第113話 神域裁断
一悶着あったものの、《全情報看破天照像》は無事に神社の本殿へと鎮座した。
白木造りの拝殿、磨き上げられた石畳、百本の桜。春風が吹くたびに花弁が舞い、参道は淡い桃色に染まる。
スラム出身の者たちが宮司と巫女を務めている。
当然、育成は私――容子の担当だ。
主にヒーラー適性持ちを集め、薬草学を叩き込み、回復魔法の精度を上げるために実地訓練へ連れ回した。半ばパワーレベリング状態だったが、脱落者が出なかったのは幸いだ。
炊き出し、簡易診療、身だしなみ、言葉遣い。
果ては地球で急遽覚えてきた神社の所作まで叩き込んだ。
正直、苦行だった。
だが今、社務所に整然と並ぶお守りを見れば報われる。
「容子様、この配置でよろしいでしょうか?」
巫女装束に身を包んだ若い女性が尋ねる。
「うーん……厄除けは右側に寄せて。商売繁盛は中央や。あと小さい天照像は見本だけ出しとき。販売はせぇへん」
「承知しました」
装束もすべて私の作品だ。
見た目は伝統的。だが防御力と魔力耐性は騎士団装備並み。誰にも言わんけど。
私は神社代表のベリックを呼ぶ。
「明日から本格稼働や。掃除は毎日徹底。困った人は身分問わず受け入れる。貴族でも横暴なら放り出せ」
「はい」
「アーラマンユの信者でも参拝は許可や。ただし転売目的の買い占め、布教強要は即摘み出し」
ベリックが少し顔をしかめる。
「信者も受け入れるのですか?」
「神は選ばん。人が選ぶんや。ここは神域やけど、門は閉じへん」
私は本殿を見上げる。
「奇跡は人が起こす。神は見守るだけや」
◇
神社はすぐに評判になった。
教会より安価で、しかも正確な鑑定。
邪心ある者には可変式神罰が発動するため、欲深い者は次第に寄り付かなくなった。
ある日、孤児院の子供たちを連れて参拝に来た時だった。
本殿前で怒号。
「この像を売れと言っているのだ!」
立派な衣服。貴族とその取り巻き。
「創造神アーラマンユ様を侮辱する気か! 鑑定像など我らが管理すべきだ!」
ベリックが顔を紅潮させる。
「御神体を金で売れとは何事です!」
「価値のない偶像に金を払ってやると言っているのだ!」
私は前に出る。
「何や騒がしいな」
ベリックが振り返り、安堵の表情。
「御神体を売れと」
「ほう」
私は貴族を見据える。
「ここは神域や。身分は通用せぇへん。売る気もない」
「無礼者!」
「参拝に来たんやろ? なら御神体に向き合うか?」
ベリックが慌てる。
「こんな者達に見せるなど不敬です!」
「判断するのは御神体や」
私は彼らを本殿へ通す。
像の前。
空気が張り詰める。
次の瞬間、像が白金色に発光。
《氏名:****》
《職業:貴族/裏取引仲介》
《犯罪歴:横領2件・脅迫1件(確定)》
《虚偽申告:重大》
《加護:アーラマンユ(低位)》
《悪意指数:極高》
《被害予測値:高》
《神罰判定:4》
重圧が落ちる。
貴族は膝をつき、魔力を封じられた。
結界が開き、敷地外へ強制転送。
二度と神域へ侵入不可。
取り巻きも次々と弾き飛ばされる。
静寂。
孤児院の子供たちが目を丸くする。
「すげぇ……」
ベリックが呆然と呟く。
「……本当に、公平ですね」
「当然や」
私は肩を竦める。
「アーラマンユの信者でも、善人なら何も起こらん」
実際、数日前に来た別の信者は何事もなく参拝して帰った。
信仰は自由。
だが悪意は許さない。
子供たちが遠巻きに倒れた貴族を見ている。
「豆投げたらあかんで」
「はーい」
私は笑う。
ベリックが小声で言う。
「何人弾かれるか数えます」
「統計取るな」
だが彼の顔は誇らしげだ。
桜が舞う。
参道を人々が行き交う。
神域は静かに、だが確実に根を張っていく。
アーラマンユの威光に怯えず、
権力にも媚びず、
ただ真実と向き合う場所。
私は本殿を見上げ、にやりと笑った。
「これからが本番やな」
神域は、揺るがない。




