3.シルベスト王国の思惑
アウレシア皇国とアルレリアの名前がかぶるため、アウレリアはカリステアに名称変更いたします。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
――傭兵団に戻った後はメルに褒められ、そしてその日の夜はエルナからもお礼を言われた。
……僕、恋愛マスターを名乗ってもいいのでは?
「まあ、僕に任せてよ。このままエルナとカイが結婚すれば傭兵団も安泰だね」
僕がそう言うと、エルナは髪と同じ色になるほど顔を赤くして、小さく「頑張る……」と言っていた。
「アルスに任せちゃだめだよ。あんまりわかってないと思うから」
メルの評価が全然上がらないのは何故だろうか。その日僕は、評価されない理由を考えながら眠りについた。
そして次の日。
いつものメルからのモーニングコールはなく、代わりに僕を起こしたのは、ゲインの傷のある顔だった。
「アルス様。おはようございます」
「……ん。どうしてゲインが起こしに来たの? メルは?」
僕はねぼけ半分であくびを一つ。ゲインは少し困ったような顔を浮かべ、事情を説明してくれた。
「アルス様を訪ねてきた方がおられましてな。それでその……メル殿は少々揉めておりましてな」
「え? メルが?」
メルは基本的に人当たりはいい。そのメルが揉めるとなれば、大体は僕関連だ。そして、僕を訪ねてきた人。
これはかなりまずいのでは?
僕はゲインの顔を上目遣いでちらっと見る。ゲインは何も言わずに一つ頷く。どうやら、僕を呼んでくるよう言われたみたいだな。
「……わかった。すぐに行くけど、誰が訪ねてきたの?」
「昨日カイ殿とご食事をされたご令嬢にございます。名前は――」
「カリステア嬢?」
どうして彼女が来てるんだろう、と首を傾げる。ゲインに着替えを手伝ってもらい、すぐに部屋を出た。
階段を降りる前から、下のフロアに響くメルの怒声が聞こえてきた。
「だから! なんで貴方とアルスだけで行くことになるのよ!」
「あら? 別に貴方も来ればいいじゃない? 別に駄目だとは言っていないわ?」
「どうせ二人しか入れないような場所に入るつもりでしょう!カイの時も、結局護衛は近づけさせなかったらしいじゃない!」
メルはだいぶヒートアップしているが、カリステア嬢は銀髪を高く束ねたポニーテールを揺らしながら、軽く肩をすくめてメルを受け流す。
「それはそうでしょう? 大事な話があるのですから二人きりでないと」
「だから! その話を今ここですればいいでしょう!? なんで貴方と出かける必要があるのよ!」
「こんな場所では誰かに聞かれてしまって困るからよ。わかるかしら?」
「貴方ねえ……!」
やばい、メルが本気で怒ってる。
傍ではカイとエルナが僕を見つけて早くどうにかしろ!と目線で訴えている。
いや、僕はメルに逆らうなんて無理だよ。でもさすがに貴族の、それも他国のご令嬢と揉めるのはまずいな。
「メル! どうしたのそんなに大きな声を出して?」
僕はまるで今来ましたかのようにメルに声をかける。これは処世術だ。
「あ、アルス……それがこの子が――」
「ごきげんよう。貴方がアルスさんですね?昨日のカイ様との晩餐ぶりでしょうか?」
銀髪のポニーテールを揺らしながら、軽装のまま迷いなく僕へ歩み寄ってくる。そのラフな格好でも、どこか気品が漂っていた。
ああ、やめてよ。こういうふうに横から入られるの、メルはすごく気にするんだから。
「アルス! この子が貴方とご飯を食べに行きたいんですって! いやでしょう? こんな知らない年上の女の子と行くのなんて!」
その言葉にさすがにカリステア嬢も声を上げる。
「あのね! 私はまだ十四歳で貴方たちとそこまで変わらないわ! そんな年上扱いしないでくださる?」
「十分年上よ! アルスはまだ十歳なのよ! 年上は危ないってお母さんが言っていたわ!」
メルそれはアリアがマルクの飲み歩きに対して言っているだけだよ。
目の前で騒ぐ二人は、嫌でも視線を集めてしまう。金色と銀色の系統の違う美少女が言い争っているのは嫌でも注目を浴びる。
案の定、団員たちの間に小さなざわめきが広がり、視線が二人へ向けられていた。
中には手を止め、面白そうにこちらを眺めている者までいる。
「と! ともかく! まずは落ち着いて話をしよう! メルも、一度冷静になって話をしよう。僕に大事な話があるみたいだから」
二人は一瞬お互いを睨んだが、僕の話を聞いて黙ってくれた。
「えっと、アルス。とりあえず、アジトの作戦部屋使っていいぞ?」
カイの優しさが今一番心にしみるよ……。なんなら付いてきてほしいな。
だが、カイは僕と目が合うと木剣を見せてきた。訓練場に行くから、という意味だろう。
……助けてくれないみたいだ。
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―― 作戦部屋は質素で、木の椅子が数脚置かれているだけだった。壁には僕の書き散らかした矢印や文字が、地図の上に広がっている。
「ありがとうございます」
そう言ってカリステア嬢は席に座る。背筋をぴんと伸ばして座る姿に、僕も思わず姿勢を正した。
「メルは……」
「私はアルスの隣にいるからいい」
僕はカリステア嬢の前の席に座ると、メルは僕にぴったりとくっつくように横に立った。
「えっと……カリステア様は――」
「待って。私のことはテアと呼んでくれるかしら? あまり堅苦しいのは好きじゃないの」
「え? いやさすがに……」
カリステア嬢――もといテアは眉をひそめて睨んできた。
「……テア様でいいですか?」
「……まあいいわ。それで? 私が来た理由を知りたかったんですよね?」
「ええ。カイに会いに来たならまだしも、僕に会いに来る理由がわからなくて」
昨日の晩餐で、最後に一度だけ目が合っただけなのに。それなのに僕に用があるなんておかしいだろう。
「あら? 貴方はこの傭兵団の参謀を務めているのでしょう? 理由はおわかりになるのではなくて?」
テアはおかしそうに笑っている。
「いえ、僕のような凡位の魔力持ちに会いに来る理由はありませんよ」
「そう……でも私はあるわ。何せ、貴方――」
テアは一度言葉を区切ると自信たっぷりで言葉を繋いだ。
「――王の力。それを発現させたでしょう?」
その瞳には、疑う色がなかった。
時が止まったように感じた。
――表情が崩れないよう、頬の筋肉に力を入れた。
いつかばれてしまう可能性はあった。メルが息を飲む音が聞こえた。テアに聞かれていないだろうか。
心臓が跳ねたのを悟られないよう、わざと首をかしげてみせた。
「王の力……そのような力を僕が……? なかなか、かっこいい話ですね」
「……ええ。そうでしょう? 私はそれを貴方が持っていると確信しているのだけれど?」
「僕がですか! 本当に! そんな力があるなら嬉しいな! どうやって使うのですか?」
僕はあくまでしらを切り続けた。テアは僕の瞳から目を離さない。服の内側に汗が張りつく感覚がした。
「……ふうん。あくまで言わないつもり?」
「なんのことでしょうか? 僕は魔力がほとんどないんですよ? 王の力というものは魔力がなくても使えるのですか?」
テアは立ち上がると、ゆっくりと僕の方へ近づいてきた。靴音が静かな部屋に小さく響く。
メルはとっさに一歩前へ出た。
「それ以上アルスに近づかないで」
「あら。今はアルスと話をしているの。貴方はお呼びじゃないの」
どうやら、魔力を流し始めたようだ。僕はとっさに瞳に魔力を流し始めた。だが――。
「やっぱり……貴方、魔力が視えてるわね? 瞳にだけ魔力を通しているでしょう?」
テアは、この瞬間を待っていたかのように微笑んだ。その笑顔を見て、背筋に冷たいものが走った。
――最初から、これを確かめるつもりだった? この人! まさか! 僕と同じ……。
「私もね魔力を見ることができるのよ。それでも貴方は違うわ。その魔力量も偽りね?」
獲物を見つけた蛇のように僕を見つめるテア。さすがに僕も動揺を隠せない。
「……魔力が見えるのは本当だよ。でも別に魔力量を隠しているわけじゃない」
「嘘。魔力視は中位の魔力量がないと使えないわ。今まで魔力視を発現させた人は最低でも中位の持ち主よ」
テアはまるで探偵のように僕に問い詰めてくる。
まずいな。ここでばれるわけにはいかない。それにテアは他国――それもシルベスト王国の人間だ。あまり大っぴらにはしたくない。
だが、僕が考えている間にも、テアは淡々と話を進めていく。視線は僕から外さない。
「魔力視は限られた人だけが発現する力よ。それには血筋も関係しているの。例えば……初代帝アルベスの血を引いている者、とか」
「……その話で言うとテア様は初代帝の血を引いていることになりますが?」
「そうよ。私の一族は初代帝の娘であるフィーナ様の血が入っているわ。だから魔力視も使えるわ」
僕が魔力視を使えるということは、その血が入っているということになるのか。
「でも別に初代帝の血はいろんな貴族に入っていますよね? 僕にたまたま入っている可能性もありますよね?」
「ええ、だからこそおかしいのよ。貴方が凡位と言うのがね。だってわざわざ隠す必要はないもの」
テアは僕の反応を確かめるように、じっと僕を見つめていた。
「魔力視を使えるほどの魔力を持っているのに、わざわざ自分を凡位に見せる理由がない。普通なら、自分の価値を証明するために使うでしょう?」
「……」
「それなのに貴方は隠している。まるで、知られてはいけない理由があるみたいにね」
テアはほぼ確信している。
僕が北方で何をしていたのかまで調べたうえで、わざわざこの傭兵団まで足を運んできたのだろう。
どこまで調べたのか――それすら、僕には分からない。
なるほど、ここへは答え合わせに来たようなものだ。最初からカイとの婚約をしにきたわけじゃない。
僕の存在を確かめるために来たんだ。
ここで逃げることもできる。
けれど、それをすれば自分が何かを隠していると認めるようなものだ。
「僕をどうするつもりですか?」
言葉を慎重に選ぶ。もうここまで来ては誤魔化しても無駄だ。
「あら、やっぱり頭もいいのね。これ以上は誤魔化せないと思ったのね。そうね……まずは――」
テアは楽しそうに笑った。
何を要求される?僕の正体を帝国へ報告するのか。それとも、何か別の条件を突きつけてくるのか。
僕は無意識に拳を握った。その先の言葉は、予想外のものだった。
「貴方たちの傭兵団に入れてほしいわ」
「……え?」
思わず、間の抜けた声が出そうになった。その言葉は、静かな部屋の中に響いた。
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