23.侯爵とカイ
すみません。いろいろ作っていたら時間過ぎてました。
多分改稿して差し込みます。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
「お、俺が……?侯爵閣下の息子……?」
その言葉が部屋の中で響く。
誰もかれもそのあとの言葉を探している。侯爵自身言った後は険しい顔をして黙ったまま立っている。
だが最初に言葉を出したのはうろたえた声のドバだった。
「う、嘘だ! そ、そいつが? その平民が侯爵の息子? ありえない! そうであったとしても庶子であろう!」
「いえ……カイ殿――カイ様はれっきとした貴族の子ですぞ。正妻であらせられたシャロン様の妹君と侯爵閣下のお子です」
その言葉を返したのはヨルムさんだった。完全に諦めたのかカイの呼び方まで変わっている。
「エリーゼ様と侯爵閣下の子だと……! そんな! エリーゼ様は聖女であらせられた方だ! そのような話など聞いたことがない!」
ドバは急に立ち上がると、カイに向かって魔法を放とうとしているのが見えた。
「認めないぞ! お前が侯爵の跡取りなど! この私が侯爵を差配するのだ!」
「な!」
こいつ……本気で殺る気か!
するとドバは未だに戸惑っている他の貴族たちにも声をかけた。
「お前たち! 俺が侯爵になれなかったら困るのはお前たちだぞ! 協力しろ! ここで全員倒れれば俺が当主だ!」
その話を聞いてほかの貴族たちも状況を理解したのか、俺たちに敵対する動きを見せる。
「っ! 正気ですか! ドバ! 反逆罪は処刑です!」
「うるさい! うるさい! 俺が侯爵になるんだ! 今ここで皆死ね!」
この部屋で魔法なんて正気じゃない。しかも俺たちは武器を持ってきていない。
「なめるなよ! お前ごときがこの私に逆らうなど!」
侯爵が魔圧を発動させる。その圧はさすが上級貴族だ。ドバたちも少し及び腰だ。
「や、やれ! 中位級がこれだけいれば侯爵一人くらい倒せる!」
数では向こうが上だ。中位級4人は脅威だ。ヨルムさんがいても押し切られる。
「〈リミテッドブレイク〉」
途端にカイたちへ強化の力が注がれる。すると前よりも強い力がそそがれているのがわかる。
カイもその力の変化に気づいたのだろう。僕の方を見てくる。
その顔は驚きながらも笑っている。
カイとも後で話さないとな……いや、今は集中しろ俺。
再び視線を貴族たちに向ける。
緊張感が高まるのがわかる。
一触即発――その時
「貴様ら! 何をしておるか!」
「ゲ、ゲイン様!」
急に扉の向こうからゲインがあらわれ一括した。途端に貴族たちの魔力が胡散し怯えたような表情を見せ始める。
あのドバでさえ冷や汗を凄くかきゲインの方を見たまま固まっている。
ゲインは鋭い表情で部屋の中を見回す。僕が魔法を発動させているのを見るとさらに顔を怒りに染めて大喝する。
「貴様ら! まさかここで魔法を放とうとしているつもりか!」
「い、いえ! 違うのです! ただ……その……」
「わ、私はまだ何も! ドバ様が魔法を放とうと……」
「私も! やめた方がよいと思ったのです! それをドバ様が!」
「な! 何! 貴様たち裏切るつもりか! ゲ、ゲイン様! 違うのです、これは……その」
途端に瓦解する貴族連合。
ていうか……ゲインにあそこまで怯えるって、何を見せられたんだこいつら。
「ふむ……また戦場に立ちたいようですな」
その言葉に貴族たちは目に見えてうろたえ始めた。
「ま、待って――」
「問答無用ですぞ! さあ、先ほど魔の森へ調査へ行くと連絡がありましたからな! 付いてくるのです!」
ドバをはじめとする貴族たちの顔は一瞬で土気色になり、ガクガクと震えだした。一人は座り込み心臓を抑え始めている。
「そ、そんな……!」「もう無理だ……」
その光景に流石に僕たちも一体呆然としてしまった。ゲインはあの時東門で貴族たちを率いて防衛していた。
東門に残っていた魔力反応……あれはこいつらだったのか。魔物に囲まれて孤立していたのも納得だ。
「問答無用だ! 再編している最中に消えおって! 付いてくるのだ!」
「「「ひええ」」」
ドバは真っ先にゲインに首根っこを掴まれて引きずられるように部屋から連れていかれた。他の者たちも項垂れながらゲインと一緒に去っていた。
僕たちは言葉も何も言えず――
「…………一度落ち着きましょう。軽食でも取って気持ちを整えませんか? 構いませんな兄上?」
「ああ……」
ヨルムさんの提案に僕たちも賛同して昼食を食べることになった。
*************************************
――軽食を食べている間は静かだった。
窓から差し込む昼下がりの光だけが、気まずそうに俯くカイと侯爵の影を伸ばしていた。
……なんだこの空気。胃が重い。僕はご飯を食べるときは結構な確率でこうなるんだよな。
彼女は気配を殺すように歩き、湯気の立つ紅茶を置くと、深く一礼して部屋を去る。
扉が閉まる音がやけに大きく響き、残された空気が重く沈んだ。
「それでは、兄上」
「うむ……」
短い返事のあと、侯爵はまた黙り込んだ。
その沈黙は、ただ言葉を探しているというより――
何か重いものを胸の奥から引きずり出そうとしているように見えた。
耐えきれなくなったのか、カイが口を開く。
「侯爵閣下。自分は別に侯爵閣下の子であることを周りに言いふらしたりしません。醜聞でしょうからそこまで気を使って――」
「違う! 醜聞などではない! そなたは……私とエリーゼのれっきとした子だ!」
侯爵は椅子から立ち上がり両手を机に叩きつけながら否定した。
「……すべて話す」
侯爵は椅子に座り直し、机からパイプを取り出す。火種が赤く灯り、ゆっくりと煙が立ちのぼる。
その香りが部屋の静けさに溶けていき、侯爵はしばらく言葉を探すように口を開いた。
「私にはシャロンという伯爵家から嫁いできた正妻がおった。だが、シャロンは元々病弱で、子が望めるような体ではなかった」
侯爵は炎の火種を懐かしむように見てから、パイプに一度口をつけ吹かした。
「親族は多かったし、誰かが継げばいい――それほど私はシャロンを愛していた。
だが、シャロンはそれを良しとしなかった。そして……妹との間に子を作るように言ってきたのだ」
「当時、シャロン様にはエリーゼ様という妹君がおられました。私も含め、よく4人で遊んだものです……懐かしい話ですが。
エリーゼ様はシャロン様の体を治す方法を探すために帝都の教会で働いておられたのです」
ヨルムさんも懐かしむように会話を補足してくれた。
「ふん。お前はエリーゼと結婚するものばかりと思っておったがな」
「いえいえ。私と結婚しては幸せにはできないでしょう。それに兄上の傍で支える役目がありますゆえ」
侯爵は小さく『頑固者だよ。お前もシャロンも……』とつぶやいた。
「それにエリーゼ様は、教会で司祭にまで上り詰めました。そのことから、聖女として帝都の民から慕われておりましたから、私では不釣り合いでしたよ」
「その……聖女様がカイの母なのでしょうか?」
僕は話の続きを知りたくてつい言葉で急かしてしまった。
侯爵は一度目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「そう……じゃな。ある夜わざわざこの北方まで、エリーゼはシャロンに会いにここまで来たのだ。2人で話し合い。
そして私の側妻となり子供を作ることを了承した。
しばらくして本当に赤子ができた。あとは正式に式を挙げ、聖女をやめてここで暮らす予定だったんだが……」
帝国の教会は聖職者でも結婚の自由を定めている。だから別にそう批判されるような行いではない。
なのにカイは実際にスラムで暮らしていた。
「だが、エリーゼは帝都の教会から“呼び出し”を受けた。皇室の誰かの治療だと聞いていた。聖女としての務めなら断れなかったのだろう。
あの時、無理にでも止めておくべきだったのだ!道中、盗賊に襲われるなど……」
その話をした侯爵は奥歯を食いしばっていた。
「エリーゼ様の護衛には、わが侯爵家の精鋭をつけておりましたが帝都近郊で消息を絶ちました。
帝都で待っていた侯爵家のものから連絡を受けたとき、すぐに私が兄上の命をうけ調査に向かいましたが、相当な規模の盗賊に襲われたのでしょう……護衛は、ほぼ全滅していました。
そして――エリーゼ様の姿は、死体すら……どこにも見当たりませんでした」
エルナは震える声で『そんな……』とこぼし、カイの手を強く握った。
カイはその手を見つめ、わずかに息を呑んだ。
「むろん侯爵家の総力を挙げ帝都近郊をくまなく探した。だが、エリーゼは見つからず、その話を聞いたわが妻のシャロンも体調を崩し、そのまま……亡くなった」
侯爵の顔は、もはや下を向いたままだ。よほどつらい記憶だったのだろう。
「だが、そんな折に帝都のスラムで大規模な抗争がありましてな。その時、私はカイ殿を見かけたのです」
「え……俺を? そんな……いや、でも……」
「ええ、私はあの当時諦めらずに帝都に頻繁に顔を出しておりましてな。丁度商業区であなたを見かけたのです。
声をかけようとしたのですが、私を見るなり逃げだされてしまい……」
「ああ……あの時は騎士を見たら逃げてたからな……」
カイたちは覚えがあるのか、少し苦笑いしている。ヨルムさんは一度言葉を切り、重く息を吐いた。
「そのあとは探し続ける日々でしてな。スラムに住んでいることを知り、兄上に報告したのですが――
兄上は好きにさせてやれ、と」
ヨルムさんは侯爵の方をちらっと見た。侯爵は小さく鼻をならした。
「今更どんな顔をして会えばよいかわからなかった。妻も……エリーゼも守れなかった父親が、どんな顔で息子に向き合えるというのだ」
侯爵が言いどよんでいると、様子を見たヨルムさんが言葉をつないだ。
「そこで、灰月の手――帝都スラムで影響力を持つ盗賊組織の頭、マーガレットに保護をお願いしたのです」
そうか、あの時のマーガレットが言っていた貴族って侯爵のことだったのか。
ようやく合点がいった。カイの方を見ると今更どうしたらいいのか分からないと言った顔をしていた。
よく見ると確かに少し侯爵の面影はある……かも。
「カイ様はどちらかと言うとエリーゼ様や、シャロン様によく似ておられますよ」
ヨルムさんが微笑みながらカイのことを見ている。
「その……俺は……どうすればいいんだろう?」
カイはいきなり現れた父親という存在に驚いているし、今後をどうすればいいのかわからないでいる。
「侯爵領のことは気にしなくてよい。あの時はドバにあのように言ったが、跡を継ぐ等も気にするな。自由に生きればよい。
だが、もし私の後を継ぎたいのであれば――無論責任を持とう」
「……」
カイは黙ってしまった。僕を含めエルナたちも不安そうに見つめている。
「今すぐ決める必要はない。当分はここにいるのであろう? それまでに決めればよい」
侯爵はパイプの火種を消して、ゆっくりと席を立つ。そしてそのまま部屋の外へ出て行ってしまった。
ヨルムさんも後を追おうとするが、最後にカイへ近づいた。
「兄上はずっとカイ様のことを心配しておりました。何回も使いのものを送り込み、傭兵団のことを調べておいででした。
今回の護衛依頼もドバの婚約にかこつけて、一目見ようとしておいででしたから……
どうか、兄上のお気持ちを汲んでいただけますと助かります」
そして一礼して出て行った。
残された僕たちは、お互いに黙ったままになってしまった。
「とりあえずよ……俺たちも行こうぜ。他の皆にもこの話はしたほうがいいだろう」
黙ったままだったレオの言葉に無言で頷き部屋から出た。外の冷たい空気が心地よい。
その冷たさを肌で感じながら、皆がいるところへ歩みを進めた。
ブックマーク応援のほどよろしくお願いいたします。
星評価や感想もこれからの励みになります。
毎日15時更新です。




