8.血の探索
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
帝都アルベリア 皇城アルベス宮 アークレイン大公
― ――帝都の空気が、どこかおかしい。
先日行われた大評議は滞りなく終わり、あとは領地へ帰還するだけ。
アークレイン大公は窓の外に広がる帝都の空を眺めていた。夕刻前の光はいつも通りだというのに、街のざわめきが妙に薄い。
帝都全体が、まるで息を潜めているかのようだった。
その時、部屋の扉をコン、コンとノックする音が響いた。
控え目だが、急ぎを含んだ音。
「入れ」
大公が声をかけると、扉が静かに開いた。
現れたのは、アークレイン家直属の騎士。普段は冷静沈着な男だが、急いできたのだろう少し汗ばんでいる。
「誰が動いた?」
「……エリック様にございます」
大公の眉がわずかに動いた。
エリックが動いたということはローゼンヴァルトも覚悟を決めた、ということか。
「状況は?」
「第一皇宮近衛部隊により、皇宮内の出入り口が封鎖され始めております」
空気がわずかに揺れた。
皇宮の封鎖──それは、ただ事ではない。
「封鎖されていない場所はあるか?」
騎士は緊張した面持ちで頷いた。
「すでに確保しております。影家の管理区画はいまだに封鎖されておりません」
「準備を整えろ。影家の管理区へ向かう」
大公は静かに立ち上がり、外套を羽織る。
扉の向こうへ出ると、入ってきた者とは別に騎士が3人待機していた。
皆緊張した面持ちだ。
「閣下、こちらへ」
案内役の騎士が一歩前に出る。その声は普段よりわずかに硬い。
皇宮の空気が、すでに“平時ではない”ことを物語っていた。
アークレイン大公は歩き出す。
廊下に出た瞬間、皇宮の静けさが肌に刺さるように感じられた。普段なら、皇宮は昼夜問わず人の気配がある。
官僚、侍従、魔法士、近衛──誰かしらが歩いているはずだ。
だが今は──
足音がほとんどしない。
そのまま進むと、意外にすんなりと影家の区画までは通ることができた。
黒い石で作られた重厚な扉。
皇宮のどの扉とも違う、異質な存在感。
扉の前には影家の紋章──
“月影の双剣”が刻まれていた。
すると目の前に一人の女性騎士が立っている。その胸元に光るのは月影騎士団の印。
「アークレイン大公閣下。女神ルミエラの祝福を」
「シャルゼ副騎士団長……ああ、今は騎士団長でしたな」
その髪は長い黒髪に青い瞳。夕暮れ時も相まってより一層その姿は印象的だ。
「ええ。私は望んでいなかったのですが……前騎士団長にも困ったものです。私に押し付けて……全く」
その顔は本当に困っていそうな顔をしてはいるが、この状況においては異質だ。
冷静だ……何が起きているのかも知っているはずだが……。
「ここを通していただけるかな?」
大公は自分の背中の冷や汗が、じんわりと滲んでいることに気づいた。
「……あのお方に近づいたそうですね?」
途端に空気が止まる。
彼女からは、魔圧を出しているわけでもないのに強烈な圧を感じる。
気配を感じ取ったのだろう騎士たちが前に出る。
「ああ、お会いになったよ」
「なぜ?」
寸分違わずに質問が返ってくる。大公は黙ってしばらくシャルゼを見つめる。
「……あのお方がこの国の未来を託すに足るか確かめるために──」
言葉を終える前に、シャルゼの刀が鞘から閃き、首元へ迫った。
気づいた時には、大公の首元すれすれで刀が止まっていた。
「なっ!」
周りの騎士が反応できずに、その女は大公を刀の先から見つめる。
「あぁ。……本当に、大公という存在は……不愉快だ」
この私が……反応もできないとは……。さすが、月影騎士団において最強の騎士──黒姫のシャルゼ。
「貴様! 無礼だぞ!」
騎士の1人がシャルゼに斬りかかろうとするが、大公は右手を挙げて止めさせる。
少しでも斬りかかれば大公の首は飛んでいただろう。
「なにか気に障ったようだな?」
「当たり前だよ、アークレイン大公。君たちは皇族を軽んじすぎだ」
その瞳は狂気にとらわれているかのように鈍く光る。
「それだけでは飽き足らず、今度は我が主君の子息まで軽んじるとは……ここで死ぬか? アークレイン大公」
「……君たちが本当は誰に仕えているか私は知らないのだがね? 大体の予想はついているが……」
「……」
「オルフェリア様」
その言葉を放った途端にシャルゼの反応は劇的だ。大公の首筋から血が一滴滴り落ちる。
「その反応……正解かな? いやはや、わからないはずだ。まさか、影家の当主の娘。しかも、一度も表舞台に立たれたことのないご令嬢だ。
今なおどこにいるかもわかっておられない。皇城内にいるのかも……」
大公が言い終える前に、シャルゼの瞳が細くすぼまった。
「その名を……軽々しく口にするな」
シャルゼの声は震えていた。
怒りではない。
もっと深い──忠誠と執着の混じった震え。
「アルス様は皇帝になるおつもりは無いと仰られた。私はその意思を尊重する」」
シャルゼはピクリとも動かない。
しかしその瞳だけは話の先を言え、と物語っている。
そのこともすでに知っているのか? ゲインが近くにいるなら聞いているのかもしれないな。
「私は君たちの敵ではない。アルス様が皇帝にならないと仰られた以上無理強いをするつもりは無い」
「その言葉を信じるとでも?」
「大公全てを敵に回すのは君たちもさすがに困るのではないかな? 他二人がアルス様を知った時にどう出るか……
私が味方でいた方が色々と都合がよいだろう?」
「……」
その言葉を聞き、シャルゼはしばらく微動だにしなかった。
やがて、刀を収めると、後ろを振り返り扉へ歩きだす。
大公たちが固まっていると声がかかる。
「付いてきて頂けますかな? アークレイン大公。お外までご案内いたしましょう」
……本当に首の皮一枚繋がったようですね……。
大公はハンカチを首元にあてながら、シャルゼに続いていく――。
皇城内はすでに暗く、まるで“夜そのもの”が城内に染み込んでいるかのようだった。
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――胸の奥が、妙にざわついていた。
王との会食が終わり、仲間たちと部屋へ戻ったはずなのに、落ち着かない。
何かが、体の奥で“うずく”。
痛みではない。
熱でもない。
ただ──
心臓の鼓動とは違う“何か”が、ゆっくりと目を覚ましているような感覚。
「アルス、大丈夫か?」
カイが心配そうに覗き込む。
レオも耳をこちらに向けている。
「……なんか、変なんだ」
胸の奥を押さえる。
鼓動が早いわけではない。
息苦しいわけでもない。
ただ──
“呼ばれている”ような感覚があった。
その時、屋敷の外から低い鐘の音が響いた。
ゴォォォォン……
帝都全域に響く警鐘。
「警鐘……? なんでだよ……」
レオが息を呑む。
フィンとノエルは僕の後ろに寄り添い、不安そうに震えている。
メルは顔色を変え、僕の腕を掴んだ。
ゲインは背後で静かに言った。
「アルス様。これは“皇宮内部の異変”にございます」
胸の奥のざわつきが、さらに強くなる。
まるで、帝都の中心で起きている何かが──僕の中の“何か”を呼び起こしているようだった。
「……なんだよ、これ……」
息が浅くなる。
視界が少しだけ揺れる。
体の中心が熱を帯びる。
「アルス!」
カイが肩を掴む。
レオが支える。
メルが泣きそうな顔で僕の手を握る。
「大丈夫……だよ……」
そう言った瞬間、その熱がふっと消えた。
まるで、何かが“引き返した”ように。
ゲインが顔を真っ青にさせながら言葉を発した。
「……まさか、何故……」
「ゲイン?」
「アルス様! 急いでこの場を離れましょう! 早く!」
ゲインがここまで焦る所など見たことがない。
「ゲインさん! どういうことだよ! アルスにいったい何が起きたんだ? なんで、すぐにここを動かないといけないんだ!
まだアリアさんたちが合流してないんだぞ!」
レオがゲインの様子を見て事情を知りたがっている
「時間がありません! 説明をしている暇は――」
「ゲイン。説明してほしい」
僕は静かにそれでいてゲインの瞳をしっかりと見つめた。
ゲインは僕の顔をしばらく見ていたが、静かにため息を吐いた。
「皇城内で“血の探索”が始まったのです。皇族の誰かを探している……そう考えるべきでしょう。
そしてその探索は帝都全域。誰が使用したかまではわかりません」
僕は息を呑んだ。
皇族の居場所がわかる? そんな魔法があったのか。待てよ……それはつまり――
思わずゲインの方を見た。
「……アルス様の居場所もわかってしまうということです。もし、ほかの皇族を害そうという皇族がいた場合……アルス様が危険です」
ゲインの言葉に、部屋の空気が一瞬で凍りついた。
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