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追跡する


複雑に通路が交差する五稜郭地下監獄・・

その迷路のような構造の中へ、幕府軍数百名とキリヤ左衛門尉の一派が雪崩れ込むように入り込んでいく。

金属音、足音、灯りの揺らぎ。

だが、どれほど兵を送り込み、どれほど通路を踏み荒らそうとも・・・シズクたちの影は、どこにも見つからなかった。


理由はただひとつ。

彼らが身を潜めているのは、

"封印され、視認すらできなくなった扉の向こう側"・・仙術によって存在そのものが隠された領域なのだ。

発見するのは至難の業、シズク以上の仙術能力が必要とされる。




その頃・・

五稜郭の一角にある屋敷にて、マツウラ外記は、静かに盃を傾けていた。

恰幅の良い大柄の体躯、五十路を越えた男の表情は微動だにしない。

地下で渦巻く混乱も、幕府軍の奔走も、すべては想定の範囲内に収まっている。

家臣たちが次々と報告を述べる中、外記は盃を卓へ置き、低く重く呟いた


「シノブ侍従に・・シズク姫。ほう、まだ見つからぬか。

やはりあの姉弟、並の手勢で捉えられる者ではないわ」


外記は盃を一口含み、目を細めた。

シノブ侍従は・・大江山の鬼退治で名を馳せた英雄。

個人でありながら、戦闘マシーンと呼ばれるほどの存在。

不用意に挑めば、兵がいくらあっても足りはしない。


さらにシノブ侍従の父親・・処刑した"マキビ参議"を信奉する者たちが、今だに多くいるのだ。

地下の混乱に乗じて何かを仕掛けてくる可能性もある。

・・マツウラ外記はそのすべてを冷静に見据えていた。


「・・・まだ始まったばかりよ。油断など、できるはずがない。

あの姉弟・・いずれわしの命を狙ってくるのだからな!」


その声音は、屋敷の空気を震わせるほど重く、五稜郭の未来を予言する言葉のようであった。



-- -- -- -- -- -- -- -- -- --


一方、シズクたちは仙術によって封印されている扉の向こう・・

隠された領域で息を潜ませているわけでもなく、いつもの調子で元気よく動き回っていた。


シズクにかけられていた呪いは・・ほぼ解呪されており体力も回復してはいるものの・・しばらくは安静。

その隣では弟シノブが素振りの鍛錬をしていた。

刀を振るたびに、空気が鋭く裂け規則正しい音が響く。


そして・・・

その動きを真似するが如く白狸の"ゆきたん"も不器用に素振りをしていたw


ふわふわの尻尾を揺らしながら、まるで"自分も鍛錬するのだ"と主張せんとばかりに・・・


シズクは思わず笑みをこぼし、

シノブは鍛錬の合間にちらりと視線を向け、ゆきたんの必死な素振りに肩を震わせる。


「ふっ・・・ふふふ」


その場には、なんとも言えない和やかな雰囲気が満ちていた。


・・・しかし、扉の外はまったく違う。



地下監獄では、幕府兵たちが緊張を抱えつつも、比較的冷静に、迅速に動いていた。

怒号も混乱もない。

ただ、規律正しい報告の声が通路に響きわたり、兵たちは持ち場を確実に巡回していく。


数多くの牢屋、複雑に入り組んだ通路。

どこかに潜んでいるはず・・その確信があるからこそ、兵たちは焦らず、順序立てて探索を続けていた。


「第二層、異常なし」

「次、第三層通路へ移動する」


淡々とした声が重なり、地下監獄は静かな緊張に包まれていく。

混乱ではなく、組織的な捜索。

幕府兵たちは、冷静に、確実に二人の行方を追っていた。



その中で・・・

キリヤ左衛門尉は、次男シュウジの仇を討たんとする執念に燃え、

シノブ侍従の痕跡を・・執拗に追い続ける。

その眼差しは兵たちの冷静さとは異なる、もっと個人的で、もっと切実な怒りなのだ。



そして左衛門尉は、こうした事態、行方をくらます可能性を想定し、切り札というべき人物を同行させている。


それは若き陰陽師でもある・・"ウズマサ式部"。

京の都・陰陽寮学院館にて陰陽学師の学位を授かった才人。


その身に宿す陰陽師としての能力は、常人の域を遥かに超え、

この地下監獄に潜む"隠された領域"を、微かとはいえ仙術波動によって感じ取っていた。


キリヤ左衛門尉は立ち止まり、

冷たい鉄壁に響くほどの低い声で命じる。


「式部殿・・貴殿の眼で、あの姉弟の影を暴いてみせよ」


「はっ!」


若き陰陽師は、淡く光を帯びた式札を指先で軽く弾くと・・

その瞬間、札に宿る術式が共鳴し、彼の波動感知能力が一挙に強化された。


それは五稜郭の地下深く・・・

闇の底に潜んでいた"新たなる気配、波動"が浮かび上がってきた。

その波動は、ほんの微かな揺らぎ・・・だが、この陰陽師は、その波動の流れから確かな道筋を読み取り、迷いなく地下通路を突き進んでいく。


まるで最初から場所を知っていたかのような、確信的な足取りで・・・


そして、封印された扉の前へと辿りついたのであった。

ただし、その扉は常人には見えない。



ウズマサ式部は・・その波動だけで、ここにたどり着いたのである。

そう、彼の仙術能力はシズクに匹敵するほど強大で、隠蔽の術をも容易く見破るほどの精度を備えていたのだ。



しかるに・・彼は式術を発動する。

すると、それまで存在していなかった"扉"が、まるで霧が晴れるかのように姿を現した。


「左衛門尉様・・秘密の部屋を見つけました。扉を開けます」


低く響く声とともに、扉は音もなく開いた。

眠りから目覚めるかのように、闇の奥へ続く道が姿を現す。


その光景を前に、キリヤ左衛門尉をはじめとする家臣たちは、思わず顔を見合わせた。

なぜ地下監獄の中に、このような秘密の扉が存在するのか。

誰一人として、その理由を理解できなかったのである。


だが、彼らは・・知らなすぎた。


この五稜郭は・・"異星人の造った古代遺跡"の上に築かれていることを・・・

そして、この扉こそが・・・その遺跡へ通じる封印された出入り口であることを・・


もっとも、この事実は秘匿された極秘情報ではない。

関連する書物に目を通せば、誰でも知り得る程度の知識なのだ。


しかし、左衛門尉も家臣団も、その手の学問とはあまり縁がなかった。

要するに、勉強不足である。


ただ一人、陰陽師ウズマサ式部だけは、ある程度その事情を理解していたのであった。


-- -- -- -- -- -- -- -- -- --


闇の奥へと続く扉が開かれた瞬間・・・キリヤ左衛門尉は息を呑んだ。

そう、言わずとも分かるのだ・・・あの"シノブ侍従"が、この奥に隠れていることを!


「ここからが決戦、正念場だな!」


左衛門尉の背に、冷たい汗が一筋流れ落ちた。

相手は大江山の英雄にして、化け物と恐れられた男。

だが・・・こちらにも切り札がある。


同じく・・大江山で名を馳せた英雄"オキタ・ソウジロウ"。


彼は腰の太刀の柄を静かに握りしめ、その表情には緊張が滲んでいた。

ただの戦闘前の緊張ではない。

胸の奥をかすめる、嫌な予感・・・。


オキタは感じていた。

この扉の向こうに潜む"何か"は、ただの敵ではない。

鳥羽・伏見の戦いで死線をくぐったあの時よりも、さらに危険な闇が待ち受けていると・・!


その胸のざわめきは、警鐘のように彼の内側で鳴り続ける。

だが、その懸念を抱いているのはオキタだけだった。



キリヤ左衛門尉は家臣団十数人に周囲を守られながら・・扉の中へと足を踏み入れた。


すると・・シズクの時と同じく・・あの封印された扉が、すっと視界から消え失せる。

キリヤ左衛門尉は振り向き・・驚愕するが、同行していた陰陽師が「問題ありません」と静かに告げると、それ以上の追及はしなかった。


左衛門尉にとって重要なのはただひとつ。

次男・シュウジの仇を討つこと。

それこそが最優先すべきだと考えていたからである。





--------------------  To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




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