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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第122話 夢帰地獄

 ――そして、私は落ちた。


 車の免許取得の為に臨んだ合宿。


 あれだけ宥子(ひろこ)を速度不足でpgrして、七十キロ出せるようになったやんとドヤ顔までしておいて。


 再試験。


 私は落ちた。


 原因?


 安全確認のし過ぎ。


 停止線前で三回確認。


 合流で二回見送り。


 右折で歩行者を待ちすぎてタイムオーバー。


 試験官から一言。


『慎重ですが、円滑さに欠けます』


 円滑さ。


 ああ、なんという皮肉。


 屋敷に戻った私は、姉の前で胸を張って言った。


「……不合格や」


 沈黙。


 次の瞬間。


「ウガァァァァァ!!」


 机を叩いて爆笑する宥子(ひろこ)


「人には得手・不得手があるんやろ!?」


「ぐぬぬぬ……!」


 さっきまで自分が言われていた台詞をそのまま返される屈辱。


 滅茶苦茶ムカつく。


 よし決めた。


「行くで」


「どこへ?」


「夢の国や」


 私はキャロル、ルーシー、ジョン、マリー、イスパハンを引き連れ、現実逃避の旅へ出た。


 ◇


 やって来ました、夢と魔法の国ディゼニー。


 ちょうどラストセレブレーションの時期だったらしく、園内は華やかさ全開。


 パーク地図を片手に、私達はまず食へ走る。


「やっぱりチェロスは美味いわぁ。微妙な味付けのもあるけど、それは割合やな」


 安定の定番。


 チャレンジはしない。


 だって外したら悔しいやん?


容子(まさこ)様、これ可愛いです♡」


 キャロルがパープルの手持ちバッグを掲げる。


「サンプルとして借りるさかい、皆で割り勘な」


 即決。


 後でアトリエで再現する。


 私達はパレードを鑑賞し、絶叫系に乗り、写真を撮り、買い物袋を増やしていく。


 夜はミラコエタのホテルへ。


 窓から見える光の海。


「帰りたくないなぁ……」


 本音が漏れる。


 翌日はディゼニーシーへ。


 アトラクションを制覇し、限定スイーツを制覇し、財布もほぼ制覇された。


 でも満足。


 完璧な現実逃避。


 ◇


 そして帰宅。


 両手いっぱいの土産。


 夢の余韻を引きずったまま扉を開けると――


「アンタぁ!!」


 地獄が待っていた。


「遅い思ったらディゼニーで遊んどったんか!?」


 宥子(ひろこ)が爆発。


「五月蠅い!自分の金で休暇して何が悪い!」


「うちはな!? 地獄のブートキャンプやっとったんや!書類百二十七人分付きでな!!」


 ギャオギャオ。


「どうせ提案したんアンナやろ。采配渡した時点で予想出来たやろ?」


 アホちゃう?と目で言うと、姉は崩れ落ちた。


「……否定出来へん」


 そこへアンナが静かに入ってくる。


「第一期生、実戦投入可能です」


 そう、あの百二十七名。


 アーラマンユの黒霧事件を経て、士気は高い。


「実践で仕上げるんやろ?」


「はい。最終試験として実戦投入し、基準未達は除籍」


 容赦ない。


 私は土産袋を置き、名簿を手に取る。


「へぇ、良え所の出も居るなぁ。一般出も混じっとる。面白い編成や」


 ページをめくる。


 男爵令嬢四女、リゼル・フォーマット。


「アンナ、この子こっち回して。特別ブートキャンプや」


「承知しました。他にも優秀な候補生を数名?」


「ええで。ただし書類に“死んでも自己責任”明記な」


 姉が顔を上げる。


「何する気や」


「ワイバーン狩り」


「はぁ!?」


「三馬鹿も連れてく」


 ジョン、イスパハン、ハンスが遠くで固まる。


「速度不足で落ちた私のリハビリや」


「関係ある!?」


「ある。空は待ってくれへん」


 姉は頭を抱える。


 だが止めない。


 ◇


 夜。


 私はアトリエに籠る。


 ディゼニー土産を分解、分析、再構築。


 素材配分。


 縫製ライン。


 改良案。


 現実逃避の産物を、事業へ転換する。


 そこへノック。


容子(まさこ)


「何」


「……落ちたん、悔しいやろ」


 沈黙。


「悔しいわ」


「私もや」


 姉が壁にもたれる。


「速度出せんで落ちて。出せるようになった。今度はお前が慎重過ぎて落ちた」


「姉妹揃って極端やな」


 笑う。


 しばらく静寂。


「次、いつや」


「二週間後」


「練習付き合う」


「七十出せ言うんやろ」


「必要ならな」


 少しだけ胸が軽くなる。


 ◇


 翌朝。


 第一期生が整列。


 実戦演習地へ出発準備。


 遠くの空に、微かに黒い影。


 アーラマンユの残滓かもしれない。


容子(まさこ)


「ん?」


「夢の国もええけどな」


 姉が真っ直ぐ見る。


「現実も、悪くないやろ」


 私は土産の袋を掲げる。


「次は合格祝いで来る」


「自腹な」


「うるさい!」


 百二十七名の笑いが広がる。


 夢の国から帰っても、地獄はある。


 でも。


 踏む時は踏む。


 速度も、決断も。


 私はもう一度、免許証を掴むつもりや。


 今度は円滑に、堂々と。

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