第112話 神罰可変式
「神罰は軽度固定やない」
私――容子は、設計図の最終頁に赤い線を引いた。
向かいで腕を組む姉、宥子が目を細める。
「どう変えるつもりや」
「相手の悪意、犯罪歴、虚偽の重大度、加護の質……全部を総合判定。段階式やなく“可変式”にする」
「やり過ぎるなよ」
「やり過ぎへん。公平にするだけや」
神社は祈りの場。だが同時に、嘘と欺瞞を持ち込む者もいる。
アーラマンユ派の偽神官、虚偽加護を騙る詐欺師、スラムで弱者を食い物にしてきた連中。
見抜くだけでは足りない。
相応の“結果”が必要だ。
◇
アトリエ中央に鎮座するのは《全情報看破天照像》の基幹核。
蒼白に輝く超高純度魔石。
イスハパンが低く唸る。
「また規格外やな」
「今回は判定演算が増える」
私は像の内部術式を組み替える。
――魂紋識別
――公的記録層照合
――因果痕跡解析
――虚偽発言時魔力振動計測
――加護波長検出
――悪意指数算出
――危険度予測演算
そこへ新たに刻む。
《神罰可変演算陣》
白朱が尾で魔石を軽く叩く。
「強度制御はどうする」
「数値化する」
私は空中に式を描いた。
神罰強度 =
(犯罪重大度 × 係数)
+(虚偽重大度 × 係数)
+(悪意指数 × 補正)
+(被害予測値 × 重み)
−(悔悟指数 × 減衰)
ティムカルテットがくるりと回る。
『悔悟指数?』
「反省が本物なら減衰。更生の道は残す」
姉が小さく頷いた。
「それなら通す」
私はさらに制限を加える。
――殺傷不可
――後遺障害不可
――魂損壊不可
――過剰制裁自動停止
そして可変式神罰の段階を定義する。
【レベル0】無反応
【レベル1】警告光・警鐘音
【レベル2】全身の軽度痺れ
【レベル3】膝崩れ強制・一定時間行動不能
【レベル4】魔力封鎖・結界外転送
【レベル5】強制拘束・王都司法機関へ自動通報
「最大で司法連携か」
姉が言う。
「国家を超えへん範囲でな」
天照大御神様の加護回路へ接続。
紅唐白の鱗を触媒に、真実属性を増幅。
白朱の浄化波動で安定化。
像が白金色へ変わる。
完成だ。
◇
試験。
まず私。
《氏名:容子》
《年齢:18(魂齢25)》
《職業:鍛冶師/神器開発者》
《犯罪歴:なし》
《虚偽申告:なし》
《レベル:378》
《スキル:高位鍛冶・魔力多重制御 他》
《加護:天照大御神(中位)》
《悪意指数:低》
《神罰判定:0》
問題なし。
次に姉。
《氏名:宥子》
《年齢:18(魂齢25)》
《職業:神社管理者》
《犯罪歴:なし》
《虚偽申告:なし》
《レベル:465》
《加護:天照大御神(高位)》
《悪意指数:低》
《神罰判定:0》
ワウル。
《犯罪歴:軽犯罪1件(示談済)》
《悪意指数:低》
《悔悟指数:高》
《神罰判定:1(警告のみ)》
「昔の喧嘩は軽く出るな」
「妥当や」
私は深呼吸する。
「問題は本番や」
◇
数日後。試験的公開。
明らかに怪しい男が現れる。
アーラマンユ派の偽神官。
像が光る。
《氏名:***(偽名)》
《真名:****》
《年齢:34(魂齢34)》
《職業:詐欺師/偽神官》
《犯罪歴:詐欺3件・恐喝1件(確定)》
《虚偽申告:重大》
《レベル:42》
《加護:アーラマンユ(低位)》
《悪意指数:高》
《被害予測値:高》
《神罰判定:4》
瞬間。
男の身体から魔力が抜け、膝をつく。
結界が開き、外へ転送。
同時に王都司法へ通報信号。
ざわめく参拝者。
姉が私を見る。
「容赦ないな」
「計算通りや」
だがその日の午後。
盗み未遂の少年が現れる。
《犯罪歴:窃盗未遂1件》
《悪意指数:中》
《悔悟指数:高》
《被害予測値:低》
《神罰判定:2》
軽い痺れ。
少年は涙を流し、謝罪した。
姉が静かに肩へ手を置く。
「これでええ」
私は像を見上げる。
神罰は怒りではない。
均衡。
罪に応じ、悪意に応じ、未来を断たぬ範囲で。
像が淡く輝く。
真実を照らし、
虚偽を暴き、
必要ならば裁く。
そして私は小さく笑った。
「今度こそ、正真正銘の可変式や」




