第115話 幽館再生
神社では今日も、アーラマンユの使徒や一部の貴族が神罰を受け、境内から弾き出されているらしい。
――らしい、というのは、今の私は孤児院の回収業に出ているからだ。
「勝手に騰蛇されて、神罰覿面やって」
子ども達の一人が嬉しそうに報告する。
「騰蛇ちゃう、転移や。ちゃんと覚えや」
私が軽く訂正すると、皆が笑った。
太陽信仰の信者は確実に増え、アーラマンユ教団との溝は深まる一方だ。宥子はきっと今頃、勝ち誇った顔で対策を練っているだろう。
けれど私は、神社とは別働隊。
孤児院と回収事業、そして新たに手に入れた“幽霊屋敷”の再生が仕事だ。
◇
孤児院へ戻ると、子ども達は興奮冷めやらぬ様子だった。
「本当にあそこ住めるようになるん?」
「なる。……けど順番がある」
私は全員を食堂に集めた。
「まず確認や。あの屋敷、怨念濃度が高すぎる。普通の浄化やと追いつかへん。段階処理する」
「段階?」
「第一段階、瘴気圧縮。第二段階、核の特定。第三段階、根源浄化。最後に結界固定や」
子ども達がぽかんとする。
「難しい顔せんでええ。要するに、私が先陣切るってことや」
リオンが腕を組んだ。
「危険度は?」
「高め。でも制御できる範囲」
私はそう言って立ち上がる。
「イザベラ、今日は子ども達を頼む。イーリンとジャックは後で合流」
「了解です、マサコ様」
……そう、私は容子だ。責任者として名前を間違えるわけにはいかない。
◇
夕刻。
問題の屋敷前。
瘴気は昼間より濃く、紫黒の靄が絡み合っている。
「うわぁ……昼より酷い」
イーリンが顔を顰める。
「日が落ちると活性化するタイプやな」
私は門を開いた。
ぎぃ、と軋む音。
その瞬間、視界に情報が走る。
――――
対象:屋敷怨念集合体
発生源:歴代使用人虐待/不審死7件
核数:3
危険度:S-
浄化推奨手順:圧縮→分離→昇華
――――
「七件て……」
ジャックが息を呑む。
「貴族の闇やな」
私は息を吐き、掌をかざした。
「天照の光、ここに集え」
白金の光が広がり、瘴気が一瞬引く。
だが、奥から黒い塊が現れた。
女の影。
首を不自然に傾け、虚ろな目でこちらを見る。
「……来たな」
影が叫ぶ。
声なき絶叫が空間を震わせる。
イーリンが即座に回復結界を展開、ジャックが防御壁を重ねる。
「前衛ヒーラー、頼もしいやん」
私は笑い、さらに光を圧縮。
影が突進してくる。
瞬間、私は踏み込み、光を一点集中。
「分離」
閃光。
影は三つに裂ける。
――核1:恐怖
――核2:怨嗟
――核3:未練
「核を一つずつ浄化する!」
まず恐怖。
過去の暴力記憶が映像となって流れ込む。
「……酷いな」
私は静かに呟き、光で包む。
「もう終わりや」
恐怖は溶ける。
次、怨嗟。
怒りが刃となり襲う。
ジャックの壁が砕ける。
「強い!」
「持たせろ!」
私は両手を合わせる。
「裁きではなく、解放」
怒りを否定せず、包む。
やがて怨嗟も霧散。
最後、未練。
小さな少女の姿になった。
「……お母さん」
微かな声。
胸が締め付けられる。
「会いたかったんやな」
私はしゃがみ込む。
「ここはもう終わりや。上へ行き」
光が優しく包む。
少女は微笑み、消えた。
◇
静寂。
瘴気はほぼ消失。
残留濃度は低。
「……終わった?」
イーリンが呟く。
「いや、仕上げがある」
私は結界を張る。
「ここを再利用する。怨念の溜まり場にはさせへん」
白い紋様が屋敷を包み込む。
浄化完了。
◇
翌日。
子ども達を連れて再訪。
「空気違う!」
「軽い!」
歓声が上がる。
リオンが室内を歩き回る。
「家具、売れるぞ。装飾品も価値ある」
「査定任せた」
私は壁を叩く。
「ここは職業訓練所に出来るな」
「本気か?」
「本気や。孤児院拡張や」
子ども達の目が輝く。
◇
その頃、神社。
アーラマンユ教団の上位司祭が来訪し、神罰を受けたらしい。
能力半減、社会的信用失墜。
宥子は徹底的にやる気だ。
だが私は違う戦場。
「神社が表なら、うちは裏や」
私は屋敷を見上げる。
「捨てられた場所を再生する。それがうちの勝ち筋や」
容子として、孤児院の母として。
豪奢だった幽館は、やがて子ども達の笑い声で満ちるだろう。
アーラマンユとの確執は続く。
だが恐れはない。
怨念すら浄化できるなら――
溝も、いずれ埋められる。
私は新しい鍵を回した。
再生の音が、静かに響いた。




