白狸ぶらり旅
月城・五稜郭の中心、重力制御装置を見学!?した後・・・白狸"ゆきたん"は階段を素早く駆け上がる。
その際、一人の人物・・士族と思われる男とすれ違った。
もちろん透明化しているので気づかれないはずなのだが、その男は"ぴたり"と足を止め、迷いなく刀の柄に手を添えた。
抜刀の構え・・・・
ゆきたんの背筋に冷たいものが流れる(狸だけど)
「・・・バレたっすか!?」
だが、男の表情には、確信めいたものがなかった。
何かを"感じた"だけなのだろう。
気配か、霊波か、なんらかの波動なのか!?
男はただ付近を警戒するだけだった。
その時、"ゆきたん"が見た光景が仙術の波動に乗り、そのままシズクの脳裏へと流れ込む。
ゆきたんが見ているものを、シズクも同じように見えているのだ。
そして、男の顔が視界に映った瞬間、シズクは息を呑んだ。
「・・あっ! ジロウ君。
まずい・・彼は危険すぎる。気おつけて! ゆきたん・・」
そう、彼女は知っていた。
ジロウ君・・・すなわちオキタ・ソウジロウ。
京都・大江山の鬼退治の際、共に戦った仲間の一人・・・そして新選組の元隊員!
人外の鬼を十数匹を、瞬く間に倒した天下無双の剣士。
「私は手の内を見せないように手を抜いたが、彼は本気の狂気!
あれは・・やばい。鬼よりも・・人間離れしている!」
顔はヒラメ顔だが・・どちらかと言うと美男子にはいるだろう。だが見た目に騙されてはいけない。
彼は・・人外!
階段の薄闇の中、ゆきたんは息を殺し、
その場をすり抜けるように素早く駆け上がった。
あんなやばい人物とは、さっさと離れるべきだ。
これ以上・・近づくと、無意識のうちに抜刀されかねん!
ジロウ君と関わり合いを持たないように気おつけないとねw
透明化している"ゆきたん"は、そっと居住区へ足を踏み入れた。
足元には磨かれた白い石畳が続き、脇を流れる水路には金魚たちが、ゆらりゆらりと泳いでいる。
道の途中には、赤い腰掛けが点々と並び、
そのそばには大きな日傘が影を落としていた。
人々が行き交い、笑い声がこぼれる・・どこにでもある町の風景。
とても、ここが月面だとは思えない。
しかし、ふと目線を上げれば、
空の代わりに広がるのは ガラス張りの巨大ドーム。
透過した太陽光が淡く降りそそぎ、
居住区全体を穏やかに照らしている。
行き交う人々は、町人に士族。
その表情は穏やかで、どこか楽しげ・・・
この一角だけを見れば、戦いや緊張とは無縁の平和な世界が広がっているようだった。
ゆきたんは、行き交う人々をすり抜けながら、町内をふらりふらりとさまよう。
すると鼻先をくすぐる、甘く温かな香り。
焼きたての団子が放つ、あの香ばしい匂いだ。
この感覚は仙術波動となって、牢屋の中のシズクへとそのまま伝わっていく。
「・・こ、これは美味しそうな匂い。
京の町を思い出すよね。三条通り・・・」
ゆきたんの視界には、団子屋、茶菓子屋、そして見慣れぬファーストフード店が並ぶ。
まるで・・お食事ストリートとでも呼ぶべき賑わい。
人々の笑い声と湯気が、通りを満たしているのだ。
ちなみに、そのファーストフードなる聞き慣れぬ店とは・・
かつて薩摩へ攻め込んだあげくに・・見事に全滅した、"エンゲスト"とかいう国の食べ物らしい。
パンと肉、そして油の香りが、"ゆきたん"というか・・シズクの胃袋を容赦なく刺激する。
うわぁぁ〜
食べたい! だが金子がない。財布がない。
いや! それどころか・・そもそも"ゆきたん"は狸なのだ。
買い物ができない。でもほしい・・!!
赤い床几の上で団子を頬張る町の人々を横目に、ゆきたんというか・・シズクは涙を流す。
「許すまじ! 私を閉じ込めた・・マツウラ外記にキリヤ左衛門尉!
奴らをさがし出して、とりあえず金子を奪え・・w そして何かを買ってきて♡」
食欲を満たすための、あまりにも人間らしいシズクの命令が・・・"ゆきたん"に下されたのであった。
『はいぽん! 了解っす。奪いに行くっす。うちも食べたいっすからね!』
"ゆきたん"は透明化したまま、静かに上屋敷地区へと潜入する。
月城・五稜郭の中でも、もっとも警備が厚く、監視の目が多い区域。
だが、今のゆきたんは影すら残さない。
そう、ここは上流士族の住居区画!
マツウラ外記、あるいは キリヤ左衛門尉・・・の関係者を探すのだ。
必ずいるはず・・・!
作戦というか予定は・・・こうだ。
その関係者、ターゲットを見つけ次第、"ゆきたん"はその情報をシズクに連絡することになっている。
すると・・その報せを受けたシズクは、牢の中から仙術転送を即座に発動!
シズクが持っている式札は一瞬で"ゆきたん"のもとへ届き・・素早くターゲットに貼り付けることになっている。
ちなみに・・その式札には傀儡の仙術が秘められているのだ。
人間の意思を奪い、操り人形のように動かしてしまう、恐ろしくも巧妙な秘術。
ただし操れるのは、意思が弱く、仙術への抵抗力がほとんどない者だけ。
対象はかなり限定されるが・・・まったくいないわけではないだろう。
ゆきたんは静かに、しかし確実に歩を進める。
透明な影となり、上屋敷地区の人波の中へ溶け込んでいった。
行き交う者のほとんどが士族であり、
その立ち居振る舞いには、落ち着いた気品が漂っている。
今のところ・・・誰にも気づかれてはいない。
ゆきたんは、息を殺しながら次の一歩を踏み出した。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




