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24.変動する世界

アウレシア皇国の表記が間違えていたため修正しました。


文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 ――傭兵団が駐留している時に使わせて貰っていた作戦部屋へ向かう。


 他の傭兵たちに主要メンバーを呼びに行ってもらっている間、カイは終始無言だった。

 エルナは傍にいるが黙ったまま立っている。


 気まずい……。


「お? 俺が一番乗りか?」


 マルクが汗を拭きながら部屋へ入ってきた。そして近くにあった椅子を手繰り寄せてすぐに座る。

 集まってくる仲間たちの足音が、石造りの床に低く響く。誰もが緊張しているのが空気で分かった。

 カイの両隣にはガスト、エルナが座りあとは各々立ったり座ったりしているが視線だけは皆カイを見ている。


「皆、急に集まってもらって済まない。今後の碧狼傭兵団のことについて話をしたい」


 そして皆のことをしっかり見まわしてから覚悟を決めたかのように口を開いた。


「まず、俺は傭兵団を辞めるつもりは無い。侯爵閣下の息子と分かった今もそれは変わらない」


 その言葉に最初にほっとしたのはエルナだった。明らかに喜んでいるのが伝わり、周りの反応もほっこりしたものに変わる。当の本人も気づいたみたいだ。


 エルナ……姿勢を正しても顔が喜んでいるからあまり意味ないよ……。


「だけれど、今後は貴族としての活動も多くなるだろう。その間は代理の団長をガストに頼みたい。アルスと協力して事に当たってくれ」


「……わかった」


 ガストも心なしか嬉しそうだ。カイが残ってくれることに加えて、信頼されていることが嬉しいのだろう。


「碧狼傭兵団は今後は侯爵の派閥として立ち位置を固めるってことでいいかな?」


「ああ、それはその認識で間違っていない。父親だからってわけじゃなく、信頼できると思っているからだ。問題ないか?」


「うん。侯爵閣下なら信頼できるよ。カイのお父さんなら尚更ね」


 僕はカイに少しお茶らけて返す。


「はは。そうだな。今まで父親がどういうもんかなんて知らないからな。今後どうすればいいのかわからない。だが、俺はそれよりもアルス――」


 一度カイは僕をじっと見つめてからにやり、と笑った。


「お前の力の方が気になるな。アリアさんから聞いたぞ。大公閣下が訪ねて来たそうじゃないか?」


 ああ、あの時の話か……別に口止めする気もないし、いつかはどこからか漏れる話ではあった。むしろ侯爵が聞かなかった方が不思議なくらいだ。


「うーん。といってもその話は僕もあまり詳しくは知らないんだ」


 僕はあの日の夜のことを簡単に説明をした。”王の力”の話、そして皇位継承の話。

 マルクは驚いていたが、アリアは少し悲しそうな顔をしている。


「……俺の話よりもアルスの方がスケールがでかいな」


「そうだね。でも大公閣下は”王の力”については詳しくは教えてくれなかったし、僕自身もあの力を自由には使えないみたい。ただ、前よりも魔力が増えたかな、ってくらい」


「そうだな。お前少し頭のてっぺんの色が抜けてきてるぞ?」


「え!?」


 僕はその瞬間立ち上がり、部屋の角にある立ち鏡の前まで走り自分の頭をよく見てみた。


 本当だ……最近鏡なんて見てなかったから気付かなかった。あれだ。前世で言う”プリン”と呼ばれている感じだ。でも白髪みたいなんですけど……。


「あー、お前苦労しているからその髪になってんのかと思ったぜ!」


「ねー。気づいていたけど、苦労して白髪になったのかと思ったー」


「「僕たちも! そう思っていた!」」


 皆気づいていたらしい……僕まだ8歳なんだから白髪なんて生えないよ……。


 僕がショックを受けているのを見て、リュシアやガンテは『きれいな色ですよ!』『わしは白髪なのかと……』と言っている。


「アルスの頭! お山の上みたいで綺麗だよ!」


 その言葉は僕の心を今日一番ショックを受けた。カイやレオは大爆笑しているし、ガストやエルナも笑いを隠しきれていない。

 メルだけは何で皆笑っているのかわかっていない。


「絶対! 絶対に染めてやる! 白髪なんてまだ生えないんだから!」


 ――僕の声は要塞内に響いたとか、響かなかったとか。

 笑い声はしばらく作戦部屋に残り、要塞の静けさに溶けていった。


 そんな騒ぎの裏で、遠く離れた国々でも“ある異変”が報告されていた。


 要塞の外では冷たい風が吹き、遠い国々の運命が静かに動き始めていた。



*************************************

シルベスト王国 王都シルベーン 王宮 ウルスト・アーベイン・シルベスト


 ――帝国の北方防塞群(セプテント・ライン)が陥落をせず、最後は撃退したという話を玉座で静かに聞いている人物がいた。


 鍛え上げられた巨躯に、金髪とルビーのような瞳を持つ男――シルベスト王は、静かに報告を聞いていた。

 

 その隣に控える長身の騎士が、疑問を口にした。


「なに? 鉄嶺堡(てつれいほ)で兵士たちが急に騎士のようになったと?」


「はっ。忍び込ませていた密偵からの報告ですと急に人が変わったかのようにドワーフたちが動き要塞が息を吹き返したとのこと」


「馬鹿な。そのようなことがあってたまるか。魔物が何かの理由で撤退しただけであろう? 聞けばアークレインが出張ったそうじゃないか」


 信じられないのだろう。鼻で笑い、報告を戯言として片付けようとしたその時――。


「王の力……」


 玉座の男がつぶやくのが聞こえた。そしてその男は報告をしに来たものに直接声をかけた。


「……その時、ほかに何か変わったことはなかったか?」


 その瞳に見据えられるだけで、周囲の騎士たちは自然と背筋を伸ばしていた。


「は、は! どうやら可視化できるほどの青い魔力の奔流があったと聞いております!」


「馬鹿な! 可視化できるほどの魔力など……おとぎ話をしているのかその報告をしたものは?」


 最初の鼻で笑った男はさらに笑いながら声をかけるが、バンッ!と急に玉座のひじ掛けをたたく音が聞こえた。


「オーズ……黙っておれ」


「は、はっ。失礼をば……」


 玉座の王――シルベスト王は報告をしに来たものに更に声をかける。謁見の間の空気がわずかに揺れ、誰もが次の言葉を待って息を潜めた。


「帝国の皇族がその要塞へ向かったということか?」


「いえ! そのような報告はありませんでした!」


 シルベスト王は玉座から立ち上がると、即座に命を出した。玉座から立ち上がった瞬間、重い外套が揺れ、王の影が床に長く伸びた。


「全諜報員を使え、皇国にいる奴らも帝国北方に向かわせろ! 必ずその力を発揮した人物を調べるのだ!」


「王よ! それでは皇国との国境守備に影響が……」


「関係ない! 戦争などどうでもよい!

 その力を持つ者こそ、我が国の未来を左右する。必ず連れてこい!

 よいか! 必ず――必ずだ! そのお方をわがシルベストへお連れするのだ!」



*************************************

アウレシア皇国 聖都 大聖堂 アーデルハイト・ウル・オルスト・アーク


 ――聖都の大聖堂でも聖騎士の報告を受けた枢機卿たちが、若い教皇へ報告しに来ていた。


「猊下。帝国は魔王軍を退けたようでございます」


 その男は聖職者の格好をしているが、身にまとう魔力布はほのかに白く発光している。

 大聖堂の高い天井から差し込む光が、彼らの影を長く伸ばしていた。


「そうですか……帝国は守り切りましたか」


 若き教皇の前には、女神像を模した巨大な聖印が静かに輝き、場の空気を張り詰めさせていた。


「はい。残念ながら……」


「魔物は人類全ての敵です。異教徒とはいえ同じ人類。喜んではいけませんよ」


 教皇は穏やかに微笑み聖印を切る動作をした。


「かの国は異教の教えが蔓延していますが、本来は私たちの教えを待っているのです。反逆者アルベスの子孫たちから解放せねばなりません」


「はい。ですが、どうやらあの地で青い魔力が湧き出るのを見たものがいるとか……」


 枢機卿の一人が頭を下げたまま報告する。その瞬間、教皇の笑みは消え、急に無表情となった。その眉間にしわを寄せ手で顔を覆った。


「なんと……女神は我らに更なる試練をお与えになったというのか」


 枢機卿たちは誰一人として顔を上げず、ただ静かに祈るように教皇の言葉を待っていた。


「皇室の人間が外へでるなど……13年前に皇室の関係者を襲った際は、人違いであったと前教皇から聞きましたよ?」


「母も子も取り逃がしました。現在も行方は追っておりますが……」


「それよりも今回の方の確認を急ぎなさい。余裕はありますか?」


「勿論です。すぐにでも聖堂騎士団に確認に――」


 その時扉から聖騎士が一人足早に入ってきた。そしてすぐ近くにいる枢機卿の一人へ耳打ちをする。


「まさか! そんな……」


 報告を受けた枢機卿は驚きを隠せなかった。それを見た教皇は閉じていた瞳を片目だけ開け、聖騎士へと声をかける。


「その方、発言を許します。この場で報告なさい」


「は! 守祉蒼盾(しゅし そうじゅん)騎士団第一大隊所属。ウーレッツ・ミストが報告いたします!

 セントラル連邦国境付近にて帝国軍が出現! 連邦は大敗! 帝国軍はそのまま皇国北の要塞へ進軍中!」


 報告が響いた瞬間、大聖堂の空気がわずかに震えたように感じられた。誰もが息を呑み、聖堂の静寂が重く沈む。


 亜人国家である連邦と清濁を併せ呑み、結託して帝国を攻めた。そのおかげで国境要塞を一つ確保したというのに――


 その連邦が敗れた。


「兵力と紋章は?」


 教皇は静かに問いただした。


「兵力は一万! 紋章は王冠に瞳――アークレイン公爵軍のもの。総大将は帝国の軍神、“不敗の騎士”フランク・ユーグストと思われます!」


 その名を聞いた瞬間、枢機卿たちの顔色が一斉に強張った。


「アークレイン! それにフランクだと!」


 その名を聞いた瞬間、枢機卿の一人は椅子を握りしめ、指が白くなるほど力を込めていた。

 

 その気持ち……私も同じですよ。帝国最強の騎士が動くというだけで、北方の均衡が崩れかねません。


「先ほどの調査へは人を回せなさそうですね。早急に対応せねばなりません」


 皇国北方が揺らぐ――その現実が、聖堂の空気をさらに重く沈ませた。


 女神ルミエラよ……この地を照らし、我らへ祝福を――

 

 教皇は女神の像は振り向き、再度聖印を切った。


ブックマーク応援のほどよろしくお願いいたします。

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ここまでで章をまとめます!次は新章になります!


毎日15時更新です。

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