6.湯煙の王、玉座の王
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
「おお! お主がアルベスの後継者だな」
王が放った言葉はこの場所ではよく響いた。
「後継者……?」
僕はその言葉の意味が分からなかった。確かに血はつながっているのだろう。だけれども、後継者ではない。
「なんだ? カリステアから聞いていないのか? お前は”王の力”を発現させたのだろう?」
「僕の力は皆に強化をかけるだけの力ですけれど……」
「何? ……ゲイン。お前は何も説明していないのか?」
「私の口からは何も」
王は何か考え込むように黙り込んだ。
「……まあいい。話は後だ。まず湯舟につかろう。冷えた頭では判断を誤る」
そうして、王含め僕たちは湯舟につかる。
ああ……気持ちいい。この体になってから入るのは初めてだけど、風呂は最高だな。
「おお……」
「きもちいいなー」
皆、思い思い楽しんでいる。王も両腕を淵に出して目を閉じていた。たまにゲインと二言三言話をしている。
王の意図が読めないな。わざわざ風呂まで一緒に入ってくるなんて何か聞きたいことがあったんじゃないのか?
僕は警戒しながらいると、急に王が僕へと言葉をかけてきた。
「アルスよ――」
やはり来たかと心の中で身構える。テアと話で僕を国に連れて帰りたいという話は聞いているのだ。
さて……何を聞かれるのだろうか……。
「アルスよ、お前は幼い頃はどう過ごしてきた? 人は子どもの頃の環境で性根が決まると言う」
ん? なんだこの話は? 幼少期の話?
「えっと、マルク父さんとアリア母さん、それにメルと祖母のサリエラと平民区で家族と静かに暮らしていました」
「なるほど。最初にあった時も思ったが、話し方や学がその年しては丁寧だからな。よく教育されてきたのだろう。
そのあとスラムで生活していたそうだな?」
「あ、はい。といっても基本的にはスラムで傭兵として活動していた、というのが正しいですが」
王は何度もうなずいている。
「報告だとその後、今いるメンバーとこの傭兵団を立ち上げたそうだな。仲間をどう思っている? お前の周りの者たちは、ずいぶんお前を信じているようだな」
「そうですね。団長であるカイは頼りがいのあるリーダーですし、今この場にはいないですが、副団長のガストは頼れる屋台骨を支えてくれる存在です。
ほかのメンバーも各々素晴らしい才能の持ち主で、ここまでこれたのも仲間との絆のおかげと思っています」
「いいことだな。ふむ……湯に入ると本性が出ると言うが、お前は仲間をよく見ているな。」
さらにうなずく王。
「ありがとうございます」
「さて……そろそろ本題に入らせてもらう」
ようやく来たか……これまでは世間話。ここから僕を王国へ連れていく話をしだすのだろう。
よく見るとカイも緊張した顔をしている。レオは耳だけこちらに向けているな。他の三人は……完全に湯船で遊んでいる。ボラム、フィンとノエル、泳いじゃだめだよ。
「アルスよ――」
僕はゴクリとつばを飲み込んだ。
「テアのことをどう思う? ああ、そうであった。団長であるレヴァン卿には悪いことをした。お見合いを持ってきた手前申し訳ないが、そもそも”王の力”の後継者の婿として探していたのだ。
悪いがアルスの婿にせねばならないのだ……」
……ん?
急に腕を組みうなり始める王。
ちなみにレヴァン卿というのはカイの家名だ。カイ・レヴァン男爵。
「い、いえ。私は気にしておりません……が、その“アルスの婿”というのは……」
カイも身構えていただけ拍子抜けした顔をしている。
「元々極秘裏に”王の力”を発現させた皇族を探しておったのだ。調査には時間がかかったがな。何とかお前たち【碧狼傭兵団】にたどり着いたのだ。
まさか、そのように偽装しているとは思いもしなかったがな」
心外である。好きでこの状態になっているわけではない。生まれつきこの状態だ。
……本題、そこなんだ……? もっと重い話が来ると思って身構えていたのに。
「まあいい。ともかくアルスよ。どうだろうか? 出会いも大事であろうからもう一度見合いをしてもよい。
あやつは気が強いぞ。婿になるなら、そこらへんは気を付けた方がいいかもしれん。余の正妻も気が強くてな……それに似てしま――」
すると隣から何かが飛んできて王の近くに落ちた。よく見るとこれは……桶だ。
「父上! 余計なことは言わないでくださいまし!」
「あ、危ないではないか! 今父がお前の嫁ぎ先をだな!」
「それは別にお願いしておりません!」
な、なんか思ったよりフレンドリーな王様なのか?
そうしてある程度の騒ぎが収まると、王は立ち上がり風呂の淵に足をかけた。
「……ふむ、そろそろ先に出さしてもらおう。続きは外で話そう。また後で夕食のときに会えるだろう。ではな」
そう言って、退出していった。
王が退出していったあと、湯舟の中にふわりと静けさが戻った。
さっきまでの騒ぎが嘘みたいだ。
「……行ったな」
カイが小さく息を吐いた。緊張が解けたのだろう。レオも腕を伸ばしている。フィンとノエルはまだ湯の中でぷかぷか浮いている。ボラムは……寝てる?
僕もようやく肩の力を抜いた。けれど、胸の奥に残るざわつきは消えない。
“アルスの婿”なんて話は本題じゃない。王はもっと別のことを言いに来たはずだ。
「ゲインは王とは知り合いだったの?」
するとゲインはその話を聞かれるのを待っていたかのように答えた。
「ええ。とはいっても大分昔の話ですがな。まだ、王が王子であったころに剣を教えたことがありました」
その目は少し懐かしさを覚えている色を出していた。
「アルス様」
いつもの落ち着いた声なのに、どこか張り詰めた空気が混じっている。
「ん? ゲインどうしたの?」
「シルベスト王国へ行くという話はお受けになるべきです」
その言葉の意味を僕はその時は完全に理解はできていなかった。
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――湯舟から上がると、肌に触れる空気がひんやりして、さっきまでの温かさが一気に引いていく。
まるで、これから向かう場所が“別の空気”で満ちていると告げられているみたいだ。
着替えを済ませ、廊下へ出ると、そしてそのまま会食会場へ案内される周りにはシルベスト王国の面々が勢ぞろいしていた。
そしてその最奥では、シルベスト王としての顔をした王が座っていた。その横にはテアが真剣な表情で座っている。
背筋は伸び、宝石のような赤い瞳は静かに僕を射抜く。
風呂場で見せていた軽さは一切ない。
まるで別人だ。
「待っておったぞ。さあ、まずは席に着きたまへ」
僕は案内された席に座る。
「食事の前に……アルスよ。ここからは、湯の中で話すような軽い話ではない。
……来てもらうぞ。余の国へ」
その声音は重く、揺るぎなく、王としての威を帯びていた。
僕は思わず息を呑んだ。
王の言葉が落ちた瞬間、会食場の空気がわずかに揺れた。
誰も声を発しない。皿の上の料理の湯気だけが静かに立ちのぼっている。
シルベスト王はゆっくりと肘を置き、指を組んだ。その赤い瞳は、まるで僕の心の奥底を覗き込むように動かない。
「アルスよ。お前は“王の力”を使ったと言ったな」
その声音は、風呂場で聞いた軽い調子とはまるで違う。
重く、深く、逃げ場のない響きだった。
「……はい。ですが、あれは偶然で……その後は使えていません」
「偶然ではない」
王の言葉が、刃物のように鋭く空気を裂いた。
「その力は、アルベス帝の血を引き、なおかつ“選ばれた者”にしか発現せぬ。
お前が使えたという事実そのものが、余にとっては十分なのだ」
僕は息を呑んだ。
隣でカイがわずかに肩を強張らせる。テアは唇を噛みしめ、視線を落としている。
「アルスよ。余はお前を連れて帰ると言った。
それは婿の話などではない。もっと……もっと重い話だ」
王はゆっくりと立ち上がった。
その動作だけで、場の空気がさらに張り詰める。
「お前には、“王の力”の真実を知ってもらう必要がある。
そして──その力を持つ者が、どれほどの運命を背負うのかもだ」
赤い瞳が僕を射抜く。
「アルス。余の国へ来い。それが、お前の母君が望んだ未来にもつながるはずだ」
胸の奥が締め付けられたまま、僕は王の言葉の余韻に飲まれていた。
母君──その言葉が出た瞬間、ゲインの瞳が固く閉じられたのを僕は見逃さなかった。
会食場の空気は、誰かが息をするのもためらうほど静まり返っている。
料理の香りすら、どこか遠くに感じる。
「……母の、望んだ未来……?」
自分でも驚くほど小さな声が漏れた。
王はその声を逃さず、ゆっくりと僕へ視線を向ける。
「そうだ。お前の母君──アルベス帝の血を継ぐ者は、余と深い縁がある」
その言葉に、テアがわずかに息を呑んだ。カイは静かに背筋を伸ばし、レオは耳をぴくりと動かす。
フィンとノエルでさえ、遊びの気配を完全に消している。
王は続けた。
「アルスよ。お前が“王の力”を使えたのは偶然ではない。
そして、その力が今使えぬのも……理由がある」
理由──
その言葉が胸の奥に重く沈む。
「その理由を知るには、余の国へ来てもらうしかない。
ここでは話せぬことが多すぎる」
王の赤い瞳が、まるで逃げ道を塞ぐように僕を見据える。
「アルス。お前の母君のことはよく知っておる。それは、お前がこの力を持って生まれた時から決まっていたことだ」
ゲインの肩がわずかに震えた。
彼は何かを知っている──そう確信できるほどの反応だった。
「母は……何を……」
声が震える。
王はすぐには答えなかった。
その沈黙が、言葉よりも重く感じられる。
「それを話す前に──アルスよ。まずは覚悟を決めてもらわねばならぬ」
覚悟。
その言葉が、会食場の空気をさらに張り詰めさせた。
「余の国へ来るということは、ただの“招待”ではない。
お前の運命そのものが、そこで動き出すということだ」
王はゆっくりと席から立ち上がった。
その姿は、風呂場で見たやんちゃな父親とはまるで別人──“シルベスト王”そのものだった。
「アルス。余はお前を迎えに来た。お前の母である――オルフェリナの願いを果たすためにな」
僕は、言葉を失ったまま王を見つめるしかなかった。
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