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台本通りの暗殺者  作者: 多幸
1章 誘拐編
17/30

間話1−3 血の力

億舵と戦ってから、三日が過ぎた。

あれからも、亜嵐の行動は変わらない。

暗殺者を捕まえては問い、

炯眼の名を探し続ける日々。

だが――

今日の亜嵐は、違った。

息が弾む。

足が、止まらない。

森を抜け、瓦礫を越え、

目的地へ向かって、ただ走っていた。

――情報を、掴んだ。

噂にすぎない。

だが、ようやく辿り着いた“手がかり”だった。

炯眼が“いた”という場所。

胸の奥が、熱を帯びる。

鼓動が、速くなる。

(炯眼に会えれば――)

思考は、自然とそこへ行き着く。

(兄さんに、会える)

根拠はない。

確証もない。

それでも――

そう思わずには、いられなかった。

炯眼が目撃されたというのは、

田舎にある、寂れた無明教の教会だった。

無明教。

この世界で唯一の宗教。

神父すら置かれず、放置された教会も少なくない。

無明教は神器と呼ばれるものを奉っているらしいが――

亜嵐にとっては、どうでもいい話だった。

亜嵐が教会に辿り着いたのは、

太陽が沈み、星が瞬き始めた頃。

建物は手入れもされておらず、

絡みつく植物に覆われ、

少しの衝撃で崩れそうなほど脆い。

だが、亜嵐は躊躇しない。

古びた扉を押し開ける。

ギィ――。

軋む音が、夜に響く。

中に明かりはない。

亜嵐は扉を開けたまま、奥へ進んだ。

外観から察するに、こじんまりとした教会だ。

(炯眼は……まだ来ていないのか)

並ぶ木製の長椅子に腰を下ろそうとした、その瞬間。

ぺた。

足裏の感触が、変わった。

水溜まりを踏んだような音。

だが暗く、確認はできない。

亜嵐は長椅子に横になり、

炯眼を待つつもりで、そのまま夜を越えた。

――朝。

窓から差し込む光に、目を覚ます。

背筋を伸ばし、立ち上がろうとしたとき。

ぺた。

再び、同じ音。

その瞬間、理解した。

(……血?)

長椅子の下。

複数の死体。

床を赤く染める血溜まり。

靴にも、べったりと血が付いている。

――バンッ!

扉が、勢いよく開かれた。

踏み込んできたのは、

胸に星章を付けた軍服姿の集団。

先頭に立つのは、

軍服にスカートを合わせ、

腰に剣を携えた淡い青色のショートヘアの女。

女は教会を一瞥し、

血溜まりを見下ろしてから、亜嵐を見た。

「あなたの仕業でしょうかぁ」

「……いや。僕じゃない」

「事情聴取のため、同行をお願いします」

亜嵐には目的がある。

炯眼に会う――ただそれだけだ。

「それは無理だね。ここに用がある」

女の手が、腰の刀に触れる。

「では、力づくで行かせてもらいますが……

 構いませんかぁ?」

「本当に関係ない。

 君たちと争う気もないんだ」

「無実なら、なおさら同行を。

 私も力づくは好みませんので」

亜嵐は、譲れなかった。

事情聴取が何日かかるかも分からない。

この情報を、失うわけにはいかない。

「……仕方ないね。僕にも譲れないものがある」

長椅子の間、中央通路に立ち、

亜嵐は剣を逆手に構える。

「吸え、亜飲」

刀が脈を打ち、膨張する。

「抜刀!」

女の号令とともに、隊員たちが剣を抜いた。

「皆さん、注意してください。

 相手は妖刀使いです」

次の瞬間――

亜嵐の刀が破裂した。

赤い霧が教会を覆い、視界を奪う。

沈黙。

――そして、轟音。

空気の流れが変わり、

霧が晴れ始める。

現れたのは、

教会の壁に穿たれた、大きな穴。

さきほどまで、存在しなかった逃走路。

「追ってください。必ず捕まえます」

女はそう告げ、

隊員たちとともに教会を後にした。

亜嵐は、追われていた。

逃走を始めてから、すでに半日が経っている。

田舎に点在する、使われなくなった民家の中を渡り歩きながら、 息を潜めて逃げ続けていた。

幸いだったのは――

この一帯に、もう人が住んでいないことだ。

民家の外を、軍服姿の集団が通り過ぎていく。

胸元に星章をつけた、その装備。

――新星組。

国の異能警察と呼ばれる、特別部隊。

異能によって引き起こされる事件を対処するために組織された部隊。

剣術、判断力、統率――すべてが国家基準だ。

亜嵐は、壁の隙間から外を覗き、

隊員たちが通り過ぎるのを待っていた。

(……早く、教会に戻らなくては)

炯眼が、いつ戻ってくるか分からない。

やっと掴んだ情報を、無駄にするわけにはいかなかった。

普段は冷静で、感情の起伏も少ない亜嵐が――

今は、焦っていた。

意を決し、民家を出た、その瞬間。

「やっと、見つけました」

亜嵐は舌打ちした。

声の主は、教会突入時に先頭に立っていた女。

淡い青のショートヘア。

軍服の腰には剣を携えている。

新星組 一番隊長――沖水 総零。

彼女は、すでに剣の柄に手をかけていた。

「……僕は、君と争う気はない」 「だから、見逃してくれ」

亜嵐の言葉に、沖水の表情は曇る。

「……人を殺しておいて」 「そんな要求が通ると、思っているんですか?」

沖水は抜刀し、構えた。

「人は、罪を背負えば償うものです」 「怪我をしないうちに、投降してください」

「僕は、やっていない」 「それにしても……君、なかなか頭が固いね」

亜嵐は、静かに刀を構える。

「女の子に刀を向けるのは、初めてだよ」

次の瞬間――

二人は同時に踏み込んだ。

剣と剣が交差する。

沖水は、亜嵐の斬撃を流し、

反撃を重ねていく。

亜嵐の身体に、浅い傷が増えていった。

剣の技量は、明らかに沖水の方が上だった。

亜嵐は距離を取り、地面に刀を突き立てる。

黒い影が、地面から伸び上がり、沖水を襲った。

沖水は軽やかなステップでかわす。

だが――

影は形を変え、上から追撃する。

「……妖刀の、影の力ですか」 「厄介ですね」

沖水は回避しながら、空いた手でベルトのホルダーに触れた。

取り出したのは、透明な液体の入った小瓶。

それを、刀に浴びせる。

液体は刃を包み込み、

一滴も地面に落ちない。

沖水が刀を振るうと、

液体が形を変え、斬撃となって飛んだ。

亜嵐は刀を引き抜き、弾く。

――甲高い音。

液体とは思えない衝撃が、腕に伝わった。

(……なんだ、この液体)

その疑問に、沖水は即答する。

「水です」 「ただの水」 「細工はありません。私の異能です」

沖水の刀に纏われた水は、自在に形を変えていた。

「なるほど……異能者か」

亜嵐は、静かに息を吐く。

「なら、君が女の子だからって」 「加減は、できないかな」

亜嵐は、刀を逆手にし、地面へ向ける。

「――吸え、亜飲」

本日二度目の赤霧が、空間を包んだ。

沖水の剣を握る手に、力がこもる。

空気が、張り詰める。




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