第104話 日輪回収団
スラムのまとめ役の少年の名前が判明した。
リオンだって! 今まで名前の把握をしていなかった私の方がウッカリさんだったので仕方ない。二十一人もいれば、顔と役割を覚えるだけで精一杯やったんやもん。
「リオン、不要な家具は離れに持って行くようにな!」
そう声を張り上げると、虚弱でも剛腕になれる手袋を嵌めた子ども達――私を含めて二十二人が一斉に動き出す。屋敷の奥から、埃まみれのキャビネットやら、脚の折れかけた椅子やら、装飾過多な長机やらを、せっせと運び出していく。
最初は「ほんまに持てるんか?」と疑っていた子も、今や笑いながら大物家具を抱えている。手袋の効果に目を丸くしつつも、誰一人サボらない。こういう所は、ほんまに偉い。
「このゴミはどうするんだ?」
汗だくのリオンが、壊れかけたソファを指差して聞いてきた。
「リサイクルして売るよ」
「売れるのか?」
「布の張替えさえすれば使えるしね。貴族が使っていた物だし、それなりに丈夫や。デザインもちょっと変更するけど!」
私は胸を張る。
ゴミという名の宝の山。見る目があれば、全部が資源や。
「容子様、この服の山はどうするんですか?」
ドレス類を抱えたシャンドラが、不安そうに聞く。
「それは私がリメイクして売るよ。シャンドラにも手伝って貰うからね?」
「はい!」
商売だよ! と言いながら仕事を振ると、皆うれしそうに返事をする。
悪辣な生活から抜け出せた解放感もあるのだろう。全員が聖人君子ってわけじゃないが、指示は守るし、問題も起こさない。それだけで上等や。
数時間後、不用品は離れに山積み。使える物は本館へ。
私は懐から瓶を取り出し、手のひらに中身を零す。ぬめぬめしたスライム状の物体が、ぷるんと震えた。
子ども達が一歩下がる。
「解せぬぅ!」
「Cleaning!」
呪文と共に、ルンパが高速回転で塵を吸い込む。透明な青が、みるみるドドメ色へ変わる。
薬師を目指して失敗した産物だが、掃除に関しては超優秀。除菌・消臭まで完璧。ただし見た目がアレ。
十五分後、真っ黒になったルンパを瓶に戻し封印。
床も壁も、見違えるほど綺麗や。
「綺麗になりましたね!」
「せやな。ほな部屋割りするで!」
幼児四人、年少七人。年少以下が半分以上。
幼児と年少は一室にまとめ、交代制で面倒を見ることに決定。
「リオン、希望を聞いてきて。私はご飯作るわ」
「わかった」
私は台所へ向かう。二十一人分、しかも年齢別。
幼児用は柔らかく刻み、年少は薄味、年長は普通。地味に大仕事や。
「ご飯できたでー!」
わらわらと集まる子ども達。
席順を整え、
「合掌! 日頃の感謝を込めて、頂きます!」
真似して声を揃える姿に、思わず笑みが零れる。
「容子様、頂きますってどうして言うの?」
シーナの問いに、私は箸を置いた。
「私が生きる為に、あなたの命を頂きますって感謝の意味や。食べ終わったら“ご馳走様”。ありがとうございました、や」
皆、真剣な顔で頷き、次の瞬間ガツガツ食べ始める。素直やな。
◇
やってきました、子ども達の初仕事の日。
家具は買わん。解体して作る。ドレスは普段着へ、壊れた棚は修理し、塗装し、模様を変える。
リオンも口を出す。
「ここ、もっと直線的にした方が売れる」
「ほう、商才あるやん」
仕上がりは上々。
私は年長組に制服を配る。
「皆、この服に着替えてきて」
再集合した彼らに、私は宣言した。
「今日は富裕層の不用品回収や。“Crema”の社員として動く。これが証のピンバッジや。無くしたら首やで」
太陽紋章入りの容子印バッジ。
一人ずつ胸に付けていく。
「コスメの説明はチラシで。回収に応じたらスタンプ押して、サインや。ポイント全部貯まったら上級コスメセットやで」
「不正は?」
「出来へん仕組みや」
私はにやりと笑う。
こうして回収活動は始まった。
最初は門前払いも多い。だが、貴族御用達のコスメと聞けば態度が変わる。
「まあ、いらない椅子なら…」
少しずつ、信頼と実績が積み重なる。
やがて王都の貴族の館から正式依頼が来た。
「人気やなあ」
私は笑う。
一方その頃――
別の場所では、宗教対立が静かに燻っていた。
だがそれは、まだ先の話。
今はただ、子ども達が誇りを持って歩く姿を見守るだけでええ。
胸の太陽紋章が、夕日に照らされ、きらりと光った。




