2.晩餐
アウレシア皇国とアルレリアの名前がかぶるため、アウレリアはカリステアに名称変更いたします。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
あの後はひどい目にあった。
僕もカイもこってりと乙女心についてありがたいご教授を頂いた。
カイも根掘り葉掘り婚約のことについてメルから聞かれていた。どうやら三日後にお見合い相手と、中央市場のレストランでディナーをすることになっているらしい。
――そして現在。
あの騒ぎのあと、僕たちはこうして護衛として呼び出されている。
カイを除いた傭兵団の主要メンバーは、シルベスト王国の騎士たちと向かい合っていた。
壁には細かな装飾が施され、磨かれた床には照明が淡く反射している。テーブルに並ぶ銀食器も、僕たちが普段使うものとは明らかに違っていた。
護衛として同席できるのは一人だけ。僕たちは別室で待機することになった。
「お、おいアルス……!なんで俺までこんな目に合わなきゃいけないんだよ……!」
レオが小声で僕に聞いてくる。レオは僕より身長が高いため、耳元まで身体をかがめている。
僕もレオに小声で返す。
「仕方ないじゃん。僕だって来たくて来ているわけじゃないよ。ほらボラムを見習ってよ。静かにしているじゃない」
「あいつは飯食ってるから静かなだけだろ! なんで俺まで呼ばれる必要があったんだよ!」
護衛用に用意された食事を、僕たちは騎士三人と向かい合って食べていた。
そんな状況を気にする様子もなく、ボラムだけは嬉しそうに食事を頬張っていた。
「……」
シルベストの騎士たちは一言も話さず、用意された食事にも一切手を付けない。時折、身じろぎするたびに鎧が小さく鳴り、その音さえも妙に大きく聞こえた。
まるで空気そのものが重くなったみたいで、背筋を伸ばして座るだけで精一杯だ。
そもそも僕なんて十歳だよ? 足だって床に届いてないのに、なんでこんな場所に……。
周りは大人ばかりで、きらきらした空間の中で僕だけがぽつんと浮いている気がした。レオやボラムは大人と変わらないくらいの身長だ。
ボラムなんて、騎士の一番大きな男とほとんど変わらない。横にも成長してるけど。
「ちっ。メルにお願いされたから来たのによ! なんだよこの護衛依頼はよ!」
レオはまだいいよ。僕には選択肢がそもそも無かったんだから。
「あれー? レオもアルスもご飯食べないの? おいしいよ?」
ボラムは骨付きの肉をかぶりついているが、目の前の騎士たちが気にならないのだろうか。
「……我々のことは気にしなくてよい。存分に食べられよ」
そのうちの一人、僕の目の前に座っている騎士が声をかけてきた。立派な口ひげが目立つ壮年の騎士だ。
「あ、ありがとうございます……」
そう言われ、僕も早速目の前の食事を食べ始める。レオもゆっくりとだが食べ始める。
あ、本当だ。これはうまいな。胡椒がよく効いた骨付き肉で、皮もぱりぱりに焼いてある。
肉汁が銀の皿に滴り、香草の香りがふわっと鼻をくすぐった。
前世で食べたものの感覚なんてほとんど忘れているが、これはまず間違いなくおいしい部類だろう。
さすが貴族も使う高級店。護衛に出す食事も一流だ。
「これ。うまいな……」
レオも同じ骨付き肉を食べて感嘆している。目の前の騎士たちは本当に食べなくていいんだろうかと疑問に思っていたら、ボラムが声をかけていた。
「あの……食べないなら僕が食べてもいいですか?」
ボラム! 君はすごいね! 確かに成長期だからこんだけじゃ足りないよね。
「……ほら食え」
ボラムの前にいた、まだ若いであろう騎士は、ボラムに自分の肉を渡した。
「ほ、本当ですかー! ありがとうございます!」
「残すのはもったいないからな。我々はここに来る前に食べているのだ。君たちも私たちの分を食べてよいぞ」
レオの前に座っている壮年のオールバックの騎士が、僕たちの前へ食事を少し移動してくれる。
「あ! ありがとうございますー! レオ! アルス! よかったね!」
「どうもっす……」
僕もレオも頭を下げ食事を続ける。出てくるパンもふわふわだし、食事としては最高だ。目の前の騎士たちも僕たちが食べる姿を心なしか優しそうな表情で見ている気がする。
最初は怖かったけど、意外にこの人たちは紳士的だな。さすが騎士の国シルベスト。
――しばらくすると最後の飲み物が運ばれてきた。
どうやら食事は終わりらしい。ほどなく給仕が現れ、退席を告げる。
「わかった。参ろうか」
他の二人もすぐに立ち上がり、一度こちらに目礼をして部屋から出ていく。僕たちもそのあとに続いて部屋の外へ出る。
メイン広場に出ると、壁には細かな金の装飾が施され、天井からは大きなシャンデリアが吊るされていた。無数の光が大理石の床に反射している。
こんな場所、僕みたいなのは本当に勘弁してほしい。
中央の階段を上った先には、カイとエルナ、そしてお見合い相手の少女と女騎士がいた。カイと少女は和やかに談笑している。
やがて僕たちに気づいたカイと少女が、階段を下りてきた。
白い石の階段にシャンデリアの光が降り注ぐ。その光を受けて、少女の白銀の髪がさらりと揺れた。
下まで降りると、それぞれの護衛は背後につき控える。エルナの表情を見ると少し険しそうだ。
「それではカリステア様。この度はご一緒できて光栄でした」
「いえ、カイ様。こちらこそ、楽しい食事会でしたわ」
僕も顔はなるべく上げないようにしているが、ちらっと見たときにルビーのような瞳と目が合う。少女は軽くお辞儀をすると、すぐにカイとともに建物の出口へ歩き出した。
僕たちも後に続き外へ出た。
レストランの外には、すでに馬車が用意されている。
中央市場には昼間とは違う、夜の賑わいが漂っていた。通りを照らす街灯の明かりが、馬車へ向かう少女の横顔をほのかに照らしている。
僕たちはカリステアが馬車に乗るまで待った。護衛の騎士たちはすでに騎乗している。
「それではカイ様。また後日」
「はい。また」
そうして馬車が見えなくなるまで見送ったところで、レオとカイが深いため息を吐いた。
「しんどいぜ」
「俺もだ。そっちに行きたかったよ」
「いやいやカイ。こっちも最後は良かったけど、気まずかったから」
僕はカイへこっちも大変だったことを伝えたが、カイの話を聞くと、そもそもカイはほとんど食べれなかったらしい。
「騎士の国の騎士の娘だからさ。戦場の話とか結構グイグイ聞いてくるから、全然食事はできなかった」
「え、それって僕の力の話とかもしたってこと?」
「いや、あれは傭兵団でも口止めしてるだろう? さすがに言ってないって」
良かった。その話をされると色々な所からやっかみが出てきそうだ。ようやく髪染めがうまくできるようになってきたのだ。しばらくは厄介ごとは避けたい。
「ともかく……帰りにどこか屋台で飯でも食わないか?」
カイは腹をさすりながら言った。城門の方ではまだ多くの人が行き交い、屋台からは呼び声と食べ物の香りが流れてくる。
だがその時、僕に乙女心の神が降りてきた。
「え、本当! 行こう! いこ――「いやー! 僕たちはいっぱい食べたからなぁ」」
ボラムの言葉を遮り、レオにも視線を送る。
レオは瞬時に察したみたいだ。さすが斥候隊隊長。状況判断は素晴らしい。
「カイもエルナもほとんど食べれなかったんだろ? 二人で食べてこいよ」
「そうそう。これ以上は僕たち食べすぎちゃうしさ」
「ええ? まだまだ全然食べれるよー」と後ろで言っているボラムを無視して、僕たちはカイとエルナを誘導していく。
「そういえば、中央市場にお洒落な夜ご飯食べれる場所があるんだよね? なんて言ったかな?」
「月見亭だろ? 最近できたばかりだが、結構有名でご飯も美味しいらしいぜ。値段もそこそこだ」
カイは僕たちの意図に気づいたらしい。目を細め、怪訝そうに聞いてくる。
「お前ら……何考えてんだよ」
「ほら! 早くいけよ! 大人数で行くなら予約が必要だろうけどよ。二人なら余裕だぜ!」
「そうそう! あ、僕たちは先に帰って皆に伝えておくから! ほら! ボラムも行くよ!」
そうして月見亭に行ってみたかったボラムを押しながら、僕たちはその場を離れる。ちらっと後ろを振り返ればカイが頭を掻きながらエルナに話をしていた。
エルナも顔を真っ赤にしながら頷いている。
よし! 成功だ! きっとメルも僕のことを恋愛マスターとして見直してくれるはずだ。
僕の足取りは軽く、傭兵団アジトまで3人で並んで帰った。
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帝都アルベリア 貴族区 借り受けた豪華な屋敷 カリステア
――屋敷の中はとても静かだった。
部屋に入った瞬間、空気がわずかに震える。防音の魔法が展開されたのだと、すぐに分かった。
部屋に残されたのは、護衛として付いてきた一人と私だけだった。
私はソファに腰を下ろした。その者も鎧を外し、どかっと、腰を下ろした。
「どうであった? あの者で間違いないか?」
オールバックにしていた髪をぐしゃぐしゃと手でかき分け聞いてくる。
「陛下。いくら私の前とはいえ些か……」
「良いではないか! 娘の前でくらい楽にさせてくれ。畏まらなくてもいい。今は誰も聞いても見てもおらんからな」
陛下――父が満面の笑みを浮かべる。普段は威厳を持って玉座にいるだけに、そのギャップがすごい。
「それで? あの者は違うか?」
「ええ、違いますね。魔力は少なくはありませんが、多くはありません。それに、青い魔力の波動を感じませんでした」
「そうか……しかし、あの傭兵団の中にいるのは間違いないはずだ。他に気になったことはないか?」
父は鋭い眼光で私の方を見た。
「戦闘の話をした時にどうやって魔物の軍勢を撃退したのかという話になると、途端に話を逸らしましたね。やはり傭兵団内で口止めをしているのでしょう」
「ふむ。やはりか……あの時生き残っていた傭兵たちに聞いても口を滑らせん。ドワーフたちに聞いても、その話になった途端に急に黙るからな」
父は頭を抱えた。
傭兵たちは生き残りが少なく、口を割る者もいない。余程、その者に恩があるのだろう。
ドワーフに至ってはもっと露骨だった。その話をした途端、刀を向けられたという。
「……少し気になる魔力反応の子はいました」
「ほう?」
父は片眉をあげてこちらを見る。
「これまで調べてきた者たちとは違います」
私は、その時のことを思い出しながら言葉を続けた。
「魔力の乱れがない子でした。まるで……そう。魔力が途中で切られているかのように……」
「……魔力が切られている?」
「特徴は?」
「一番幼い子です。十歳ほどでしょう。私より年下です」
「あの子か……私も待機してる時に目の前で食べていたな。なぜここにいるのか不思議であったが……」
父は立ち上がり、そば仕えの者を鈴で呼ぶ。すると、騎士が1人入ってきた。
「碧狼傭兵団にいる十歳くらいの子供のことを調べろ。両親のこと、出身、周囲のこと全てだ。気になることは全て報告しろ」
騎士は頭を下げてすぐに出ていく。その時の父の横顔は獲物を狙う虎のようだった。
父は去っていく騎士の後ろ姿を見ながら一人口にした。
「必ずや、必ずや……我らが悲願を……」
その顔は笑っていた。
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