃。
カンッ、カンッ、と骨を打ち砕く音が連続する。
骸骨は硬い。
だが数で押し切る。
「足止め成功!」
「後衛、放て!」
百五十名の巫女が同時に札を放つ。
白光が空を裂く。
浄化陣が地面に広がる。
アンデットの足元が焼け、動きが鈍る。
「押し潰せ」
二百名の圧。
連携。
数の暴力。
骸骨は次々と崩れ落ち、ゾンビは光に呑まれ灰となる。
だが――
地面が揺れた。
霧を割って現れたのは、巨大な屍巨人。
三メートルはある腐肉の塊。
腕一振りで神巫が吹き飛ぶ。
「結界三重!」
私は前へ出る。
札を三枚同時に叩きつける。
屍巨人の動きが一瞬止まる。
「神巫、脚部集中!」
槍が突き刺さる。
肉が裂ける。
私は印を結ぶ。
「八卦・震式断滅」
雷光が落ちる。
白雷が屍巨人を貫き、爆ぜた。
崩落。
静寂。
「負傷者搬送。進軍再開」
二百名は止まらない。
圧倒的戦力差。
これが本隊や。
◇
その頃、少数部隊。
「うわぁぁぁ!」
リオンの叫び。
森から飛び出したゾンビ二十。
さらに骸馬に乗った死霊騎士。
「ええやん、派手やん!」
宥子が笑う。
「円陣!」
十名が背中合わせに構える。
数で劣る。
だが密度が違う。
アンナが足元に拘束陣を展開。
ゾンビの動きが鈍る。
「リオン、前!」
「はい!」
リオンが踏み込む。
刃に神気を流す。
一閃。
ゾンビが崩れる。
死霊騎士が突撃。
槍が風を裂く。
宥子は紙一重で躱し、懐へ潜る。
「遅い!」
拳に神気を纏わせ、腹部を打つ。
鎧が凹む。
だが騎士は止まらない。
「アンナ!」
「既に」
拘束陣強化。
動きが止まる。
「リオン、決めろ!」
「はい!」
全力の跳躍。
刃が首を断つ。
白光。
死霊騎士は塵となった。
リオンが膝をつく。
「これが……実戦……」
「そうや」
宥子が肩を叩く。
「生きとるやろ? なら勝ちや」
◇
夕刻。
本隊は既にミスト公爵邸前へ到達していた。
二百名の白装束が門前を埋める。
圧巻の光景。
公爵家の兵が緊張する。
「アンデットは散発的やが規模は大きい。結界を常時維持せよ」
私は簡潔に告げる。
巫女百名が周囲へ展開。
神巫が外周警戒。
屋敷が白光に包まれる。
その時、後方から土煙。
「来よったな」
宥子率いる十名が到着。
傷だらけだが、全員立っている。
「少なっ」
公爵家兵が呟く。
だがその十名の纏う気配は濃い。
研ぎ澄まされている。
「暴れてきたで」
宥子が笑う。
「本隊もな」
私は応じる。
二百対十。
規模は違えど、どちらも無傷ではない。
霧の奥で、さらに濃い瘴気が蠢いている。
アンデットは前哨。
本命はこの領地の中心。
「さて」
「行くで」
本隊二百が展開。
少数精鋭十名が前へ。
霧都ミスト。
本格的な戦いは、ここから始まる。




