第106話 正月攻勢
Xmasが終わり、街の空気は一気に冷え込んだ。
だが、私の頭はむしろ熱を帯びていた。
師走や。
ここで手を打たなあかん。
祝祭は“流れ”や。途切れさせたら負ける。太陽の祝祭を掲げた以上、年の瀬も正月もこちらの舞台にせなあかん。
「アンナ、師走やさかい従業員と孤児院で餅つき大会とお節料理教室するで!」
金の管理を握っているアンナに直談判。
「お餅つきとお節……それは何でしょうか?」
サイエスでは年越しは淡白らしい。
「餅は鏡餅を作るねん。正月に訪れる歳神様を迎える依代や。繁栄と健康の象徴やで。お節は“御節供”から来ててな、神様に供え、皆で分かち合う料理や。うちらは天照大御神様を祀っとる。やるしかないやろ」
アンナは腕を組み、計算している。
「人数分となると人手が足りません」
「有志募る。従業員の家族も巻き込む。あと正月は子どもらにお年玉や。年神様の魂を分け与える儀式みたいなもんや」
「……なるほど。精神的結束を高める、と」
「せや。ついでに大人向け新年会もや。アーラマンユに負けん規模でな」
アンナは小さく笑った。
「問題はアーラマンユの信者ですね」
「認識阻害魔法かける。会場に辿り着けへんようにする」
「ではスケジュールを作成しましょう」
こうして、正月攻勢が始まった。
餅つき大会は想像以上の盛況だった。
孤児達が掛け声を上げ、従業員が杵を振るう。蒸したもち米の香りが立ち上る。
「よいしょー!」
小さな手で丸められた餅は、やがて立派な鏡餅になった。
同時進行でお節料理教室。
黒豆は「まめに働けるように」。
数の子は「子孫繁栄」。
田作りは「豊作祈願」。
意味を語るたび、子ども達の目が輝く。
料理は文化や。文化は思想や。
太陽の教えを“楽しい行事”として根付かせる。
元旦分のお節は確保完了。新年会用の料理も山盛りだ。
さらに私は“お年玉”として猪型チャームを大量生産した。火の中級魔法が数回発動する。使い切ればただの縁起物。
実用性と象徴性。
完璧や。
そして元旦。
私は着物に着替え、会場に立った。
容子とアンナは得意先回り中。私は孤児達にお年玉を配る役目だ。
「ありがとー!」
笑顔。
酒が進む。
正月酒は格別や。
だが――
「貴女が宥子様でしょうか?」
低く落ち着いた声。
振り向くと、仕立ての良い衣装を纏った壮年の男。
「私は妹の容子です。姉に何か御用で?」
営業用の微笑み。
男は封筒を差し出した。
「王家主催の新年祝賀パーティの招待状です。ぜひ御姉妹で」
王家。
……は?
「私の一存では……姉を呼びます」
私は即座に念話。
『姉ちゃん、王家から招待状や!』
『何でやねん!?』
『知らんがな!戻ってきて!』
数分後、宥子が戻る。
「初めまして、Crema総責任者の宥子です」
にこやかに応対。
使者は柔らかく笑う。
「王家も御社の活動には関心を持っております」
関心。
それは好意とは限らん。
私は一歩引き、場を姉に任せた。
正月早々、王家・アーラマンユ・Crema。
三つ巴の匂いがする。
しかもその夜、さらに厄介が起きた。
認識阻害を抜けてきた連中がいた。
ガルガ達や。
扉が静かに開く。
「見事な術式だな」
戦士ガルガ。
魔導士リリアナ。
剣士フィーア。
聖魔導士テレサ。
私は酒杯を置いた。
「招待してへんで?」
「王家の招待状が届いたと聞いてな。様子見だ」
情報が早すぎる。
リリアナが鏡餅を見上げる。
「奇妙な供物ね」
テレサが呟く。
「偶像崇拝……」
「触んな」
私は静かに言う。
孤児達が背後に集まる。
ガルガは笑う。
「今日は暴れる気はない。ただ確認だ。王家に近づくなら、立場が変わるぞ?」
「変わらへん。うちは太陽の祝祭を続けるだけや」
「王家と結べば力が増す」
「結ぶとは限らん」
私は睨み返す。
「うちは奪わん。分けるだけや」
フィーアが猪チャームを手に取る。
「武器か?」
「縁起物や。子ども向けや」
テレサが低く言う。
「アーラマンユは静観しない」
「知っとる」
短い沈黙。
やがてガルガは踵を返した。
「王家の場で会うかもしれんな」
去っていく背中。
嵐の前触れや。
だが私は杯を掲げた。
「ほら!新年や!笑うで!」
太鼓が鳴る。
餅が振る舞われる。
子ども達の笑顔。
正月攻勢は成功や。
王家がどう出るか。
アーラマンユがどう動くか。
それでも構わん。
文化を広げる。
祝祭を根付かせる。
天照大御神の名のもとに。
この街の年始は、もう変わった。
太陽は昇る。
そして私は、静かに次の一手を考えていた。




