触るな!
五稜郭の地下深く・・地表の気配すら届かぬ静寂の奥で、
シズク、シノブ、そして白狸の"ゆきたん"は、その歩みを止めた。
そこに横たわっていたのは、かつての月面探検家マミヤ・リンゾウが発見し、
あまりの異質さと不気味さゆえに忌避し・・先人たちによって封印された"禁じられた遺跡"。
仙術によって扉そのものを不可視にし、
歴史の記録から存在ごと消し去ろうとしたほどの異様な存在。
そして今、二人と一匹の視線の先に広がるのは、
人類の文明とはまったく異なる、異星人が残した異様なテクノロジーだったのだ。
そこは、白く輝く巨大なホール。
光源のないはずの空間が、淡く輝き白光に満ち溢れている。
その中では、いくつもの透明な立方体が静かに宙に浮かんでいた。
まるで、暗い宇宙に散らばる星々のように、淡く光を放つ。
その表面はガラスのように澄み切り、触れれば消えてしまいそうなほど繊細・・・
立方体から伸びる無数のケーブルは、互いに接続し・・生命線のように脈動している。
「これが・・異星人文明、すごい・・・」
「何と・・幻想的なのか!」
シズクとシノブは驚きと感嘆を隠しきれず、まるで探検に夢中になる子どものように、異星文明の遺構・・・浮遊する立方体や奇妙な装置の数々に手を伸ばし、触れ、確かめずにはいられなかったのだ。
「これだけの技術力を持つ異星人が・・・六百年前に攻めてきていたというのか!」
弟シノブは立方体を見上げながら、低く唸る。
「当時の朝廷や鎌倉殿たちは、こんな連中を押し返したんだよね。
・・ご先祖様たちに頭が下がるよ」
「そうだね。当時の陰陽師や武士団は・・・想像を超えるほど強かったんだろう」
二人はガヤガヤと興奮気味に語り合いながら、
光の揺らめくホールの奥へと歩みを進めていく。
だが・・・
そのホールの中央へ差しかかった瞬間、二人の足はぴたりと止まり、顔色を変えた。
そう、空気というか・・ある種の厳粛さがあったのだ。
そこにあったのは、円筒形の巨大な水槽。
内部は完全に密閉され、淡い光に照らされた水の中で、"人間に似た生物"が静かに浮かんでいたのだ!
その者は・・動かない。
意識の気配もない。ただ、深い眠りの底に沈んでいるようだった。
「「こ、これは・・・!!」」
白狸"ゆきたん"は毛を逆立て、
シズクとシノブは息を呑み、思わず後ずさる。
彼らは見てしまったのだ。五稜郭の地下に封じられてきた、異星人の姿を・・・
それは・・・円形の巨大水槽に入っている人間に酷似した生物。
確かに人間に似ている!
・・どちらかというと西洋人より日本人に近い顔立ち・・・ただし耳が尖っている。
髪は青く長い・・性別は不明。
シズクは恐る恐る歩み寄り、
吸い寄せられるように水槽へ手を伸ばした。
それは好奇心、指先が触れた瞬間・・・
「・・・うっ!」
背筋を氷の刃が走った。
これは恐怖、そして警告。
水槽の中の"あれ"が、わずかに目を開いたように思えた。
そして・・シズクは直感し後悔した! 失敗した!
これは・・・
「まずい! やってしまった! 呪いだ・・・触れてはならないものだったのだ。
なんてこと・・呪いの直撃を受けてしまった!!」
のけぞった拍子に尻もちをつき、同時に猛烈な頭痛が襲いかかる。
視界が揺れ、地面を転がる。
まさに・・七転八倒。
「うっああぁぁぁ」
このような痛烈な痛み、生まれて初めて・・・これはヤバい。まずい。死の予感!
痛みで・・涙と鼻水が溢れ出る。
姫君としてはあり得ない状態。
「ねーちゃん!」
弟シノブがすぐに駆け寄り、"ゆきたん"も必死に体を支える。
シズクは仙術の一つ・・治癒術を行使するが、あまり効果がでない。
呪いに対して治癒術は効かないのだ。
荒い呼吸のまま、シズクは状況を、ある程度理解する。
水槽の異星人はすでに死んでいる。
だが・・呪いだけは生き続けていた。
先人たち(探検家マミヤ・リンゾウ)が封印した理由が、痛いほど分かる。
それでも、呪われたのが自分だったのは不幸中の幸い。
弟シノブが呪われれば・・即死だったかもしれない。私だからこそ耐えているのだ。
シズクは震える手で式札を取り出し、
よろめきながら"解呪"を試みる。
解呪は陰陽師のお家芸なのだが・・この呪法は地球外文明が由来。
果たして通用するのか・・・!?
不安はあったが、もう迷っている余裕はない。やるしかない!
式札を次々と取り出し、
自らの身体へ貼り付けていく。
呪いが全身へ回り切る前に、食い止めるのだ。
しかもその過程で・・・
呪いをかけた異星人の"意識"というか"記憶"が、呪いの破片とともに・・シズクの脳裏へと流れ込んでくる。
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彼ら異星人は自らを "イグヌス=ヴァスル" と呼ぶ。
意味は・・・銀河の放浪者。
かつて自分たちを生み出した故郷の地(惑星)を探し求める武装集団。
そんな彼らは、漂流の果て、六百年前(鎌倉時代)に偶然地球を発見し、
自分たちとDNAが似ているという理由だけで侵略を開始した。
星間文明の来訪としては、あまりに雑で、あまりに傲慢だった。
だが後の調査で、生物的にまったく関係がないと判明すると・・・侵略をあっさり中断し去っていく。
ちなみに・・この水槽に見える装置は、彼ら異星人の文化では棺、棺桶・・・
高貴な者だけが許された、ある種の"しきたり"に基づく"葬送の器"だったのだ。
そして・・・当然のごとく、高貴な人物の棺はある種の神域となる。
不用意にさわれば・・魂そのものを蝕む、恐るべき呪いが発動する仕組みなのだ。
これは銀河文明の常識、決して忘れてはならない禁忌。
(例・・ツタンカーメン!?)
シズクは呪いで身体をこわばらせながら、
弟シノブに抱えられたまま、かすれた声で吐き捨てた。
「呪いのトラップ! なんて、はた迷惑な・・・連中!」
異星人の記憶を得たとはいえ、それは六百年前の情報にすぎない。
それでも銀河宇宙の情勢や技術体系を理解できたのは素晴らしいことだ。
知識欲を満たしてくれるではないか!
さらに・・この遺跡の構造を把握できたのは・・不幸中の幸い!?
いやまて・・いまだ絶賛不幸中だ。
「そう、呪い、呪い! この呪いは・・・まずい。
呪詛返しもできん。いや、呪い手はもう死んでいるのだ。さすが異星人由来・・」
その言葉に、弟シノブの顔が一瞬で焦りに染まる。
彼は迷いなくシズクを背負い上げ、白いドームから離れようと駆け出した。
あの浮遊する透明な立方体・・・
彼はあらためて、そこに潜む"禍々しさ"を感じ取ったのだ。
いっそう・・破壊すべきか!?
だが、未知の文明の遺物だ。
何が起きるか分からない。
判断を誤れば、取り返しのつかない事態になる。
だからこそ、まずは距離を取る。
それが最優先だった。
そして・・・
ドームから離れるほどに、シズクの呼吸が整い始める。
頭痛が薄れ、身体に絡みついていた呪いの断片が、霧のように抜け落ちていくのが分かった。
シズクは荒い息のまま、低く呟く。
「これが・・・異星人の呪殺。おそるべし!」
白狸"ゆきたん"は毛を逆立て、シノブは背中の姉を支えながら周囲を警戒する。
あのドームに満ちていた呪いは、ただの術ではない。
異星文明が残した"死の残滓"
人間の理解を超えた呪詛だった。
本来なら、近づくべき場所ではなかったのだ。
だが、その代償と引き換えに得たものは、あまりにも大きい。
シズクは呪いとともに、
あの水槽に沈んでいた異星人の"記憶"をも受け取ってしまったのだ。
おそらく推測するに・・あの呪い手の異星人、その本人が死亡しているため、強力な呪力とともに
その者の記憶までもがへばりつき、こちらに飛んできたのかもしれない。
それにしても・・嬉しいではないか!
この記憶には、お宝というべき存在と、その所在も刻み込まれていたのだ。
「私・・異星人の記憶を得たのよ!
この月面には六百年前・・異星人の航宙艦がそのまま放置されている」
「んっ!? ねーちゃん・・どういうこと!?」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




