5.炎上する拠点と告げられた“後継者”
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
僕はとっさにテアを後ろへ突き飛ばした。
「くっ!」
男たちの刃が、炎の赤を反射してギラリと光る。狙いは僕じゃない──テアだ。
胸の奥が一瞬で冷えた。
「〈マイナーシールド〉!」
展開された光の膜に、男の凶刃が叩きつけられる。
金属が擦れるような高い音が響き、膜がひび割れた。
パリンッと破片のような光が散り、衝撃で僕の体が後ろへ弾かれる。
背中が熱気に焼かれ、肺が一瞬止まった。
「なっ! 魔法を使えるのか!」
男たちが驚愕の声を上げる。その一瞬の隙が、命を繋いだ。
「アルス! 無事……!?」
テアの声が震えている。
僕が無事だと分かると、すぐに魔法を構えた。
「〈アイスランス〉!」
炎の熱気が肌を刺す。氷の槍が生まれた瞬間、周囲の空気が一瞬だけ冷えた。
だが、炎の中では威力が落ちる。それでも、建物をさらに燃やさない判断は正しい。
戦い慣れている……本当に。
敵前衛がシールドを張り、氷槍が砕け散る。魔力眼で視ると、彼らの魔力は中位クラス。
炎の揺らぎで魔力の流れが歪んで見える。
「ちっ! どちらもまとめて始末しろ!」
後衛の魔法使いが詠唱を始める。魔力が渦を巻き、空気がビリビリと震えた。
「逃げるしかない! 少なくともルシャナと合流した方がいい――」
言い終わる前に、階段から凛とした声が響く。
「アルス様! 必要ありません! 〈ウォーターウォール〉!」
ルシャナは合流するや否や魔法を唱える。
水の壁が勢いよく立ち上がり、炎の赤を青く染める。蒸気が爆ぜ、視界が白く霞む。
敵の魔法がそれを瞬時に凍らせ、氷の壁が生まれた。前衛が体当たりで砕く。
氷片が飛び散り、頬に当たって冷たかった。
だが、その一瞬でルシャナが前へ跳び込む。レイピアが炎の光を反射し、細い軌跡を描いた。
「ぐっ!」
肩口を貫かれた敵が後退する。もう一人がかぎ爪を振るうが、テアがそれを許さない。
「させない! 〈アイスバレット〉!」
氷弾が連続して放たれ、空気を切り裂く。敵が腕で防ぎながら後退する。
炎の熱気と氷の冷気がぶつかり、空気が軋んだ。
僕は息を整え、唱える。
「〈リミテッドブレイク〉!」
途端に二人の身体能力が跳ね上がる。テアの瞳が驚きに揺れ、ルシャナは眉をわずかに動かした。
「ありがとうございます! 行きますよ!」
ルシャナの突きが鋭さを増し、敵の心臓を正確に捉える。刃が肉を割く感触が空気を震わせた。
「……ぐ……」
「ちっ! この女……!」
肩を押さえた敵が状況を悟り、叫ぶ。
「離脱しろ! 下の奴らと合流する!」
階段へ向かおうとした瞬間──階下から強い魔力反応が近づいてくる。
炎の揺らぎの向こうから、重い足音が響いた。
「ふん!」
ゲインが階段を駆け上がり、敵を一刀で斬り伏せた。
斜めに切り裂かれた体が、炎の赤に照らされて沈む。
「アルス様! 遅くなり申し訳ございませぬ!」
「ありがとう! 助かったよ!」
前後を挟まれた敵は、逃げ場を失った。
「……仕方ない……うおおお!」
敵は燃えさかる部屋へ飛び込んだ。炎が爆ぜ、木材が崩れ落ちる。熱気が押し寄せ、息が詰まる。
「ゲイン。外の様子は?」
「は、敵の増援が来ましたが、こちらの傭兵とシルベスト王国の増援が来ましてな。敵は引いていきましたぞ」
テアは「内緒」と言っていたが……最初から察していたな。
「ゲイン。さっきの敵は生きていたとしても重症だろう。捜索をお願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。ルシャナに行かせます」
ルシャナが頷きすぐに階下へ走る。
「ふう……なんとかなったかな?」
「まだです! ここから出ましょう! いつ崩れるかわかりません!」
テアの言葉に頷き、僕たちは炎の中を駆け抜けた。焦げた匂いが鼻を刺し、熱気が背中を焼く。
外へ出ると、仲間たちが集まっていた。燃えるアジトを見て、胸が締め付けられる。
「アルス」
「カイ……アジトが……」
「……仕方ない。生きている奴らを優先するしかない。こっちも十人くらい死んだ」
カイの声が重い。
その横でテアが護衛とともに歩み寄り──頭を下げた。
「ごめんなさい。私を狙っていたみたいね……私のせいよ」
炎の赤がテアの瞳を揺らす。
「い、いや……さすがにそこまでは……なあ?」
カイが僕を見る。
見られても困るよ。そこは団長らしくなんか言いなよ。
「いいえ、私のせいだわ。私がここにいると知っているということは……シルベスト側から漏れたってことですもの」
護衛の女騎士が俯く。
「拠点まで燃えてしまったわね……そうだわ! 一時、私たちの屋敷へいらっしゃいな!」
ぱんっと手を叩くテア。
その笑顔の奥に、震えが見えた。
カイは悩んだ末に頷いた。
マーガレットのところに行くっていう案もあるのだが、それだときっと莫大な金額を請求されそうだ。
それなら、まだマシだという判断だろう。
「じゃあ、一旦はそれでいいか。アルスも行くか?」
これはアルスも行って平気なのか? という確認だ。
もちろん行かないに決まってる。連れてかれちゃう話を聞いたばかりだ。行くわけがない。
テアは一瞬俯き──泣き出した。
「……そうよね。私が……私が殺したようなものだもの……そんな女の所へは行きたくないわよね……」
周囲の視線が僕に刺さる。
ずるい。ほんとに。
「アルス……連れていかれそうになったら、俺が守ってやるよ……」
「本当に頼むよ? ちゃんと守ってよね?」
結局、僕たちはテアの屋敷へ向かうことになった。
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――炎の熱気がまだ肌に残っていた。胸の奥のざわつきが、ようやく静まり始める。
案内された屋敷は滅茶苦茶デカかった。貴族区の中でもかなり大きな部類になる。巨大な門をくぐると、執事が一人、慌てて走ってくるのが見えた。
「カリステア様! ご無事でしたか!」
「じい! 心配をかけたわね。見ての通り無事よ」
「おお、よかった! よかったです!」
“じい”と呼ばれた執事はその場で膝をつき、本気で泣いていた。
テアは困ったように笑いながらも、どこか安心したように肩を落とす。
「大袈裟なのよ、じい。ほら、私を助けてくれた英雄さんたちを中へ入れてあげてくださるかしら?」
「も、勿論ですとも! 皆様! さあどうぞ! 暖かいご飯も用意しております! まずは湯舟ですかな? 汚れを落としていただかなければ!」
なかなかパワフルな執事だ。カイも流されるままになっている。
メルはずっと僕の腕にしがみついて離れない。
「アルス! なんであの子の言うこと聞くの? 連れてかれちゃうよ?」
耳にタコ──いや魚人ができそうだ。何度同じことを言われたか。
屋敷の中へ入ると、まずは巨大なシャンデリアの広間に出た。
光が反射して天井が星空みたいに見える。思わず見上げて口が開いたままになる。
案内された先には、帝国上級文字(貴族階級が使う正式文字)で“男湯”“女湯”と書かれた暖簾がかかっていた。
「こちらで衣服を脱いで湯におつかりください。最初に体を洗うのが貴族のマナーにございます」
この世界に来てから初めての風呂だ。テンションが勝手に上がる。
他のみんなはおっかなびっくりだ。
僕は意気揚々と暖簾をくぐり、皆を呼んだ。
衣服を脱ぎ、風呂場へ向かう。
――そこは露天風呂だった。
湯気が立ちこめ、夜気と混ざって白い靄になっている。
その光景を見た瞬間、張りつめていた肩の力がようやく抜けた。
お湯は最初に水を入れてから魔法で温めているのか。どちらにせよ、贅沢すぎる。
「すげえ」
「わあーー」
「「ひろーい」」
レオとボラムは口を開けたまま固まり、ノエルとフィンは走り出した。
僕も飛び込みたいところだが、前世の記憶がそれを止める。
まずは体を洗って……ノエルとフィンと一緒に洗おうかな。
そんなことを考えていたら、ゲインとマルクも入ってきた。
そして、一人の知らない男も。
「ははは! ゲインも久しいな! うまいことやっているのか?」
「いえいえ。シルベスト王ほどではないですよ」
和やかな雰囲気で入ってくる二人。
その間で肩身の狭いマルクが小さくなっている。
堂々とした体格の男は、湯気の中でも存在感を放っていた。
視線が合った瞬間、空気がわずかに張りつめる。
「おお! お主がアルベスの後継者だな!」
その言葉は、湯気の向こうでよく響いた。
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