第108話 夜会炎舞
王家のパーティに招待されたその夜。
主役は姉――宥子。
だが、今夜の装いを仕立て上げたのは、この私、妹の容子だ。
衣装部屋には、私が何日も籠もって縫い上げた布と糸の結晶が並んでいる。絹百パーセントの夜会着物。光沢の出方まで計算し、角度によって艶が流れるように設計した一着だ。帯は二重構造で、見た目は優雅、だが内側には防御術式を織り込んである。
アンナの草履には小回復の付与。歩くたびに薄く癒しが巡る仕組みだ。ワウルのドレススーツは私の自信作。黒地に昇り龍の刺繍を施し、金糸と銀糸で立体感を出している。肩のラインは戦闘時の可動域を確保しつつ、貴族社会でも浮かない上品さを保った。
「服装はこんなんで良えかな?」
私は姉の前でくるりと回る。
扇子型のパーティバッグはアイテムボックス仕様。見た目は繊細、だが中には短剣も護符も収納できる。
「容子、ほんまにやり過ぎちゃう?」
姉の宥子が半ば呆れ、半ば感心した声を出す。
「やり過ぎぐらいで丁度ええねん。夜会は戦場や」
アクセサリーも当然、私の手製だ。簪は魔力増幅の核。耳飾りは感知強化。帯留めは結界展開の触媒。見た目は優雅、だが全てが実用品。
姉は着付けを終えると、鏡越しに私を見る。
「ありがとうな、容子」
その一言で、疲れが吹き飛ぶ。
だが、リビングへ向かった瞬間、空気が乱れていた。
「どないしたん?」
マリアが泣きそうな顔で駆け寄る。
「アーラマンユの使徒が突然……!」
私は扇を閉じる。
来よったか。
応接間の扉を開けると、紫の法衣を纏った男が仁王立ちしていた。
「異教徒を出せ! 私はアーラマンユの使徒テーゼ様である!」
姉が一歩前へ出る。
「煩いな。何がお望みや」
「貴様らを特別に創造神アーラマンユ様の使徒として帰化させてやろう! 財は没収、商品も供物とせよ!」
はぁ?
私が作った服も、アクセサリーも、全部差し出せと?
「つまり、タダで寄越せ言うてるんやな?」
「創造神への献上だ!」
私はゆっくりと笑った。
「それ、ただの強盗や」
男の顔が歪む。
「太陽神など邪神だ!」
空気が震えた。
姉の魔力が静かに立ち上る。怒りは低く、重い。
私は帯留めに触れる。
結界展開。
薄い膜が室内を包み、衝撃を遮断する。
男が呪詛を放とうとした瞬間、私の耳飾りが反応した。
「後ろや、姉さん」
姉が振り向きざまに風刃を放つ。
見えない呪詛陣が砕け散る。
「な、何だこれは!」
「私の細工や。勝手に侵入するからや」
姉が一歩踏み込む。
「善意を業言うて縛る宗教がどこにあんねん」
炎が床をなめる寸前で止まる。威圧だけで十分。
私は扇を開き、鋭く振る。
風圧が男を押し戻す。
「二度と来んな。うちの物は、うちが作ったもんや」
最後に姉が指を鳴らすと、突風が男を門外へ吹き飛ばした。
静寂が戻る。
アンナが淡々と告げる。
「夜会開始まで一時間です」
私は着物の乱れを整え、簪の位置を直す。
「ほな、行こか」
姉が微笑む。
王家の夜会。
貴族達の思惑。
そして背後で蠢くアーラマンユの影。
だが私は胸を張る。
私が作った装いは、誰にも奪わせない。
「夜会炎舞、開幕や」
扇を広げ、私は姉の隣に並んだ。




