第117話 遠征始動?
朝食の席で、宥子が何気ない顔で爆弾を落とした。
「アンナ、暫くハルモニア王国を離れるわ。その間、悪いんやけどCremaの社長代理になってくれん? 勿論、手当は出すし」
味噌汁を啜りながら、まるで天気の話でもするような口調。
一瞬、空気が止まる。
アンナの手が固まった。
「……はい?」
数秒後、解凍。
「行き成り何を言い出すんですか!? 折角軌道に乗り始めたばかりなんですよ!」
ギャウッと吠える。
私はパンを齧りながらニヤリ。
「一度軌道に乗ってしまえば、後は操縦を誤らなければ大丈夫。それに、化粧品セットの後任は育ってるし問題はないやろう。最悪、念話を使えば万事解決や」
ズズッと音を立てる宥子。
ちらりと私を見る。
「あんた、神職スキル持ちも育て終わっとるやろ。前からドワーフの洞窟に行きたい言うてたやん。各地に自宅購入して拠点増やせば、いつでも行き来出来るやろ? それに神社建て捲ったら面白いことになりそうやん?」
「あー……アーラマンユ嫌いやもんな。威光を削りつつ神社を増やす魂胆か」
「当たり前や」
即答。
「でもドワーフの洞窟、場所分からんやん。この世界、人間至上主義やし」
「イスパハンなら知っとるんちゃう?」
振られたイスパハンは渋い顔。
「知ってはいるが……案内は難しい。彼らは閉鎖的だ」
まあ、そうやろな。
私は頬杖をつき、想像する。
知的好奇心旺盛なドワーフが機械を分解し、構造を解析し、改良する姿。
「手土産は技術書か? 分解可能な機械か?」
胸が高鳴る。
「人種差別が激しい世界で、いきなり押し掛けたら警戒されるわな」
宥子が続ける。
「でも基本拠点はここ。他にも拠点を作ればええ。一ヵ所潰れても崩壊せん基盤をあっちこっちに作る。それが長期戦略や」
慈善の延長で建てた神社は予想以上の成果。
特に力作の御神体。
身分問わず無礼者に天罰覿面。
アーラマンユの信徒が吹っ飛ぶ様は実に爽快や。
「人間至上主義が気に食わん。他者との違いを攻撃材料にする連中は、信仰ごと叩き直す」
私は拳を握る。
「出国前に各領を回って神社兼家を建てまくる。本格的遠征はその後や」
「どうしても付いてきたいなら、自分の後任を育てることやで。私はアンナが後任やから」
「アンナ、諦め。姉は言い出したら聞かん」
私の追撃。
アンナ絶望。
だが――。
「分かりました。早急に代わりを務められる者を探します!」
目が本気。
私は内心で拍手。
(姉よ、アンナ甘く見過ぎや)
◇
一ヶ月後。
「見つけました」
ドヤ顔のアンナ。
連れてきたのはキャロルとルーシー。
ルーシーは暗記スキルが進化し《完全記憶》。
キャロルは暗算が《演算》へ昇華。
数字と情報の化物コンビ。
商人ノウハウを叩き込み、二人で一人前。
社長代理補佐の肩書きが与えられた。
「これで私も同行出来ますね!(キラッ☆)」
宥子の顔が固まる。
「あ……うん、ソウダネ」
ざまぁ。
◇
「移動はどうする?」
「車が欲しいな」
私は腕を組む。
「日本で免許取る合宿行くか? 公道走るの嫌やけど」
「免許あれば購入出来る。長距離移動が楽や」
ワンボックスカー。
最悪、大型免許取得してバス。
「免許年齢の者は全員行くで!」
決定。
「チルドルとジャックは連絡係。スラムは義勇兵が巡回しとる」
憲兵は信用せん。
金で募集したら大量応募。
実地訓練名目のブートキャンプで篩。
残った六十名が私兵。
スラム治安維持担当。
私と宥子に目をかけられる=出世コース。
灰汁強い連中だが、アンナが纏める。
本当に優秀。
◇
「孤児院は?」
宥子が問う。
「リオンおるから平気や」
私は平然。
「スマホ渡しといた。1時間で使いこなした。ソーラーパネル充電器も完備」
「何で勝手に渡すねん! この世界でスマホは超文明やぞ!」
「ええやん。リオンは私の下僕や。構造分からんと分解してもガラクタやし、軽率な奴やない」
姉、肩を落とす。
◇
夜。
神社の屋根。
王都を見下ろす。
各領に建設予定地のリスト。
資材、神職、警備。
遠征準備は進む。
アーラマンユの影は未だ強い。
だが、恐れはない。
信仰は奪うものやない。
示して、選ばせるものや。
ドワーフの洞窟。
新拠点。
各地の神社。
Cremaの販路拡大。
全部、繋がっとる。
「面白くなってきたやん」
私は笑う。
遠征は始動した。
世界を相手に、神社と商売と改革。
潰れるのは――アーラマンユか、旧い常識か。
どっちでも構わん。
光は拡がる。
私、容子が動く限りな。




