第116話 神楽鎮魂
幽館を再生して以降、王都では「天照大御神神社に頼めば何とかなる」という空気が出来上がりつつあった。
それは喜ばしいことだが、同時に忙殺の始まりでもある。
「次は西区の染物屋、その次は北門近くの空き家や!」
私は地図を広げながら、孤児院の子ども達と神薙候補生に指示を飛ばす。
あと数軒――そう思っていたのに、どれも癖が強い。
◇
一軒目、西区の染物屋。
染料の甕の底に沈殿していたのは、職人の未練だった。
「俺の技を……盗まれた……」
濁った声が作業場に響く。
事情を聞けば、弟子に裏切られ、失意のまま病死したという。
私は帳簿と古い注文書を調べ、盗用の証拠を見つけ出した。
「正当な技は、ちゃんと守られる」
証文を神前で焼くと、青白い影は穏やかに消えた。
「戦うだけが祓いちゃう」
イーリンが静かに言う。
「せや。救い方は色々や」
◇
二軒目、北門の空き家。
こちらは単純な瘴気溜まり。
人の出入りが途絶え、負の感情が溜まっただけ。
「圧縮、焼却」
私は淡々と光を叩き込む。
ジャックが苦笑する。
「最近、容赦ないですね」
「効率重視や。後が詰まっとる」
◇
三軒目。
問題の屋敷。
かつてアーラマンユを盲信していた貴族の別邸だ。
門をくぐった瞬間、空気が凍り付く。
「濃い……」
神薙候補生の一人が震える。
「下がっとき」
私は神薙装束を整えた。
「今日は派手にやる」
噂を聞きつけた見物人が門外に集まり始める。
ならば――見せる祓いだ。
私は小型マイクを神薙の服に設置した。
「音拾えてるな? よし」
イーリンとジャックも巫女と神薙の衣装に着替える。
「行くで」
◇
太鼓が鳴る。
私は祝詞を唱え、神楽舞を始めた。
足を踏み鳴らし、鈴を鳴らし、旋回する。
その合間に――
「オーロラヒール!」
光が炸裂。
ギャアアアアア!!
耳を裂く怨霊の絶叫。
だが私は止まらない。
歌い、舞い、祓う。
瘴気が渦を巻き、巨大な影となる。
背にアーラマンユの禍々しい紋様。
「信徒を奪う者よ……」
「奪っとるんはそっちや!」
私は跳躍。
光を一点集中。
「エキストラルヒール!」
最後はイーリンとジャックの同時詠唱。
白光が爆ぜ、闇が裂ける。
轟音と共に影は霧散した。
「ふっ、終わったわ」
門外から大歓声。
だがまだ終わりではない。
「残党処理や!」
私は巫女達に御神酒を持たせ、屋敷四方に撒かせる。
「生き残りは武器でタコ殴り昇天や!」
イーリンとジャックが突入。
小型の霊を光の刃で打ち砕く。
やがて完全沈静。
見物人は口々に言う。
「本物だ……」
評判は王都全体へ広がった。
◇
数日後。
清められた屋敷では修復作業が進む。
Cremaから派遣された大人達と孤児院の子ども達が、梁を補強し、壁を塗り直す。
「ここは訓練所に出来るな」
「広間は集会場や!」
活気に満ちている。
神社には依頼が殺到。
だが全件受けるわけにはいかない。
「除霊可能な案件は神薙に任せる。難物件は孤児院経由や」
私はイーリンとジャックにオーロラヒールを徹底指導する。
「私が常に出動出来る訳ちゃう。自立せえ」
二人は真剣に頷いた。
◇
そして、志願者急増。
貴族三男四男が押し寄せる。
「本気で来い。甘えは許さん」
私は容赦なく鍛える。
――私は容子だ。
責任者として、育成もまた使命。
筆頭神薙や巫女になれば、その辺の上級侍女より高給。
危険手当も付く。
今や王都の人気職の一つに数えられる。
◇
貴族向け神社も完成間近。
「御神体はどこに?」
ベリックが問う。
「一番最初の部屋や。欲塗れの豚が吹っ飛ぶ特等席やろ」
ベリックがにやりと笑う。
「出禁は貴族界の恥ですからね」
「プライド砕いて伸ばせ。叩いて育てる」
下町はミレイアに任せる。
豆撒きも告知済み。
お布施は金貨一枚から。
礼には香水サンプル――付与付き。
男性五種、女性十種。
もちろんCremaの新商品先行販売。
「商売も神事も手ぇ抜かん」
◇
夜。
私は神社の屋根に腰掛け、王都を見渡す。
灯りが増えている。
経済も、人の心も、少しずつ上向いている。
アーラマンユとの確執は消えない。
だが恐れはない。
闇は祓える。
怨念は救える。
欲深い者は吹き飛ばせばいい。
孤児院は拡張し、訓練所は機能し、神社は王都の象徴になりつつある。
容子の戦いは続く。
舞い、祓い、育て、稼ぐ。
光は、確実に広がっているのだから。




