7話 4つ葉のネックレス
俺は街で、四つ葉のクローバーのネックレスを持つ男を探していた。
俺と色香の二手で探すことになった。
俺は一人で、歓楽街の中を歩く。
それにしても――
ぐわぁ、ぐわぁ。
街の中は、よだれ男が多い。
というか、霊六以外の“まともそうな人間”をほとんど見ていない。
よだれ男は「ゾンビ」という名前らしい。
色香が教えてくれた。
ゾンビには二種類いる。
俺を見ると抱きつこうとするやつと、
立ち止まったまま動かないやつ。
抱きついてくるゾンビは、もうほとんどいない。
色香が殺したらしい。
立ち止まっているゾンビは多いが、
「害はないから無視しなさい」
と言われた。
だから、無視している。
……あ。
家の前に立っているゾンビが、ネックレスをつけていることに気づいた。
リュックから携帯を取り出し、色香に電話する。
「色香、見つけたよ」
『……早いわね』
「うん。結構すぐ見つかった。早く来てよ」
俺はゾンビの前で待った。
※※
色香はすぐに現れた。
俺はゾンビを指さす。
「ほら、首」
ゾンビは俺が掴むと「ぐわぁ」と唸り、少し抵抗したが、力は俺のほうが強かった。
俺が押さえている間に、色香がネックレスに触れる。
……そして、眉をひそめた。
「これ……クローバーじゃないわ。スペードよ」
「え? 違うの?」
「違うわ」
色香は手を離す。
俺も離すと、ゾンビはまた動かなくなった。
「また探しましょう」
「うん」
俺たちは別れた。
――そして、また見つけた。
電話する。
呼ぶ。
紹介する。
「違うわ」
それだけ言って、色香は去っていく。
……それを、五回ほど繰り返した頃。
時間は進み、夜になっていた。
色香の笑顔は、完全に消えていた。
「音鳴……四つ葉のクローバーって、知ってる?」
「……知らない」
「じゃあ、何を探してたの?」
「ネックレス。あと、面白いゾンビがいたら紹介しようかなって」
沈黙。
色香は深く息を吐いた。
「私は真面目に仕事してるの。あなたは……遊んでいなさい」
「もう電話してこなくていいわ」
そう言って、背を向けた。
理由は分からないが、たぶん怒っている。
人探しは終わりらしい。
俺は必要ないのか。
遊んでいればいいのか。
……何しよう。
やることがなくなった俺は、霊六の家へ向かうことにした。
※※
路地に、二人の男がいた。
一人はゾンビに見える。
ほかのゾンビと違い、人間的な動きをしている。
顔は同じ。
よだれを垂らし、瞼も閉じていない。
それなのに、
ぐわぁ、ぐわぁ。
会話が成立しているように見えた。
もう一人は、もじゃもじゃ髪の人間――霊六。
襲われているのかと思ったが、違う。
「霊六、何してんの? 外、怖いんじゃなかったの」
霊六が振り返る。
「……音鳴か。今、取り込み中や。あっち行ってくれ」
「ふーん。そっか。じゃあ、家に行ってるよ」
路地を抜けようとして、ふと疑問が浮かぶ。
霊六って、なんで外にいるんだ。
怖いとか言ってなかったっけ。
それに――
心臓の音が違う。
さっきまでドクンドクンと速かったのに、
今の霊六は、ドクン……ドクン……と遅い。
霊六の心拍は、もっと速いはずなのに。
なんかあったのか。
気になって、引き返す。
そこには――
ゾンビが、大量の血を流し、ビルにもたれかかって倒れていた。
霊六は左手に刀を持ち、
右手は血に濡れたまま、ネックレスを掴んでいる。
「あ! ネックレス!」
思わず声が出た。
霊六が振り向き、舌打ちする。
「あぁ……四つ葉のネックレスや。見つけたんや」
「……へぇ。それが四つ葉なんだ」
「……お前、四つ葉のクローバー知らなかったんか」
「今知った」
沈黙。
俺は色香に電話をかけた。
『……遊びに付き合えないわ』
冷たい声。まだ怒っているらしい。
「でも、四つ葉のネックレス見つけたよ。今回は間違えないって。霊六がそう言ったから」
『今どこ?』
答える前に――
霊六は壁を蹴り、家と家の間を飛び跳ね、屋根の上へと登った。
姿を見失う。
……霊六って、あんなことできるのか。
さっきまで“外が怖い”と言っていた男と、今の姿が繋がらない。
色香に状況を説明する。
『追いなさい』
それだけ言って、電話は切れた。
俺は家と家の間を跳び、屋根へ登る。
霊六を追って、走り出した。
台本は――色香に従うこと。
なんで追うのか。
なんで霊六がネックレスを持っているのか。
わけがわからない。
とりあえず、台本に従っておこう。




