異星の航宙艦
五稜郭の地下深く。薄暗い静寂の中を、まだ人に知られていない秘密通路が伸びている。
おそらくこの通路を最後に(異星人が)使用したのは500年も昔の事だろう。
それ以来・・人間(異星人)は入っていないはずだが・・つくりはしっかりしており、老朽化しているようには見えない。
そんな通路の突き当たりで、シズクたち一行を待ち受けていたのは、二十町四方にも及ぶ、規格外の巨大ホール、いや・・格納庫であった。
しかもその巨大格納庫のど真ん中に鎮座するは、白く輝く巨大な鉄塊。
いや、それこそが異星の技術によって造り出された航宙艦なのだ。
常識を遥かに凌駕する異様な光景に、シズクたちはただ息をのむ。
「・・・っ、なんだ、これはっ!」
それは幕府が誇る航宙艦の、およそ5倍を越える圧倒的な存在感・・・
もはや艦というより、白亜の城そのものだった。
「全長は・・5町はあるぞ・・これ! 本当にデカい!
ねーちゃん、本当にこれ・・飛ぶのか!?」
巫女姫の装いに身を包んだ弟のシノブが、興奮を抑えきれず・・白い巨艦の周囲を、衣を揺らしながら走り回る。
「すごい! すごい! すごい! 真っ白なのも新鮮」
どれほど可憐に女装していようとも、その本質はやはり男の子。
巨大な乗り物を前に、心を躍らせずにはいられないのだ。
・・もっとも、かく言うシズク自身もまた、このような大きくて格好いい乗り物には目を輝かせてしまったりする。
とくに・・羽を広げたような流線形のフォルムは・・鶴を思い浮かべてしまうではないか!
「・・乗ってみたいよね!」
白狸の"ゆきたん"も弟シズクの後ろをちょこちょこと走り回り、尻尾をぴんと立てている。
「ひゃ~、でっかいっすねぇ!
姫ちゃん、これ動いたら絶対やばいっすよ!」
そんな浮かれた空気の中で、ただ一人だけ異なる空気をまとっている者がいた。
ジロウ君である。
彼は刀の柄にそっと手を添え、付近一帯に鋭い視線を巡らせていた。
つい先ほどまで楽しげにはしゃいでいた姿とはまるで別人だ。
何かを警戒しているのか!?
あの美しき航宙艦に心を奪われることなく、冷静さを保っているあたりは、さすが大江山の英雄と言うべきだろう。
(今、はしゃいでいる弟シノブも英雄と呼ばれてるのだけどw)
もっとも、その彼の瞳だけは違っていた。
好奇心に満ちあふれ、今にも未知の世界へ飛び込んでいきそうなほど輝いていたのである。
これは一種のやせ我慢なのか。
それとも、こういう状況だからこそ、なおさら警戒を怠らないという彼なりの流儀なのか。
真相は本人のみぞ知る。
だが少なくとも、胸の高鳴りを隠しきれていないことだけは誰の目にも明らかだった。
-*- - - - - - *-
シズクは、脳裏に流れ込んだ異星人の記憶をそっとたぐってみた。
彼らの言葉によれば、この巨大な航宙艦の名は"リュシニアクヌ"
名前に意味はなく・・どこか遠い星の地名をそのまま冠しただけらしい。
「ちょっと、舌をかみそう。あとで呼びやすい名前に変えましょうね」
記憶はさらに続く。
この"リュシニアクヌ"は、恒星間航行すら可能な多目的航宙艦。
輸送、探索、製造、戦闘支援、植民・・・
異星文明が星々を渡るために造り上げた、まさに"万能の白い巨艦"。
「かっこいいかも♡」
シズクは興奮を抑えきれず、巨艦のまわりをぐるりと一周してみる。
だが・・・入り口が見つからない。
念のため二周、三周・・・
どれだけ歩いても、艦はただ無言に白い壁を見せるだけだった。
どこにも"入口らしきもの"が存在しない。
これは・・困った!
そこで・・シズクは立ち止まり、静かに目を閉じる。
そう、あの異星人の記憶を探るのだ。
やがて、脳裏にひとつの情報が浮かび上がってきた。
思い出した、というより"検索"したと言うべきか!?
この航宙艦には、合言葉による認証が存在していたのである。
<< 白い羊の毛玉さん。糸はもっているかい!? >>
意味不明にもほどがあるような合言葉。
もっとも意味不明だからこそ、合言葉になったのだろう。
異星人の世界に羊がいるのか・・・そんなツッコミすら浮かぶ。
だが問題はそこではない。
これを・・"異星人の発音"で言わなければならないという点だった。
シズクは思わず息を呑む。
どう考えても無理だ。
日本語の発音体系とはまるで違う。
いや・・・人類の発音体系とも違うかもしれない。
ためしに何度か・・発音してみたが、無理だった。
かなりの練習が必要かも・・そもそも発音できるのか!?
焦りが胸をかすめたその時、
横から“ゆきたん”がちょん、と指を立てた。
「うちがやるっす」
そうだ。
ここには式神の"ゆきたん"がいたのだ。
そもそも"ゆきたん"は人ではない"霊獣・・神"なのだ。
人間が発音できない音でも、ゆきたんなら可能のはず。
「・・・うん、頼むよ。じゃ・・私の持っている異星人の記憶を渡すね」
すぐさま・・シズクは仙術波動を展開すると、自らの脳内に刻まれている異星人の記憶を、"ゆきたん"へと転送し始めた。
記憶の容量は膨大だった。
アップロードにはかなりの時間を要したものの、移植そのものは無事に成功したようである。
これで異星人の知識と記憶を共有できるようになった。
あとは実践あるのみだ。
"ゆきたん"は胸を張り、得意げに口をとがらせた。
「うちにまかせるっす。では・・・発音しまっす!」
そう宣言すると・・人間の発音ではない不思議な響きの言葉が耳に入ってくる。
それは遥か彼方の星々で使われている異星人の言語なのだろうか!?
『 ꯑ⟟ꯄꯕꯣꯜ⧘꯫⟴ꯅꯉꯒꯤ✧ꯑ⧖ꯄ⟡ꯤ⟴ꯀ⟠ꯄꯥ⟰ꯉꯒꯑꯃ⟊ꯠ⟴ꯇꯥ⟢ꯑꯃꯠ≀ꯇꯥ⟟ꯂꯩꯕ꯭ꯔᚖ 』
その瞬間・・・・カチリ。
乾いた機械音が響き、航宙艦の下部にある滑らかな外殻がゆっくりと割れ、巨大なハッチが "バカッ"と開いた。
「やったね! ゆきたん」
シズクとシノブは大喜びで手を叩き、ゆきたんは胸を張って・・きめ顔を決める。
一方で、ジロウ君はただ一人、表情を引き締めていた。
開いたハッチをじっと見据え、静かに警戒の度合いを上げていく。
彼はどんな状況でも油断を許さない。その姿勢だけは、誰よりも揺るがなかった。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




