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アトラスハウス ~竜狩りの機兵と、蛮族な嫁たち~  作者: 雨宮ソウスケ


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第一章 精霊世界・ラスティリア④

 しかし、現実はあまりにも非情だった。


 五日後の夜。森の中。

 ラグは押し倒され、口を片手で塞がれていた。


(なんでッ!? なんでえッ!?)


 愕然として目を見開く。自分よりもずっと体格の大きな男が馬乗りになっている。両腕は上げた状態で別の男に掴まれ、足もまた強く掴まれて身動き出来なかった。

 四人の男たちが横たわる彼女に群がっていた。

 そうして、


「なあ、ラグよぉ」


 馬乗りになった男が顔を近づけてくる。


「悪りいな。マジで悪りい。俺らも随分とだいぶ溜まってんだわ。だから、まあ、ちょいとだけ俺らの相手をしてやってくんねえかな?」


「――ッ!? ッ!?」


 まさかすでに女であることがバレてしまっているのか。ラグは一気に青ざめる。


「お前が女みたいな顔をしてんのが悪いんだぜ? 団員同士のいさかいはご法度だからな。娼婦代わりの金は払うさ。だから俺らにちょいとケツを貸してくれよ」


(―――――な)


 もはや女だとか関係のない話だった。

 ラグは涙を滲ませて体を動かすが、男が四人がかりだ。身動きも取れない。

「さてと」馬乗りした男は舌なめずりをすると、空いた手でラグの胸元を強く掴んだ。そのまま力任せに引き裂いた。


「………は?」男は流石に目を丸くした。

 剥き出しになった褐色の肌。そこに小ぶりながらも確かな双丘があったからだ。


「おいおい! マジかよ!」


「ははっ! こいつはまさかだったな!」


「やっぱな! 俺はずっと怪しいと思ってたんだよ!」


 男たちは、ゲラゲラと笑う。

 ラグはただただ涙を滲ませた。


(なんで、こんな……)




 ――時間は少し遡る。

 それは昼を少し過ぎた頃だった。


『ここに待機して五日目か』


 おもむろに男の一人が呟いた。現在、ラグに馬乗りになっている男だ。


『ラグの奴もそろそろ調べ終えた頃合いか?』


『おう。今日にも帰ってくんだろ。あの規模の都市だ。獲物は多いだろうな』


 別の男が酒を呷りながら、ニタリと笑った。

 そこは巨大樹の森の中。男たちは四人いた。傍らには停車する旅団車両クランモービル、キャリアの上には待機する四機の精霊機兵アムドエレムの姿がある。

 一つの部隊チームである男たちは旅団車両クランモービルの装甲に背を預けながら、談笑していた。


『しかし案外使えるガキだよな。あいつって』


『そうだな。精霊素エレムのタンクぐらいしか思ってなかったが、拾いもんだった』


 男たちは言う。必要以上に警戒される男たちに代わって街に侵入するのがラグの役目だ。郵送屋は偽装であり、正体は男たちの部隊チームの一員だった。

 侵入したラグは他都市にまで商売を広げている大規模な商会をピックアップし、その動向を調べあげる。他都市へと旅団車両クランモービルで移動するタイミングを襲撃するためだ。


 男たちが所属するのは傭兵を稼業にする旅団クランだった。


 それは決して嘘ではない。国や都市間の戦争に幾度も参戦した。ただ、彼らには裏の顔もあるのだ。男たちの本業は強盗団ローバーだった。それも相当に悪名高い集団だ。

 ここにいるのは斥候部隊チームの四人だけだが、別の場所には本隊である旅団車両クランモービルが数台待機している。総員で四十名を超える強盗団ローバーだった。しかも傭兵であることは事実のため、二つ名持ちさえ所属している武装集団である。

 旅団クラン名を《自由の翼(フリーダム)》といった。


『けど、街に寄れねえのはかなり辛いよな』


 岩を椅子替わりにした男の一人が深々と嘆息した。


『何より娼館にもいけねえのがなぁ』


『まあ、この付近じゃあ結構派手に暴れちまったしな。俺らは面が割れてる可能性もある。街に行くのはリスクがあるからな』


 酒瓶を片手に、別の男が渋面を浮かべた。


『ああ~、どっかに女が落ちてねえかな? どうか襲ってくれって感じの』


『いやいや。流石にそれは中々いねえだろ』


 パタパタと男の一人が手を振った。と、その時。


『……なあ』


 不意に男の一人がポツリと呟いた。


『それなら、もうラグでいいんじゃねえか?』


『『『………は?』』』


 他の三人がその男に注目した。


『いや、あいつって女みてえな顔してんだろ』男は言う。


『まだガキだから体も小柄で華奢だしな。代用品にはなんじゃねえの?』


『うわ。外道だな。お前』


 男の一人が呆れたようにツッコむ。


『仮にも同じ団員だぞ? 何だかんだでもう三年になる付き合いの』


『別にいいじゃねえか。俺らに仲間意識なんて期待すんなよ』


『はは、違いねえ。クズの癖にって感じだよな。いや、むしろ「いいじゃねえか、仲間だろ? 俺たち?」って感じか?』


 別の男が笑いながらそんなことを言った。が、改めてあごに手をやり、


『う~ん、けど、真面目な話、そいつは案外いいアイディアかもな』


 そう呟いた。男たちは互いの顔を見合わせた。


『まあ、ここは俺らでこっそりお試しってことでいいんじゃねえの?』


 独り言のようにそう告げた。

 そうして――……。




「ラグちゃん(・・・)よぉ」


 ラグに馬乗りになった男が顔を近づけてくる。吐息がかかり、ラグは全身を硬直させた。男はニタリと笑うと、ラグの首筋に舌を這わせた。


「安心しな。お前の秘密は団長には黙っといてやるよ。ただしだ」


 男は蛇のように目を細めて告げる。


「今日からお前は俺ら専用の娼婦だ。だが、安心しな。奴隷の女どもほど無茶なことはしねえよ。お前は『仲間』だからな。まあ、四人相手だから毎夜のローテとか、たまに全員相手とか大変だとは思うがな」


「~~~~~ッッ!」


 声も出せないままラグは必死に抵抗するが、男にはまるで通じない。


「まずは今夜からだ。今夜は時間をかけて色々と教えてやるよ」


 男はニタニタと笑う。他の男たちもだ。

 そうして馬乗りになった男が、ラグの双丘へと口を近づけようとした時だった。


「少しいいか?」


 不意にそんな声を掛けられた。男たちがギョッとして声の方に目をやった。

 すると、

 ――ドゴッッ!

 いきなりそんな音が鳴った。

 続けて馬乗りになっていた男の体が勢いよく上空に吹き飛んでいく。数メートルの高さまで至ると、男は弧を描いて地面に激突した。激しく痙攣を起こした後は動かなくなる。まるで全速の旅団車両クランモービルに跳ね飛ばされたかのような惨状だった。


 他の男たちも、そしてラグもまた「……え?」と呆然とした。

 それに対して、


「ああ、すまないな」


 いきなり現れて、人間一人を軽々と蹴り上げた闖入者が言う。

 その人物は赤毛交じりの黒髪と、頬に大きな傷を持つ青年だった。団員ではない。ラグも男たちも初めて見る人物だった。


「挨拶をするつもりが、思わず足が出てしまった」


 そう告げながら、青年は未だ唖然とする残りの男たちを一瞥して、


「ところで少し道に迷って困っているんだが、この近くに街はないか?」


 そんなことを尋ねてくるのであった。







次回以降は3日置きに1回ぐらいで更新したいと思っています。

(時々早い場合もあるかも)

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