表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台本通りの暗殺者  作者: 多幸
2章 依頼編
28/30

9話 鳴神

体が、重い。

音鳴はそう感じていた。

理由は分からない。

ただ、霊六と視線が合っただけで、背中から汗が噴き出した。

――怖い。

まるで、なにか

トラウマの記憶が蘇るようだった

感情が薄い自分が、それでも“恐怖”と呼ぶしかない圧だった。

妖刀に、雷が帯電していく

妖刀・鳴神の特性だ。

時間とともに刃へ雷を溜め込み、

蓄積された雷は、やがて強化され、

制御不能なほど強力な雷を生み出す。

――だが、欠点もある。

放電しなければ、

溜まった雷は使用者自身へと流れ込む。

扱う者すら蝕む、

危険な妖刀だった。

霊六は、鳴神を振り下ろした。

ただそれだけ。

ギョエーン、とまるで嘆いた音がなる

無数の雷が屋根に落ち、

家々をまとめて叩き壊した。

狙いはない。

音鳴に向けてでもない。

ただ――

すべてを破壊する雷。

音鳴は、その中に放り込まれているだけだった。

雷をかわし、霊六へ近づこうとする。

だが、霊六は屋根へ刃を突き立てた。

次の瞬間、

屋根全体に雷が走り、

瓦が光を帯びる。

音鳴は反射的に跳んだ。

「敵から目をそらすな」

声。

振り向いた瞬間、

目の前に、霊六がいた。

蹴り。

腹に、重い衝撃が走る。

「――っ」

息が潰れ、身体が吹き飛ぶ。

屋根を転がり、辛うじて踏みとどまる。

呼吸が、荒い。

「なぁ……」

音鳴は立ち上がりながら言った。

「さっきと、違う?」

「さっきまで、楽しそうだったのに」

霊六は、ゆっくりと歩いてくる。

「俺は暗殺者だ」

低い声。

感情の色が、完全に消えている。

「暗殺者に、感情はいらない」

一歩。

「なぜ弱いか、分かるか?」

答えは待たない。

「感情があるからだ」

霊六は、鳴神の刃を自分の左胸に当てた。

バチッ。

雷が身体を走り、

霊六は雷を纏う。

次の瞬間、

霊六の姿が消えた。

気づいたときには、

音鳴の首元を、右手で掴み上げられていた。

足が宙に浮き、

息が漏れる。

「死とはな」

霊六の声が、近い。

「絶望の、次にある」

指に、力が籠もる。

「弱さに、絶望し、何もできない自分に後悔しろ」

「お前はまた繰り返す」

視界が赤く滲む。

――意識が飛ぶ。

そう思った瞬間、

霊六は力を抜いた。

音鳴の身体が落ちる。

続けて、蹴り。

屋根が凹み、音鳴は転がった。

身体が重い。

立ち上がるのに、時間がかかる。

重力が何倍にもなったようだった。

すぐそばに、

折れた妖刀が屋根に刺さっている。

(……元の場所だ)

霊六は、またゆっくりと近づく。

「速さに自信があるんだろ」

「試してみろ、すべて否定してやる」

音鳴は歯を食いしばり、

足を広げ、剣を引いた。

最速の構え。

亜嵐でさえ反応できなかった技。

――だが。

霊六は、構えない。

無駄だ、と告げるように。

轟音。

音鳴の姿が消える。

次の瞬間、

霊六の首へ刃が走った。

――斬った。

そう思った瞬間、

霊六の姿は、そこにはなかった。

「これが、現実だ」

背後から声。

だが、振り向けない。

全身に雷が走り、

痺れ、自由を奪われていた。

まるで格の違う怪物と戦っている

音鳴はそう思った

霊六は折れた妖刀へ歩み寄り、

柄を踏む。

影が広がり、

妖刀・鳴神は、影の中へ沈んでいく。

その瞬間――

霊六の空気が、変わった。

「……まだまだやな、音鳴」

口調が戻っていた


音鳴は、剣を振り抜く構えのまま停止していた。

全身に走る痺れが、命令を拒否している。

音鳴の前に霊六は屋根へ腰を下ろす。

まるで説教でもするように、ゆっくりと語り出した。

「動けんやろ」

霊六は、苦笑する。

「やっぱり、鳴神はやばいわ。

 俺のほうが壊れそうになるわ」

音鳴は返事ができない。

動くのは、目だけだった。

霊六はそれに気づき、少し楽しそうに続ける。

「ん? 気になるか。

 俺が妖刀を持つたび、人格が変わること」

一度、言葉を区切る。

「人格……いや、“役”って言ったほうが正しいな」

霊六は立ち上がり、夜空を見上げる。

「なんで役を変えると思う?」

答えは、最初から決まっている。

「妖刀に、応えるためやねん」

視線が、音鳴へ落ちる。

「人が妖刀を選ぶんじゃない

妖刀が人を選ぶんだ。

 だから俺は、役を演じる」

ふっと、声が沈む。

「……わかったか、音鳴」

「お前は妖刀に応えていない、だから弱いねん

異能も妖刀も理解して強くなるや」

「じゃあ、また会う時までには強くなれや」

霊六は背を向け、歩き出す。

だが――思い出したように、立ち止まった。

「そうだ」

振り返らずに、言う。

「ネックレスは返せないけと、

かわりに教えてたるわ

結城小夜は羅生門にいる」

少し、間を置く。

「……って言っても、

お前じゃ意味分かんやろ

 色香に伝ええや」

最後に、釘を刺すように。

「ちゃんと覚えてや。

お前のシナリオのためにもな」

霊六は、そのまま屋根から飛び降りた。

夜に溶けるように、姿が消える。

霊六は依頼内容もその先、そして、

音鳴の台本をすべてしっているように語った

四つ葉のクローバーのネックレスも

霊六が持っていたままだ

――五分後。

ようやく、音鳴の痺れが解けた。

「……色香に、報告しないと……」

立ち上がろうとして、首を傾げる。

「……結城小夜って、誰だっけ」

なんとか……なんとか。

「……まぁ、いいか」

ぽつりと呟く。

「色香なら、分かるか」

音鳴は色香を探しに向かった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ