ウズマサ式部
封印された扉の奥・・・
仙術によって外界から隔絶されたその領域にて、シズクたちはすでに気づいていた。
キリヤ左衛門尉の一派が、ついに"見えぬ扉"を突破し、内部へ侵入してきたことを・・・
その脅威を最初に捉え行動をおこしたのは、白狸の"ゆきたん"だった。
半透明となり視界から消えたゆきたんは、素早く通路を駆け抜け、侵入者たちの存在を確認する。
そして・・・
即座に見たものを、脳内通信によってシズクとシノブへ送り込んだのである。
つまり・・ゆきたんが見たものが、そのまま二人の脳裏に流れ込むというわけなのだ。
まるで自分たちがその場に立っているかのような鮮明さで・・・
シズクはわずかに口元を吊り上げた。
「ふっふふ これは面白い。
奴らの方から、わざわざ飛び込んできてくれるとはね」
しかし、映像の一角に映った影を見た弟シノブは、鋭く目を細める。
そこには、見覚えのある影が映っていたのだ。
「でも、ねーちゃん・・あの中に"ジロウ君"がいる。あいつは要注意だよ」
シズクはすぐに視線を送り、キリヤ左衛門尉の背後に立つ人物を確認した。
「・・あっ、見えた。
ジロウ君。うわぁ、厄介だ・・いや、待てよ!
その後ろの公家・・いや、陰陽師か!・・彼から、かなりの仙術能力を感じるというか・・
あれは・・ウズマサ君だ。なつかしいね・・ではなくある意味・・ジロウ君より怖いかも・・」
ゆきたんの目を通して・・その陰陽師を覗き込んだ瞬間、シズクは息を呑んだ。
彼・・ウズマサ君がこちらに振り向き・・強烈な視線を浴びせかけてきたからだ。
まるで透明化したゆきたんの存在を、正確に捉えているかのような鋭い睨み。
「まずい、透明なのに・・ゆきたんの存在がばれてる。逃げろ! 撤収だ!」
『了解っす。逃げるっす』
"ゆきたん"は即座に反応し、その場から影のように離脱した。
その素早さは、まさに狸。すばしっこい動きだった。
シズクは、ゆきたんからの映像を確認しながら、低く息を吐く。
「あの・・ウズマサ君の仙術能力は高い。まずいね。
でも、友人というか同級生に牙を向けるのかな・・!?
いやいや、宮使いの身なら、しぶしぶでも襲ってくるかもしれないけど」
状況を冷静に分析しつつも、わずかに迷いが滲む。
だが、次の判断は迷いなく下された
「仕方がない! 奴らを"あのホール"へ誘い込もう。そこで迎撃するのが、こちらとしても都合が良い」
弟シノブはそのシズクの提案に力強く頷いた。
「ああ・・あの呪いを使うんだな」
「そうよ・・なかなかの見物になるかも」
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一方・・
封印された領域へ踏み込むキリヤ左衛門尉率いる一団。
その列の中で、若き陰陽師"ウズマサ式部"は、ただ一人、深い思考の淵へ沈んでいた。
先ほど感じていた・・出所不明の仙術波動と、それらに混じる鋭い"視線"の感触。
さらに、常人では察知できないほどの式神特有の僅かな気配。
ウズマサは確信した。
敵方に完全に気づかれている。
しかも、ただの敵ではない。
大江山の鬼退治で名を馳せた英雄、シノブ侍従・・・
あの男が、こちらを監視している。
そしてもう一人。
同級生としてよく知る、シズク姫の陰陽能力。
彼女が本気で術を展開しているなら、
この地下監獄はもはや"ただの施設"ではない。
難攻不落の要塞と化し、侵入者を迎え撃つための術式が張り巡らされているはずだ。
ウズマサは胸中で呟いた
・・これはまずい。
・・さわらぬ神に祟りなし。
・・それに、将軍家・御緒四家のひとつ"マキビ家"に弓を引くなど、本来許されぬ行為なのだ。
彼は静かに歩みを止め、雇い主であるキリヤ左衛門尉に向き直った。
「左衛門尉殿、これ以上・・わたくしは進めません。
方違えに反します。方違えは陰陽師にとって"理"そのもの。
ゆえに私はここで、皆様のお帰りを待たせていただきます」
もちろん、これは方便。方違えなど本当は関係ない。
だが、陰陽道に疎い左衛門尉なら、この理由で押し切れる・・ウズマサはそう踏んでいたのである。
そして、このような離脱宣言に、左衛門尉は怒気を含んだ声で返してきた。
「ここで待つなど許さん!
そもそもここは月面だぞ。方角もへったくれもあるか! 何が方違えだ。迷信だろ! 平安の風習だろ」
怒号が通路に響く。
だがウズマサは揺らがない。
冷徹な声音で、静かに理を返した。
「方違えに背けば・・陰陽師としての力を失います。ウズマサ家代々の家訓でもあるのです」
その声音は、
まるで自らの命より"理"を重んじる者の確信そのものだった。
左衛門尉は舌打ちし、吐き捨てるように言った。
「家訓だと・・・!?
ちっ、だから京の者は使えんのだ。もういい、帰れ。
やる気のない者など不要だ」
ウズマサは深く頭を下げた。
だがその胸中には、助かった・・・という安堵が満ちていた。
君子危うきに近寄らず。
五稜郭地下、封印された通路にて・・
シズク・シノブを追うキリヤ左衛門尉の一団に、決定的な亀裂が走ったのであった。
のちに・・・この一件を知ったシズクは、胸の奥でそっとウズマサ君へ感謝を抱くことになる。
「やっぱり・・彼は友達だった。私との戦いを避けてくれたんだね♡」
そう呟いた声には、安堵と少しの温かさが混じっていた。
ただし・・厳密にいえば、彼が避けた理由は"友情"だったとは限らない。
むしろ、シズクとシノブがあまりにも恐ろしくて、関わりを避けた可能性のほうが高かったりするw
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




