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エノモト総裁の苦悩


幼い公方様(征宙大将軍)・・16代トクガワ将軍を守護しながら、

エノモト総裁率いる幕府航宙艦隊十隻は、確固たる決意と徹底抗戦の覚悟を胸に月城(月面都市)・五稜郭 へと退いた。


それに対して・・明治維新政府は即座に追撃を命じたはずだったのだが・・・

現実はまるで違っていた。

彼らの保有する航宙艦はわずか三隻のみ。

しかも武装艦ではなく、ただの輸送艦にすぎない。


そう、日本が保有していた航宙艦の大半を、エノモト総裁が確保してしまっていたのだ。

この瞬間、明治政府は事実上の航宙能力を喪失し、制宙権は完全に幕府側へと傾いたのである。

明治政府に残された選択肢はただひとつ。

一から航宙艦を建造し直すしかなかった。



そして・・この当時、地球全体を見渡したとしても、日本のように空を制する国は存在しなかった。

せいぜい気球が浮かぶ程度。

日本のように、空を、そして宇宙を自在に駆けまわる技術など、どの国も持ち合わせていなかったのである。


各国は日本の航宙技術を求めた。

だが、その核心は 異星文明の遺産であり、

さらに操艦には陰陽道による仙術能力が不可欠だったのだ!


西洋諸国は長きにわたる"魔女狩り"によって自らの魔導体系・・・

すなわち仙術的素養を完全に断ち切ってしまっていた。

ゆえに、日本の航宙技術を再現することは原理的に不可能だったのである。


彼ら西洋諸国に残された道はただひとつ。

気長に、地道に、やがて某異世界で名を刻むであろう"ライト兄弟"のような動力飛行の開発を待つしかなかった。



◇◆*◇◆◇◆◇◆◇*◆◇



明治維新政府は、月城(月面都市)・五稜郭へ立てこもった幕府軍に対して・・・

何ひとつ有効な手立てを打てずにいた。


地球から月まで約38万キロ。

その距離は、当時の明治政府にとって"絶望的な遠さ"だった。

追撃も、包囲も、交渉すら届かない。

月面は、まるで別世界のように手の届かぬ場所だったのである。


ゆえに明治政府は、

まるで"トクガワ幕府など最初から存在しなかった"かのごとく、新政府の基盤を固めていく。


その中心に立ったのは、

日本の実質的な最高指導者、内務卿オオクボ・トシミチ

江戸を東京と改め・・官僚組織を整備し、鎖国体制を終わらせ・・

西洋からの技術を積極的に受け入れていった。

(航宙技術以外は遅れていたのですね!)




一方その頃、月面の幕府五稜郭は、明治政府からの脅威をほとんど受けず、

次第に"独立国"のような様相を帯び始めていた。


だが・・・

エノモトたちは決して安心していなかった。


いずれ明治政府は航宙艦を建造し、必ず月面へ攻め込んでくる。

その未来は避けられない。


なにより、人口と生産力の差があまりにも大きかった。

五稜郭の人口は町人を含めても、わずか三万人足らず。

対する日本本土は三千万なのだ。


だからこそ、月面の静寂の中で、エノモトは常に耳を澄ませていた。

地球で進む明治政府の動き・・・

その一挙手一投足に、神経をとがらせる必要があり、いつでも迎え撃てる準備をしなければならない・・はずなのだが、

しかし現実は、五稜郭内部の派閥争いが日に日に激しさを増し、エノモトの精神を容赦なく脅かしていた。


「マツウラ外記に・・・キリヤ左衛門尉。

なぜあいつらを"同士"にしてしまったのか! なぜ五稜郭に呼び寄せてしまったのか・・・俺の不覚だ」


五稜郭内のもめごとは、もはや火種どころか炎となりつつあった。

かつては将軍家の血を引くマキビ参議が巧みに調停し、内部の均衡を保っていたのだが・・・

いまやその参議は・・あの二人の陰謀によって処刑されてしまったのだ。


「俺があの時、留守にしていなければ・・・あんな処刑、絶対にさせなかった」


悔恨が胸を刺す。

だが、もはや後戻りはできない。


「マツウラ外記とキリヤ左衛門尉・・・もはやあいつらは疫病神だ。

だが派閥の力が強くなりすぎて、もう俺の手に負えん。

しかも今や・・五稜郭の混乱の中心に座っている」


そう、その影響は、ついに子供たちにまで及んでしまっていた。

両派の子供たちが小競り合いを起こし、それが親たちの対立をさらに煽り、

五稜郭全体を揺らす新たな火種となっていた。


明治維新政府の脅威が迫っているというのに・・・仲間割れとは何事だ。

これが幕府の意思を継ぐ者のすることか!



先日の閣僚会議でも、幼い将軍とエノモト総裁が出席する席上で、マツウラ派の者とキリヤ派の者が殴り合いの喧嘩を演じた。


理由は・・・席順という、あまりにもくだらない些細なことだった。

戦時下でいつ敵が襲ってくるか分からぬというのに、彼らはその場の体面を守ることすらできやしない。

しかも、マツウラ外記とキリヤ左衛門尉は争いを収めるどころか、むしろ事態を助長させたのだ。


エノモトは執務室の窓越しに、月面のクレーターを見据えながら静かに息を吐いた。


「そろそろ・・・俺も腹を括る時が来たのかもしれん」


決意がその声に宿る。

地球からの光が机上の書類を淡く照らし、五稜郭の未来を賭けた決断の時が近づきつつあった。






--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)


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