巫女姫
キリヤ左衛門尉は烈火のごとくオキタ・ソウジロウを睨みつけるが・・・
その本人は困ったように頬をかく。
「おなごは斬れません! 俺の剣は・・・おなごを斬るためのものではないのです」
その言葉に、左衛門尉の顔が一瞬こわばる。
「はっ!? 何を言っているのだ」
彼にとって切り札とも言うべき男が、戦うことを拒むとは想定外だった。
左衛門尉はさらに声を荒げた。
「おなごだと!? あれはシノブ侍従だ! 貴様も男だと知っているだろ!」
しかしオキタは首を振り、淡々と続ける。
「俺は見た目で性別を判断する。姫巫女の装いで、可愛いと感じたらそれは・・おなご!
斬れんのだ。俺におなごを斬る趣味はない」
その言葉は、左衛門尉の怒りをいっそう掻き立てた。
「な、なにっ! ふざけているのか!
開拓奉行たる・・わしに逆らうというのだな」
オキタは困惑を隠せぬ表情で答えるだけだった。
「そう言われましても・・・困ります」
-- -- -- -- -- -- -- -- -- --
そう・・・これこそ巫女姫に女装したシノブの策略だったのだ!
ジロウ君の性格を見越した巧妙な計算!?
彼は女を斬れない。
ついでに男であっても・・女装が似合えば、斬ることができないと知っていたのだ。
「計画通り・・・」
シノブの囁きが、誰にも聞こえないほど小さく胸の内で響く。
オキタ・ソウジロウは鞘から手を離すと、左衛門尉の傍らから静かに離れ、後方へと下がった。
剣を抜かぬその所作は、戦う意思の放棄を宣言するものだった。
彼の心情は明快だ。宮使いとしての立場から、左衛門尉に従ってきたに過ぎない。
だが、シノブ侍従とシズク姫は昔からの知り合い、しかもこの姉弟は将軍家の血筋、マキビ家の出自である。
斬るべき相手ではないと、オキタは本能的に知っていたのだ。
「申し訳ないが、ここで剣を振るうつもりはない」
オキタの声は低く、白いドームにこだました。
「くっ! あの陰陽師に続いて、貴様までもがっ・・
使い物にならん奴らだ! 」
キリヤ左衛門尉は激しく床を踏み鳴らし、後方に退いたオキタを睨む。
左衛門尉にとって・・これは極めてまずい状況!
切り札となる二人の者が戦わずにして、離脱してしまったのだ。
戦力の天秤が、大きく横に傾き始める。
このままでは返り討ちにされてしまうだろう。
やばい! 不利だ。
巫女姫の姿を借りているとはいえ、その正体はシノブ侍従。
大江山にその名を轟かせた怪物!
侍従は、すでに太刀を鞘から抜き放っている。
冷たい刃が白光を放ち、その切っ先はキリヤ左衛門尉配下の家臣、十数名へと向けられている。
だが・・誰も動かない。
いや、動けないのだ。
シノブ侍従の身体から放たれる仙術特有の波動が、圧倒的な威圧感となって、彼らを支配していた。
まるで巨大な獣を前にしたかのように、左衛門尉の家臣たちは息を呑み、その場に釘付けとなる。
さすがは大江山の英雄。
幾多の鬼を討ち滅ぼしてきた・・男の巫女姫の 風格は伊達ではない。
剣を振るうまでもなく、見せるだけで敵を屈服させる。
その存在感だけで戦意を削ぎ取ってしまうのだから、まさに規格外だった。
そんな弟の 雄姿を見て、シズクも負けてはならないと思った。
(見た目がそっくりですからねw)
-- -- -- -- -- -- -- -- -- --
こうして左衛門尉配下の家臣たちは、もはや戦力として完全に機能を失った。
この場に残された脅威は・・ただ一人。
シノブ侍従とシズク姫、その二人の前に立つ男。
父の仇。すべての元凶。
そして、この戦いにおける最後の敵・・キリヤ左衛門尉。
シズクは静かに視線を細める。
長き因縁に終止符を打つ時が来たのだ。
憎悪と復讐、そのすべてを込めて・・
この場で、キリヤ左衛門尉に最後の一撃を叩き込む。
「ゆきたん! 復讐の時がきた。やってしまえ」
シズクの掛け声とともに、透明化を解除した白き狸は・・・
その身体を膨らませ、人間ほどの大きさへと姿を変えた。
そして次の瞬間、ゆきたんは地を蹴る。
パタパタパタパタパタッ!
白い影が弧を描きながら疾走し、キリヤ左衛門尉の背中へと迫る。
その勢いは、もはや弾丸そのもの!
容赦なきタックルを・・背中から叩き込まれたのだ。
「ぐうぁっ!」
やせ型の身体に、人間一人分にも匹敵する重量が背中に激突!
その衝撃で身体は宙へと跳ね上がった。
いきなりの事でなにが起きたか分からない左衛門尉は、手足をばたつかせて空を掴もうとする。
だが、掴めるものなどどこにもない。
そのまま・・前方に跳ね飛ばされ、シズクたちの背後にそびえる、巨大水槽へと激突した。
鈍い衝撃音がホールに響き渡り、空気が一瞬にして凍りつく。
キリヤ左衛門尉が激突したのは・・・
呪われた異星人が"ぷかぷか"浮かぶ、あの巨大水槽だったのだ。
その瞬間、シズクはゆっくりと目を細める。
これは偶然ではない。
彼女が張り巡らせた復讐の罠。
父を奪った左衛門尉に、異星人の呪いを叩き込んだのだ。
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




