華麗に悪女参上!
月城・五稜郭。
その居住区の上屋敷地区を、影のように、さまよう白狸が一匹。
シズクの式神にして、親愛なる友。
その名は"ゆきたん"。
透明化したその姿は、
人の目に触れることなく、静かに町の気配をすり抜けていく。
「マツウラ外記にキリヤ左衛門尉・・奴らの関係者を探し出し傀儡にしてしまうのよ。そして・・美味しい物を買ってくるの」
仙術波動に乗って響くシズクの声音は、怒りと空腹が混じり合い、なんとも言えない迫力を帯びていた。
ゆきたんは小さく頷く。
式神としての使命と、友としての忠義。
そして、主の食欲を満たすという、妙に切実な任務。
白狸は、静かに町の中を走り抜ける。
そして・・マツウラ外記の関係者と思しき中間・下級士族を"ゆきたん"はついに見つけ出した。
肩に担いだ荷物の布地に、マツウラ家の家紋がくっきりと浮かんでいるのだ。
何かを運んでいる途中らしい。
ゆきたんの視界にとらえたターゲットは、
仙術通信を通して・・シズクは確認、そしてすぐに首を振った。
「ダメだ」
・・・・この男は、傀儡にできない!
彼の眼光は鋭い。意思も強そうだ。
ついでに筋肉粒々・・ジロウ君ほどではないが・・同じくヤバそうな人物である。
式札を貼り付けても、術は通らないだろう。
その判断は、仙術の波動を通して即座に伝わってきた。
傀儡の術が効く者は、そもそも多くない。
意思が弱く、仙術への抵抗力がほとんどない者はごく少数のはず・・・
ゆきたんは、静かに息を整えた。
目の前の男は標的ではない。別の人物を探そう・・・!
それだけだ。
小一時間、町内をうろうろと、さまよう。
だが、関係者は見つからない。
それ以前に、傀儡の術に"はまる"者すらいない。
これは・・ダメか!?
シズクの胸に、焦りがじわりと広がる。
その時・・
ふと上屋敷地区から少し離れた商業区の方角で、甲高い子供たちの声が、風に乗って耳に届いた。
「この子に危害をくわえるなっ」「おまえこそ怪しいわぁ」
「なんだと!」「お前の魂胆はわかっているのだぞ」
突き刺すような叫びに、ゆきたんは思わず足を止める。
どうやら、子ども同士のよくある揉め事・・・いや、喧嘩に発展しているのかもしれない。
狭い路地で、十代前半ほどの子どもたちが二派に分かれ、一人の少女(わりと可愛い)をめぐって言い争っていた。
もちろん、この光景は仙術波動を通じて
牢の中のシズクにもそのまま伝わってきている。
「なんてうらやましい・・じゃなくて、こまっしゃくれてるわね!」
呆れと感心が入り混じる。
しかもその少女は・・ほんのわずか、口元がつり上がっているのだ。
自分が争奪戦の中心にいることを、完全に理解している微笑み。
分かっててやっている。
これは・・悪女の資質ありだw
「あっ~! 私のために争わないで~」
少女のその台詞に、シズクは思わず吹き出してしまった。
ませてる・・ませすぎている!
「だけど、私も一度くらい言ってみたいセリフw」
町内の喧騒の中で、
ひときわ存在感を放つ小さな"魔性"・・黒き髪を束ねる可愛らしき少女!
「これはこれは・・・この年齢で女性としての色気ね~ 怖い! 怖すぎ!」
ゆきたんは、そしてシズクは、その少女に興味を持ち、そっと距離を詰めていく。
だが、近づくほどに、胸の奥で違和感が膨らんだ。
「・・・あれ!? 彼女・・うっ、まじで? 彼女から女の波動を感じない!?」
ゆきたんの視線は、完全にその少女へロックオン。
透明化した白狸の観察は、精密機器のように研ぎ澄まされていく。
そして・・・「おっおおおお〜」
牢の中で、シズクが思わず叫んだ。
「信じられん! 男だ。男の娘だ。しかも悪女タイプ」
周囲の男の子たちは、その"少女"を疑いもなく少女として扱っている。
守ってやりたい、手を引きたい、そばにいたい・・
そんな思いが渦巻いているのが、シズクには手に取るように分かった。
見た目は可憐で、折れそうなほど華奢。
なぜか・・目を"うるうる"している。
シズクとは正反対のタイプだw
その"少女"は・・・自分の可愛さをフルパワーで振りまき、
その上で、この状況を楽しんでいるかのように微笑みを浮かべているのだ。
恐るべし。
京の町ですら見かけなかったタイプの男の娘だ。
シズクの観察はさらに深まる。
よくよく目を見る。鼻を見る。顔を見る。
美人だ。可愛い! 美男子だ。
だが、どこかで見たことある顔だ。この雰囲気・・もしかして知り合いかも!?
・・・と考えていたら思い出した。
そう、また一つ恐るべき真実を知ってしまったのだ。
「えっ~ うっそ~! おいおいおいおい・・まじかよ!」
牢屋の静寂を破る叫び。
あまりの衝撃に、シズクは泡を吹き・・冷や汗が流れた。
「・・・弟だ! よく見ると顔立ちが私と似ている。姉妹かと思うぐらいの弟だ!?」
そう・・・その男の娘は、シズクの弟"シノブ"だった。
よりによって女装。
よりによって男の娘。
よりによって"悪女化"までしているとは・・想像の斜め上を行く変貌。
父が捕らえられたあの日、弟は激しく暴れ、十数人を切り捨て逃走したと聞いていた。
だがまさか、こんな場所で、こんな姿で潜伏していたとは・・・。
弟ながら、さすがというか、なんというか・・・
その魔性の微笑みは、周囲の少年たちを完全に手玉に取っている。
そしてシズクは、ふと背筋が冷えるような予感にとらわれた。
弟が逃げたままでいるはずがない。
自分と同じく、必ず復讐を誓っているはず。血の気が多いのだ!
敵を皆殺しするぐらい狙っている。
だとすれば・・・弟が魅了しようとしている少年たちとは、一体・・・!
ごくり・・・
シズクの喉が、静かに鳴った。
「ふっ なるほどね!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




