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22.新たる火種

最初に間違えてマルクが入っていましたが、マルクはいません。すみません。


文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 メルと二人で砦内の侯爵がいる部屋へ向かうと、砦の一室は暖炉の火がまだ赤く揺れていて、奥の長椅子にはカイ、エルナ、レオが並んで座っていた。

 侯爵はそのさらに奥、重厚な椅子に深く腰掛け、ヨルムさんが背後に控えている。


「来たかアルス」


 カイが僕に気づくと声をかけてきた。

 僕は扉を閉めて遅くなってしまったのかと思ったが、侯爵はそこまで気にしていなそうだ。すぐに話を始める。


「お前たちの傭兵団の働きはとても助かった。この鉄嶺堡(てつれいほ)が落ちてしまえば、他の要塞の奪還も絶望的であった。

 あとは我が騎士団とアークレイン大公が授けてくださった兵力で何とかなるだろう――本当に助かった」


 侯爵は本当に満足しているのだろう。前よりも顔が険しくない。


「約束通り報酬を受け取るがよい。まずは金の話だ。受け取れ」


 木箱の蓋が開くと、淡い蒼光がふわりと漏れた。魔力を帯びた十枚の魔金貨は、まるで水面のようにゆらりと光を反射していた。


「こ、これは! 魔金貨! しかもこんなに……」


 魔金貨1枚で金貨100枚分だ。つまり金貨千枚分……約束されていた報酬の二倍だ。


「お前たちの傭兵団には苦労を掛けた。ほかの要塞へ派遣した傭兵たちにも別途報酬は渡す手はずだが、お前たちは勲一等だ」


 さすが大貴族……。だが、確かに傭兵団は今回壊滅的なダメージを受けた。立て直しも考えるとあるに越したことはない。


「それとカイ、お前は今日から男爵位を授ける。家の名を考えておけ」


「……謹んでお受けいたします」


「うむ」


 前に話していた貴族にしてやるという話だ。これに関しては傭兵団で話をまとめ受けることにしていたのだ。

 カイは貴族になるので、立派な一つの家の当主だ。

 

 これから縁談やらなにやらで大変そうだな……。エルナも頑張らないと、帝都に戻ればすぐにカイは取り合いになると思う。


「家紋を帝都に提出せねばならん。それも考えておくようにな。推薦人はこの私だ。寄り親として頼ってくれて構わない。

 だが、戦力等はあまり期待するなこちらもボロボロなんでな」


 侯爵派閥ってことになるのは避けては通れない。これからは僕たちの傭兵団はヴァルグレン侯爵寄りの扱いになるのだ。

 それが今後の活動にどのような影響が出るかは不明だ。逆に侯爵の派閥の貴族からは好意的に接してもらえるだろう。


「何から何までありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」


「うむ。よかろう」


 ――と、そこまで話が進んだところで、外からノックが響いた。

 ヨルムさんが扉の近くに寄り外の騎士から話を聞いている。

 そしてその眉を一度ひそめながら一度頷くと、侯爵の方に駆け寄り耳打ちする。


「なに? なぜあやつがきたのだ? ともかく待たせるように――」


 すると扉の向こうから「お待ちください! まだお話中でございます!」「黙れ! どうせ平民であろう! 私の方が優先に決まっている!」等声が聞こえてきた。


 怒声とともに扉が勢いよく弾け飛んだ。

 冷たい外気が流れ込み、暖炉の火で温まっていた空気が一気に乱れた。


「叔父上! このドバ・バフリーめの話を聞いてくだされ! ドワーフたちを許してはなりませぬぞ!」


 急に外からずかずかと貴族の若い男が入ってきた。見れば後ろからほかにも貴族風の男たちが数人一緒にいる。

 そして侯爵の座っている場所まで来ようとしているが、カイたちを見て足を止めそして小さく鼻を鳴らした。


「ふん、薄汚れた傭兵どもめ。叔父上、この者たちを処刑すべきですぞ! 要塞が落ちかけたのはこいつらのせいなのです!」


「……は?」


 あまりの言い分に、思わず素で声が漏れた。その言葉にドバと名乗る貴族は更に怒りを露わにした。

 ドバは床を踏み鳴らす勢いで距離を詰め、僕の胸倉を乱暴につかむと、そのまま椅子から引きずり降ろした。


「いっつ……!」


「アルス! 大丈夫!? 何するの!」


 メルが僕に駆け寄りその貴族を睨みつける。カイたちも立ち上がり殺気を出している。


「うるさい平民ごときが椅子に座っているんじゃない! 場所をわきまえろ!」


「なんだと……てめえ」


 レオが今にも切りかかりそうになった――その瞬間、侯爵の大声が部屋中に響き渡った。


「ドバ・バフリー! この私に恥をかかせる気か! 私の客人にそのような態度をとるとはいい度胸だな!」


「叔父上! こいつらは平民ですぞ! 客人の扱いなど不要です! それに私たちを戦場で置き去りにしたのですぞ!」


「何を言っている! この者たちは砦を守った功労者だ! 貴様たちのような砦一つも守れなかった役立たずたちとは違うのだ!」


 侯爵が立ち上がり貴族たちへ詰め寄る。その迫力にドバ以外の貴族たちは及び腰だ。だが、ドバはその言葉を聞いても平然としている。

 それどころか右手でカイを指さしながらわめきだす。


「叔父上! 役立たずは傭兵たちです! 特にワルトを含めた北方の冒険者や傭兵たちはひどいものです! 即刻処刑してくだされ!」


「貴様……何を言って――」


「この私は次期侯爵となる男ですぞ! そのために叔父上は私に婚約者を紹介したのでしょう? この私が役立たずであるはずがありません!」


 そして、侯爵などお構いなしなのか、カイの方に向かって声を荒げる。


「おい! お前カイと言ったな! 頭を地につけて詫びろ! そうすれば許してやる。それと……そこの女を私によこせ! 金髪の女もだ!」


 ドバはエルナとメルにもいやらしい目線を向ける。僕は一瞬何を言われたのか分からなかった。


「平民にしては美人じゃないか。胸もそこそこあるではないか。早くそいつらを渡して下がれ! 私たちで有効に使ってやる」


 胸の奥で、何かが静かに切れた。誰もが息を呑み、動きを止めていた。視線だけがドバへと吸い寄せられ、空気が張り詰めていく。

 

 ――こいつ本気で言っているのか?


 皆呆然としている。それもそのはずだ。レオは完全に戦闘態勢に入っているし、エルナとメルは体を見てくる貴族たちから腕で体を隠している。

 カイは、と思い見るとすでに行動していた。


「てめえ……エルナをそんな目でみてんじゃねえ!」


 普段のカイの言葉遣いから想像もできないほどの汚い言葉を放ち、ドバのことを殴りつけてしまった。


「ぐっ……。 き、貴様! 貴族を殴るなど! 重罪だぞ! 死刑だ!」


「俺もさっき貴族になった! だから俺が殴っても平気だろ!」


「なんだと! だとしても精々騎士爵か準男爵風情だろう! この私は男爵位をすでに持っているのだぞ!」


「それなら俺も男爵だ!」


「な、なに! 叔父上! このような奴に男爵位を与えるなど! 正気ではないですぞ!」


 ドバは床に手をつきながら侯爵の方を見ながら喚く。だが、侯爵はドバを見下ろしたまま動かない。

 その顔には一切の感情がなかった。だが、後ろを向き部屋にかかってあった剣を手に取った。

 剣を抜くと、そのままドバへ振り下ろし――


 キンッと金属同士が当たる音がした。


「なりませぬ。兄上」


「その剣をしまえ……ヨルム……ここで後腐れなく殺してやる」


「いえ。貴族を処刑するのは帝国高等裁判で判決を待たねばなりませぬ」


「不要だ……私は高等裁判の判事も兼ねている。ここで処刑しても問題ない」


 見ればドバは目を見開いて固まっている。目の前の光景が信じられないのだろう。


「お、叔父上……殺すのであれば、あの平民たちですぞ!」


「だまれええええ! なぜ……なぜあの者たちを殺さねばならないのだ! 殺すべきは帝国の膿であるお前たちだ!」


 侯爵は完全に激高している。顔も真っ赤にし、今までよほど我慢していたのだろう剣を持つ手も震えている。


「な! 何を! 私は甥ですぞ! 私が死ねばヴァルグレン侯爵家は断絶ですぞ! この私以外に跡を継げる正当なものはおりませぬ!

 まさか、庶子であるヨルムに継がせる気ですか? ですが、そのあとは? 子のいない叔父上は私が必要なはずです!」


「ドバ! それは言い過ぎです!」


 ヨルムさんがドバヘ静止の言葉をかけるが、その前に侯爵が言葉を放つ。


「貴様など!! お前など必要ない! 私の後はカイが継ぐのだ! あやつは私の子だ!」


 その瞬間部屋の空気が固まった。


 ――え? 


 カイを見ると口を開けて呆然としている。僕のほかの皆も目を見開いたまま動かない。

 ヨルムさんだけが、手を顔に当ててうなだれている。


「お、俺が……?侯爵閣下の息子……?」


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