第114話 半月の静謐
王宮の夜会から、すでに半月が経過していた。
あの眩い燭台の光、王、王妃、王太女の揃い踏み、貴族達の値踏みする視線――それらは今や遠い出来事のようでありながら、確実に余波だけは残っている。
「……静かやな」
私は本殿の縁側に腰を下ろし、境内を見渡した。
百本移植した桜は、冬の冷気の中で静かに芽吹きの準備をしている。満開まではもう少し先だが、枝先に宿る命の気配は確かに強まっていた。
「半月や。そら落ち着く頃やろ」
背後から宥子が歩み寄る。
「いや、王族の動きが静かすぎるんや。王太女、絶対うちの神社に興味持っとった」
「焦らんでも来る。王、王妃、王太女の三人は、慎重や。動くときは水面下で根回し終えてからや」
さすが姉。政治の匂いに敏感だ。
◇
神社は完成し、節分も滞りなく終わり、十五日の初午大祭も成功を収めた。
あの日以降、参拝者は確実に増えている。
理由は単純だ。
「神罰が本物」
誰かがそう囁いたからだ。
本殿奥に鎮座する全情報看破天照像は、今日も淡い光を宿している。
参拝者が鳥居をくぐる度、私の視界に情報が展開される。
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氏名:エリオット・バン
年齢:34
職業:商人
犯罪歴:無
虚偽申告:無
レベル:22
スキル:交渉術Lv4/計算Lv3
加護:商業の小加護
悪意指数:低
神罰判定:0
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問題なし。
続いて。
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氏名:ラズ・ドーレン
年齢:41
職業:元盗賊
犯罪歴:窃盗5件(服役済)
虚偽申告:無
レベル:31
スキル:隠密Lv6/短剣術Lv4
加護:無し
悪意指数:中(更生意思有)
神罰判定:1
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軽度の神圧のみ。膝が自然と折れ、深く頭を下げる。
更生の意思がある者には裁きは最小限。
だが。
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氏名:カイル・メルド
年齢:29
職業:アーラマンユ教団下級司祭
犯罪歴:強要2件
虚偽申告:有(身分詐称)
レベル:40
スキル:威圧Lv5/煽動Lv4
加護:アーラマンユの炎
悪意指数:高
神罰判定:4
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瞬間、結界が収束。
空間が歪み、男は強制転移。
能力封印一週間。
境内はざわつくが、もう誰も騒がない。
「……半月でここまで評判広がるとはな」
宥子が腕を組む。
「神罰が軽度やないって分かっとるからや」
「相手次第やからな」
悪意指数が高ければ高いほど、神罰は重くなる。雷撃、能力封印、転移、記憶改竄、社会的信用の自壊――段階は多岐に渡る。
神は平等ではない。
善には慈悲を、悪には裁きを。
◇
一方、境内の一角では容子が忙しそうに動いていた。
「この御守り、新作やで。刺繍も全部手作業」
彼女の作る御守り、装飾具、衣装は評判が高い。Cremaブランドの技術を応用し、神紋を織り込んだ限定品。
「マサコ様、これ恋愛成就効きます?」
「努力せん奴には効かへんで」
即答。
笑いが起きる。
半月前の夜会では王族相手に緊張していた彼女も、今は堂々たる職人の顔だ。
◇
夕刻。
再び強い反応。
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氏名:非公開
年齢:46
職業:王家近衛
犯罪歴:無
虚偽申告:無
レベル:58
スキル:王家剣術Lv8/護衛Lv7
加護:王家守護
悪意指数:無し
神罰判定:0
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その後ろ。
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氏名:非公開
年齢:18
職業:王太女
犯罪歴:無
虚偽申告:無
レベル:65
スキル:王家剣術Lv7/統率Lv6
加護:王家守護
悪意指数:無し
神罰判定:0
――――
フードを被った少女が静かに参道を歩く。
半月。
ようやく来た。
「来よったな」
宥子が小さく笑う。
私は何も言わず、ただ一礼。
王太女は本殿前で立ち止まり、鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼。
作法は完璧。
像は沈黙。
神罰判定ゼロ。
代わりに、微かな祝福光。
王家守護の加護が一瞬だけ強まる。
彼女はそれを感じ取ったのか、ほんの僅かに目を細めた。
「……敵意はないみたいやな」
「当たり前や。王家は均衡を保つ側や」
宥子の言葉は冷静だ。
◇
夜。
三人で縁側に座る。
「半月でここまで来たな」
私が呟く。
「まだ序章や」
宥子は空を見上げる。
「神社は拠点。ここから勢力図変わる」
容子は売上帳簿を閉じて微笑む。
「次は春や。桜満開になったら、もっと人来るで」
百本の桜。
王家の静観。
アーラマンユ教団の牽制。
神罰の絶対性。
半月は、ただの静寂ではなかった。
水面下で均衡は動いている。
私は湯呑みを傾ける。
「ほな、次の一手考えよか」
夜気は冷たい。
だが神域の灯は、確実に強まっていた。




