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台本通りの暗殺者  作者: 多幸
2章 依頼編
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8話 霊六

歓楽街の屋根の上を、

二つの影が駆けていた。

少年と、中年。

少年――音鳴は、リュックを背負っている

中年――霊六は、刀を左手に持っている。

二人は恐ろしい速度で走り、

夜気を切り裂いていた。

だが――異様だった。

屋根の上を走っているはずなのに、

足音がしない。

瓦を踏み砕く音も、

着地の衝撃音も、

呼吸の乱れすら、ない。

二人の速度はさらに上がる。

常人の視界では、もはや追えない。

それでも――音は、なかった。

「なんで逃げるんだ」

音鳴が、走りながら声をかける。

だが、風を裂く音に掻き消され、

その声は夜に溶けた。

霊六は前だけを見ている。

一度も、振り返らない。

……聞こえてないのか。

音鳴は一瞬、迷った。

だが、すぐにひらめく。

指を鳴らした。

次の瞬間――

霊六の耳元に、音鳴の声が響く。

「なんで逃げるの?」

音の異能 録音再生の能力だ

自分の声を録音し、

霊六の耳で再生させた

霊六が反応する

走りながら、両手で耳を塞ぐ。

だが、音は止まらない。

「ネックレス渡してよ?」

「俺、嫌われてる?」

「ゾンビの血ってどんな匂い?」

問いが、次々と流れ込む。

それでも霊六は、振り向かない。

……無駄か。

だが、音鳴はまたひらめいた

音鳴は判断を切り替える

ボスのギャグを、再生する。

「布団が――吹っ飛んだ」

「カレーは――かれー」

「都合が――いい結合」

意味のない音が、BGMのように流れ込む。

霊六の足が、止まった。

それに合わせて、音鳴も止まる。

屋根の上。

夜風だけが吹いている。

霊六が、ゆっくりと振り返った。

――失笑。

音鳴は、目を輝かせる。

「ボスのギャグは面白かった?」

霊六は無視し、音鳴を目をはっきりとみた。

「……確かに、逃げる必要はなかったんや」

霊六は刀を前に構えた。

「俺も、お前を知りたかってん」

「俺のこと?」

音鳴は首を傾げる。

「俺は音鳴。暗殺者だよ」

その言葉に、霊六は笑った。

「ははは……面白い自己紹介や」

霊六は、刀を構え直す。

「俺も名乗るわ」

「俺は霊六――暗殺者やぁ」

その瞬間。

霊六の姿が、消えた。

音鳴は即座に刀をリュックから取り出した

――カンッ。

金属音。

二人の刀がぶつかり合い、

火花が散る。

互いの息が、触れるほど近い。

初めて、二人は正面から向き合っていた。

※※

剣の音が鳴り響く。

乾いた金属音が夜を裂き、

二人の剣が、何度もぶつかり合っていた。

音鳴は屋根を走り、跳び、

空中から霊六へ斬りかかる。

だが――

霊六は、その剣を弾く。

火花が散り、

霊六の口角が、わずかに吊り上がった。

次の瞬間、

霊六は横薙ぎに斬り払う。

音鳴は空中で身を捻り、

回転しながらそれをかわす。

着地と同時に、再び踏み込む。

――斬撃。

霊六は即座に反応し、

氷の上を滑るように後退した。

布が裂ける。

霊六の服の端が、わずかに切れていた。

「ははは……なかなか、やるなぁ」

霊六は笑う。

「なんか変わった?」

「……あぁ、すこし役を変えた」

霊六は肩をすくめる。

「戦を楽しむ武士の“役”をやってるんだ

……似合ってるだろ?」

「……俺は前の方が好きだったけど」

音鳴は、首をかしげならつぶやいた

「音鳴。もちろん、妖刀は知ってるよなぁ?」 「そんなことより、ネックレス渡してよ」

霊六は無視して刀を、屋根へ突き刺した。

刃が触れた瞬間、

黒い影が地面に広がる。

次の瞬間――

影が蠢き、三本の刃のように伸びた。

音鳴へ、襲いかかる。

「こっからが、本当の戦いだ」

――だが。

霊六は、目を見開いた。

影の刃が、

切られた。

いや――違う。

破壊された。

ギュン……ギュン……

音鳴の刃が、低く唸る。

音が、刃に絡みつき、震わせていた。

「知ってるよ」

音鳴は言う。

「亜嵐に、教えてもらった」

一歩、踏み込む。

「それと――

 影じゃ、俺には勝てないよ」

轟音。

音鳴の身体が、弾丸のように加速する。

一直線。

霊六は刀を構え、受け止めた。

――次の瞬間。

バキン。

乾いた破砕音。

音鳴の刀が、

霊六の妖刀を、砕いた。

「……あぁ」

霊六が、呟く。

「あの人が欲しがるわけだぁ」

衝撃が遅れて襲い、

霊六の身体が吹き飛ぶ。

屋根が削れ、

瓦が宙を舞い、

霊六は仰向けに倒れた。

音鳴は霊六を追い

少し距離を取って告げる。

「霊六。

 死んだふりは無駄だよ」

「心臓の音、聞こえてるから」

霊六は、平然と立ち上がった。

首を鳴らす。

「はぁ……そうかぁ」

足元に落ちた、折れた妖刀を見る。

「……この子も静かになっちまうなぁ」

霊六は折れた刃を拾い、

屋根へ刃が突き刺さし、その柄を踏みつけた。

――影が、再び広がる。

「妖刀の用途をしってるかぁ?」

霊六は言う。

影の中で、

何かが、せり上がってくる。

影の中から、柄を上にして――

一本の剣が、ゆっくりと姿を現す。

帯電。

バチバチと、雷の音が走る。

「妖刀の“影”は便利でなぁ」

霊六は続ける。

「影に、別の妖刀を隠すこともできる」

影の中から、

一本の剣が完全に姿を現した。

雷を纏う刀。

「妖刀を複数持つやつも、いるってことだ」

霊六はその柄を掴み、

刃を肩に担ぐ。

「――俺のようにな」

その瞬間、

霊六の表情が沈み、

声の調子が、はっきりと変わった。

「こいつは鳴神。借り物でな。

 あまり使いたくはないんだが」

視線が、音鳴を捉える。

――空気が、変わった。

まるで、人格が入れ替わったかのように。

さっきまで感じていた“圧”とは違う。

これは重さでも、殺気でもない。

ただ――

見られている、という感覚だった。

逃げ場がない。

音鳴は、そう感じた。

身体が、わずかに震え出す。

心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

恐怖が、急に音鳴を包み込んだ。

「……まぁ、いい。

 嘆け、鳴神」

雷鳴が激しくなる鳴神を、

霊六は正面に構える。

「音鳴」

笑みは、もうない。

鋭く研ぎ澄まされた視線だけが、

まっすぐに向けられていた。

「――少しは、耐えろよ」


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