4.告げられた真実と、忍び寄る刃
本当にすみません。土曜日は毎回投稿遅れがちですね……。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
「貴方たちの傭兵団に入れてほしいわ」
テアがその言葉を言った瞬間、部屋の空気が、ぴたりと止まったように冷たくなる。メルなんかかわいらしい眉を寄せたまま固まっている。
「えっと……?」
「貴方たちと一緒に活動させてほしいわ」
すみませんテアさん。言い方を変えても僕たちの疑問は解消されません。
「だ――」
急にメルが前に出てきてテアに向かって大きな声で怒鳴った。
「ダメに決まってるでしょう! 貴方、貴族でしょう!?」
「あら、別に貴族でも傭兵をやってるじゃない。貴方たちの団長さんもそうでしょう?」
「カイは後から貴族になったのよ! 貴方は最初から貴族じゃない! それに帝国の人間じゃないわ!」
そうなのだ。彼女はシルベスト王国の貴族である。他国で生活をするためには色々と問題があるし、帝国からも目を付けられる。
僕たちの傭兵団はここ最近名声も、人数も大きくなり帝国から目を付けられ始めている。
そこに他国の貴族のご令嬢が加入しました、なんて……。絶対に大騒ぎになる予感しかしない。
「別に帝国の人じゃなきゃダメってルールがあるのかしら? どうなの。アルス?」
完全にアルス呼びになってるし……。まあ、言われてみると確かにそんなルールは設けていない。
「……特にそんなルールは無いよ。貴族が加入しちゃダメってのも無いね」
「なら問題ないでしょう?」
「そんなわけないでしょう!? 大体どうやって親に相談するつもりなのよ!」
メルの言っていることは間違っていない。貴族のご令嬢で十四歳となれば、社交界に出たり、婚約者を探したりで忙しい時期だ。
「そうねえ。父はきっとアルス、貴方をシルベスト王国に連れて帰ろうとしているわ」
「僕を?」
「父はもう、貴方が“王の力”を持つと確信しているわ」
テアの声は妙に静かだった。
「だから――連れて帰るつもりよ」
背筋がひやりとしたのを感じ、言葉を探すのに一瞬遅れた。
「待って……! 勝手に帝国の人間を連れて帰るなんてできないはずだよ。外交問題になる」
僕は話を進めるテアに手を突き出して話を遮ろうとする。しかし、テアは椅子に座りなおして足を組んだ。
なんか段々テアの態度が砕けてきたな……。
「ああ、そういえば言ってなかったわ。外交問題になっても問題ないわよ。だって――私の父は、シルベスト王その人だもの」
一瞬、部屋の空気が揺れた気がした。
「ええ! 嘘……」
本日二度目の衝撃だ。テアがシルベスト王の娘? お姫様?なんでわざわざお姫様がこんなところに来てるの?
だが、テアの次の言葉はさらなる衝撃を僕たちに与えた。
「本当よ。父も来てるもの。晩餐をした際にいた、オールバックの騎士は父。いえ、ウルスト・アーベイン・シルベスト王、本人よ」
「えええ! あの人が王様だったの!?」
嘘だろ! 初めて王様と会うイベントが、まさかあんなご飯を分け与えてもらうシーンだなんて!
僕たちはしばらく事態を呑み込めないでいた。何せ話が大きくなりすぎてどう対処したらいいかわからないからだ。
「と、とりあえず、一度カイや皆と相談してーー」
一旦話を皆で決めてから考え直そうとしていたら、急に外から慌てた様子ノックが響いた。
返事を待たずに傭兵の一人が顔色を変えて入ってきた。最近雇った中位級の人で名前は確かルシャナって名前だったと思う。
リュシアが別件でいない時は秘書みたいな形で手伝ってもらっている。
「アルス様! 失礼をいたします! 大変です! アジトの外で武装集団が襲撃中です! 団長とゲインさんが応戦していますが――数が多いです。
団長から臨時で指揮を頼むとのこと!」
開いた扉から、金属がぶつかる硬い音がかすかに響いてきた。胸がざわつくが、今は迷っている暇はない。
「襲撃!? なんでまた……」
「っ! 失礼するわ!」
テアは真っ先に部屋から出ようとする。しかし、今外へ出るのは無謀だ。僕は慌てて声をかける
「待って! 今外に出るのは危険すぎる!」
「わかってるわ! でも、外に護衛を一人待たせていたの!」
今まで冷静を保っていただけに、急に慌てた態度はすごく新鮮だ。よほど大事な護衛なのだろうか。
「……その人はどこにいたの?」
「アジトの目の前の倉庫にいたはずよ。私が出てきたら合流する予定だったわ」
この部屋の窓からじゃ通りの様子はわからない。まずは部屋からでてテアの護衛がいる建物を確認した方がよさそうだ。
僕はメルを見て一度うなずく。メルも状況を察したようだ。非常時の傭兵団は一人一人の役割が決まっている。
すぐにメルは部屋から出ていき、アリアと合流するために動きだす。
僕も自分の装備を見直して問題がないことを確認すると、ルシャナにも声をかけテアに短く「付いてきて!」と声をかける。
テアは一度うなずくと素直に僕の後についてくる。
そして部屋から出るとさっきよりも外の喧騒が耳に伝わってくる。アジトを直接襲撃してくる勢力なんていないはずなのに……。
灰月の手なわけがない。マーガレットがここを攻めてくるメリットが無いからだ。彼女なら僕たちを利用して、利益だけを吸い取ろうとする方がよいと考える。
「ルシャナ! どんな集団が攻めてきてるかわかる?」
「はい。黒装束に身を包み、長剣を構えていました。また数人は魔法を使っていましたが帝国の魔法形態でないように見受けられます。他国の魔法兵の可能性が高いです」
ルシャナは簡潔に報告をしてくれる。彼女は本当にここ最近入ってきた中で本当に優秀だ。リュシアはひそかに対抗心を燃やしている。
「他国……シルベスト、なわけないか。ここにテアがいることを知っているはずだもんね」
「……えっと……実は、ここには“内緒で”来たのよ。父たちには黙ってね」
テアが苦笑いをしながら教えてくれる。僕は思わず部屋から出た廊下の途中で止まり、驚いた顔をしてしまった。ルシャナも驚いた顔をしている。
「だって、父たちはきっとそのままアルスと交渉すると思ったの。私も直接話してみたくて……だから護衛のアイリーンだけ連れてきたのよ」
アイリーンというのはきっとその護衛の名前だろう。
もしかして晩餐の時にいた女騎士か? 肩くらいの金髪がよく似合う美人さんだったな。テアは見た目と違って結構やんちゃな子なのか?
僕のその雰囲気を察したのだろう。慌てた様子でテアは手を振りながら説明をしてくる。
「ちょっと! シルベストはこんな襲撃をしたりしないわよ? するなら正々堂々戦うわ! こんな奇襲みたいなことは絶対しないわ!」
まあ、最初からシルベスト王国ではないと思っているけど、あの王様たちには少しだけしか一緒にいなかったけど、そんなことをするような人たちには見えなかった。
「アルス様。発言よろしいでしょうか?」
「ん? もちろん」
ルシャナが何か思い当たる節があるのか、僕に発言を求めてくる。
「あの魔法ですが……もしや聖光魔法かもしれません。魔法を放つとき白い光が見えました」
「聖光魔法? それってアウレシア皇国の?」
「はい。皇国の魔法です」
聖光魔法は、神への信仰を力に変える特殊な魔法だ。アウレシア皇国の聖騎士や枢機卿だけが扱える。信仰の深さがそのまま威力になる
「皇国が僕たちを狙っているってこと?」
「それはわかりませんが……」
ルシャナは一度ちらっとテアを見た。なるほど、テアを狙った可能性もあるのか。
「私をね……その可能性もあるけれど、単純に私たちと同じ目的かもしれないわよ?」
テアはルシャナがいるせいか、ぼかして伝えてくる。
その通りだ。シルベスト王国がここまで調べてきているならその可能性もあり得るだろう。
「ともかく、まずはテアの護衛の人がいる場所を探そう。あっちの窓から外の様子をうかがえるから」
僕たちは窓の方へ走り出し、アジトの表通りの様子をうかがった。
すると、外はまさに戦場となっていた。至る所で剣が交差している。アジトの中央でカイが剣をふるいながら指揮をとっている。ゲインは三人くらいを相手に立ち回っている。
よく見ると、後から参加したのであろう、ガストや、マルクの姿も見える。
「これは……だいぶ酷いことになっているな。それに数が多い」
「先ほど私が確認した時よりも多くなっています。きっと増援が来たのかと」
ゲインが苦戦している。魔力を目に通すとゲインが相手している三人ともこの中じゃ一番魔力も多い。全員中位クラスだが戦闘能力も相当高そうだ。
適当な距離をとってゲインを翻弄している。
「いた! アイリーン!」
横からテアの声が聞こえる。どうやら同じように魔力を通して識別したようだ。僕もその方向へ瞳を向けると確かにそこそこ魔力の高い女性騎士が傭兵たちと一緒に戦っているのが見えた。
どうやら合流したのか……きっと戦闘が始まったから合流したんだろう。近くにマルクがいるから事情を説明したんだろうな。
「待って! あの路地の向こうからもっと来てるわよ! あれ傭兵団の人たちじゃないわよね!?」
「あれは……違う! ……よく見ると、黒装束をまとった同じ集団だ。増援が来てる!」
傭兵たちは見たところ朝からいた人数20人くらいだ。アジトが襲われていることを知ればすぐに来てくれると思うけど、敵の方が動きが速い。
あらかじめこの朝に襲撃をしようとしていたのか? だとしたら計画的だ。
「とりあえずは、今いる傭兵たちを集めよう。夜勤明けの人も招集して! マーガレットにも知らせないとまずいな! 緊急用照明弾を放つ。ルシャナお願いできる?」
「はい。お任せください」
そう言って、ルシャナはこの建物で一番高い櫓へ走っていった。
「僕たちも下にいる傭兵たちと合流しよう! このままここに――」
ボガンッと音が鳴ると、急に建物全体が大きく揺れた。思わず手をついてしまった。
一度伏せた後、顔を上げると建物の最初にいた作戦部屋の方から炎が上がっている。
まさか! こいつら直接アジトに打ち込んできているのか!
そして次々と建物が揺れている。
「テア! すぐに下へ降りた方がいい! あいつら無差別にこの建物ごと破壊するつもりだ!」
「ええ! そうした方がよさそうね! 急ぎましょう!」
僕たちは窓から離れて急いで階段がある方へ走る。ここは三階だ。二階へたどり着くと二階にも魔法が撃ち込まれた後がある。
「これは……ひどい」
傭兵が二人、倒れていた。全身が黒焦げで焦げた匂いが鼻を刺す。
……助からない。胸がざわつくが、今は立ち止まれない。先に下へ行かないと!
三階から二階へは直接降りられない。盗賊団のアジト特有の入り組んだ構造のせいで、細い通路を抜けて別の階段へ向かうしかない。
その階段の奥――薄暗い段差の向こうから、ゆっくりと影が伸びてきた。
傭兵の誰かか?
そう思って足を止めた瞬間、階段の闇から三つの影が姿を現した。黒装束に鉤爪。処刑人のような無表情の仮面が、薄闇の中でぬっと浮かび上がる。
階段を踏みしめる硬い足音が、闇の底から這い上がってくる。
僕とテアを見つけると、先頭の男が低く呟いた。
「居たぞ。殺せ……」
次の瞬間、三人は階段を蹴り上げて突進してきた。逃げ場のない通路へ、殺気が雪崩のように押し寄せてきた――。
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