第105話 聖夜炎上
孤児は強かった。
いや、強く“あろうとしている”が正しい。
この街の裏通りにある孤児院の子ども達は、笑いながらも常に周囲を警戒している。アーラマンユを掲げる連中が容子に探りを入れたと聞いた日から、私は静かに準備を進めていた。
私やアンナ、三馬鹿は自衛できる。だが子ども達は違う。
逃走経路の確認、合図一つで散開する訓練、捕まった場合の急所攻撃、視界を塞がれた状態での脱出。さらに、容子には内緒で、状態異常解除・中回復・衝撃緩和を込めたネックレスも配布済みだ。
守る準備は整えている。
だが守るだけでは、心が痩せる。
「クリスマス会、やろうや」
十日前、私はそう言い出した。
「そんな金あるかっ!!」
容子は即答で却下。だがアンナは違った。
「クリスマスコフレは完売しました。ここで“次”を見せましょう」
完全に商人の目だった。
結果、強行開催。
巨大な樅の木を森から運び、太陽紋章入りの偽金貨オーナメントを吊るす。小回復の魔力付与つき。参加費は銅貨五枚。来場者は記念コインを一枚持ち帰れる仕組みだ。
宣伝と祝祭の両立。
準備は慌ただしかったが、孤児達も嬉々として手伝った。
「クリスマスって何ですか?」
「家族や友達と美味しいもん食べて、贈り物する日や」
「そんな日があるんだ」
リオンが半信半疑で呟く。
あるんや。今日からな。
そして当日。
会場は満員。社員、孤児、一般客。笑い声、音楽、香ばしい料理の匂い。外では三馬鹿がチョコとチラシを配っている。
最初の騒動は酔っ払いだった。
「酒がねぇぞ!!」
太陽神像を蹴る。
アンナが無言で接近し、拳で制裁。物理的に。
「お布施!お布施!ってうるさいんだよ!」
恨み節を叩き込み、失神させる。
ジョンが回収。平常運転。
会場が再び盛り上がり始めた、その時だった。
ドン、と扉が開く。
「ほう。随分と派手だな」
低い声。
戦士ガルガ。後ろに魔導士リリアナ、剣士フィーア、聖魔導士テレサ。
チームバルド。
最悪のタイミングだ。
「招待状は?」
私が冷ややかに言う。
「街が騒がしいのでな。視察だ」
ガルガは勝手に酒へ向かう。
「視察で飲むな」
既にコップを掴んでいる。
リリアナはイルミネーションを見上げる。
「安い魔力付与ね。私ならもっと上質にできるわ」
フィーアは展示アクセサリーを無断装着。
「軽いな。悪くない」
テレサは料理に手をかざす。
「異教の祝宴……浄化を――」
「やめぇ!!」
私は即座に前に出た。
孤児達が固まる。
ガルガは大声で笑った。
「子どもが多いな。余裕か?」
「覚悟や」
私は一歩踏み込む。
「参加費、銅貨五枚。払え」
「我らが?」
リリアナが嘲笑。
「当然や。商売や」
ガルガが机に拳を置く。
「街の治安を守る我らに礼はないのか?」
「横柄に礼は出さん」
フィーアが言う。
「記念に幾つか貰っていこう」
「置け」
空気が冷える。
テレサが静かに告げる。
「我らの神に献上するなら考えましょう」
その瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「ここは奪う場やない」
樅の木を指す。
「分け合う場や」
ガルガが鼻で笑う。
「理想論だ」
「せやな。理想や」
私は笑う。
「せやけどな、理想を踏みにじらせる気はない」
アンナが横に並ぶ。
「払わないなら退場を」
ジョンが背後に回る。
孤児達も自然と散開。訓練通り。
恐怖よりも連携。
ガルガは周囲を見回す。数ではこちらが上。
舌打ち。
「……興が削がれた」
リリアナは肩をすくめる。
「安い宴ね」
フィーアはアクセサリーを戻す。
テレサは最後まで太陽神像を睨んだ。
「覚えておけ」
捨て台詞を残し、四人は去った。
扉が閉まる。
沈黙。
私は大きく息を吐いた。
「はい!音楽戻して!」
楽団が再開。
笑顔が戻る。
だが私は理解している。
アーラマンユも、バルドも。
奪う思想は必ず衝突する。
だからこそ、祝祭を続ける。
守るだけではない。
広げる。
太陽の祝祭は、宣言だ。
この街には、奪われない灯りがあると。
孤児達が笑う限り。
社員が誇りを持つ限り。
この聖夜の炎は消えない。
むしろ――
燃え広がる。




