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白き狸の式神


幼い頃から、シズクのそばに寄り添ってきた・・白き狸の姿をした式神、その名は"ゆきたん"

彼女が初めて呼び出した式神であり、初めての"友達"なのだ。


もともと"ゆきたん"は、由緒ある"東翔大神宮"を守る霊獣の一柱だった。

だがある日、運命の糸がふと交わり、"ゆきたん"はシズクの式神となる。

理由は誰にもわからない。ただ、二人の相性が良かったのは・・確か!



ちなみに東翔大神宮とは・・・江戸幕府、初代征宙将軍イエヤス公(大光現)を御神体として祀る神社。

その神域を長く守ってきた霊獣が、今は一人の姫君のそばに立っている。


今のところ、"ゆきたん"の見た目は・・手のひらサイズだが、その大きさは自在に変えることができるのだ。

小さくも、大きくも、主の望みに応じて形を変える。

まさしく式神と呼ぶべき、霊獣なる存在だった。



シズクは白狸の柔らかな毛並みをそっと撫でると・・・

"ゆきたん"は目を細め、気持ちよさそうに喉を鳴らす。

本当なら、このままモフモフを堪能していたい。だが現実はそれを許さなかった。


「私は捕らわれている。脱出したいけれど、ここは故郷からあまりにも離れすぎているのよ」


その言葉には、不安と絶望が滲んでいた。

確かに・・・この五稜郭は月面に築かれた要塞だ。

地球から遠く離れている。

たとえここから抜け出したとしても、帰る道は存在しない。


"アルカトラズ刑務所"や"梅田駅(ダンジョン)"からの脱出どころではないのだ。

ここから一歩でも外に出れば、待っているのは冷たい真空の宇宙。

空気も、風も、音さえもない世界だ。


シズクはゆきたんを抱きしめ、ふわふわの感触に一瞬だけ心を落ち着かせると・・・

そのまま真剣な声で告げた。


「私はこの五稜郭では、かつて滞在していた町区画と、この牢屋以外は何も知らないの。

だから・・ゆきたん! 隠密と探索をお願い。

"どこに何があるのか"・・・全部探ってきてほしい。

そうしないと私・・対策も立てられないし、復讐も脱出もできやしない」


その言葉に、白狸は瞳を鋭く光る。

小さな身体とは裏腹に、式神としての霊力がふっと立ち上がったのだ。


「任せるっす! うちの力、全部使って探るっす。姫ちゃんのためなら何でもするっす!」


その力強い返答にシズクの瞳に涙が溜まる。

胸の奥に押し込めていた感情が、ゆきたんの真剣さに触れて溢れそうになった。


「そうだ・・私の仇! 父を殺した極悪人・・・とくにマツウラ外記とキリヤ左衛門尉。

あの二人の動向を必ず調べてきて。絶対に・・・見逃せない」


ゆきたんは尻尾をピンと立て、低く唸る。


「ぽん! 姫ちゃんをひどい目にした奴らっすね。徹底的に調べてくるっす。逃がさないっすよ」


その小さな体からは想像できないほどの意思と霊力が燃えあがる。

ゆきたんは式神として・・そして友として、シズクのために動く覚悟を固めたのだ。


そしてさっそく・・ゆきたんは行動開始!

抱きかかえられているシズクの腕の中から、ふわりと離れるとゆっくりと身体が透け始めた。


そう、ゆきたんは式神であり霊獣。

壁をすり抜けることも、身体を透明化(光学迷彩!?)して姿を隠すこともできるのだ。


白狸の小さな影は、牢屋の扉を幽鬼のようにすり抜け、

五稜郭の内部へと滑り込んだ。

まずは、この巨大な要塞構造を把握する必要がある。

ゆきたんは壁を無視し、一直線に駆け抜ける。

透明化しているため視覚には映らないはずだが、感受性の高い者には、

かすかな"霊気の揺らぎ"を感じ取れるだろう。


シズクとゆきたんは、常に仙術波動で通信を行っていた。

ゆきたんが見た景色は、ほぼ同時にシズクの脳裏へと流れ込む。


某未来的に言うなら・・

それはまるで戦闘ドローンのような連携だった。


-*- - - - - - *-



月城(月面都市)・五稜郭は、直径100町(10km)にも及ぶ巨大な五角形の月面要塞。

人類が持つ唯一の月面根拠地であり、

そして幕府に残された最後の直轄領にして、最終決戦の地でもある。

灰色のクレーターと荒涼たる大地の上で、要塞は地球を仰ぎ見ながら、ただ黙して佇む。


外界は真空、音ひとつない世界、まさに宇宙!

だが、その内部では人々の営みが脈打っていた。


要塞の中心部の大部分は、居住者たちが暮らす居住区、

その外周には航宙艦の停泊地と造艦工廠が広がり、

さらにその外側には、防衛を司る宙域奉行所が構えられていた。


明治維新政府に従わぬ者、

または元からこの地に根を下ろしていた者たち・・その数、およそ1万人。

彼らの暮らしと鼓動が、この月面要塞を静かに満たしていた。




小さな小さな白き狸・・"ゆきたん"

その身体がふっと淡く透け、壁をすり抜けていく。

そして・・彼は月城(月面都市)・五稜郭の中心、地下へと入り込んだ。


そこには・・要塞の心臓部ともいえる巨大な装置が鎮座していた。

無数の管が絡み合い、脈動するポンプのような機構が要塞全体へと伸びていた。

それは・・・"重力制御装置"。


月の重力は地球の六分の一。

このままでは生活するに支障をきたす。

そこで、この要塞の地下には、江戸幕府が総力を挙げて築き上げた"最高技術の結晶"が据えられていたのだ。


ゆきたんは透明化のまま、巨大なコアを見上げていた。

淡い光が脈打ち、要塞全体へと重力子(graviton)を送り出しているのだ。

これによって・・この要塞内の重力は地球とほぼ同じ、快適に暮らせる。



-*- - - - - - *-


余談であるが・・

この要塞を支える未知の技術、その源流は、はるか昔・・鎌倉の世にまで遡る。

その当時、天空から舞い降りた地球外知的生命体との衝突・・

後に史書で"外宙寇"と記される・・人類史上初の宇宙からの侵略であった。


鎌倉の武士たち、そして多くの陰陽師が力を合わせ、激しい戦いの末に侵略者を撃退した。

その折に残された残骸と装置が、後の航宙艦や重力制御技術の礎となったのだ。

(本格的に異星人技術の研究がはじまるのは・・秀吉の時代からである)


なお、念のため付け加えておく。

この外宙寇は、数年後に起こる蒙古来襲(元寇)とはまったく別の出来事。

史家の間でもしばしば混同されるため、特に注意が必要なのだ。


-- -- -- -- -- -- -- -- -- --



白狸"ゆきたん"は五稜郭の重力制御装置の全貌を仙術波動でシズクに送信したのち・・上層階へと駈け上がる。

通路では数名の作業員とすれ違ったが、

ゆきたんは透明化しているため、誰ひとりその存在に気づいていない。


シズクからの通信・・安堵の色を含んだ声だった。


「少し不安だったけど・・ゆきたんの姿、誰にも見られていないようで安心したわぁ」


ゆきたんは軽やかに階段を駆け上がりながら応じる。


『ぽんです! 姫ちゃん。状況、順調っす。このまま・・うちに任せるっす』


透明な影は、五稜郭の静寂を切り裂くことなく、軽やかに駆け上がっていった。



--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)



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