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19.アルスの力

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

鉄嶺堡(てつれいほ)近郊 ヴァルグレン侯爵


 ――アルスたちが懸命に砦を守っている同刻。侯爵軍は鉄嶺堡(てつれいほ)近郊に到着しようとしていた。


「急げ! ヨルムやあの小僧たちを死なせるわけにはいかんぞ!」

「はっ」


 援軍と合流するために時間がかかってしまった。道中、砦からヨルムの伝令が来た。

 報告を受けた直後だったこともあり、侯爵は馬上でわずかに眉をひそめた。砦の方角には黒煙が上がり、遠目にも戦況の逼迫が伝わってくる。


「侯爵」


 その時、後ろから声がかかる。声は低く、しかしよく通る。緊迫した空気の中でも揺らぎがない。


「これは! いかがなさいましたか?」

「先程伝令が来ただろう? 砦の状況はどうだ?」

「……状況は最悪です。南門と西門で死守をしているそうですが、陥落していないのが奇跡のような状態です」


 男の眉がわずかに動いた。その反応だけで、状況の深刻さが伝わる。砦の方角では、魔物の咆哮が風に乗って聞こえてきた。


「数は?」

「……敵は数千を超える規模とのことです」


 私は馬上のまま説明する。

 今は緊急時なので下馬して報告するようなことはしない。この方は、礼儀よりも状況を優先する実務的な人物だ。


「……我々の部隊が先行しよう。急造した部隊では中々難しかろう」

「申し訳ございません」

「なに、気にするな。おい、馬足を上げさせろ。身体強化を使え」

「「はっ」」


 男は、後ろについてきていた青い鎧を纏った騎兵に声をかけた。

 蒼紋騎士団(そうもんきしだん)――この部隊を連れてきているだけで、本気度がうかがえる。


 その時――砦の方から凄まじい魔力の波動を感じた。


 なんだ! この魔力は! 可視化できるほどなど! 上級?いやこれは――


「公(・)爵(・)閣(・)下(・)! これは!」


 横を見ると公爵閣下も目を見開いている。そのようなお顔は初めて見た。

 そして、独り言のように言葉をつないだ。


「……まさか。この地にいるのか!」


 どういうことだ? 公爵閣下は何か知っていらっしゃる?


「閣下はあの魔力にお心当たりが?」

「ああ。いや、知っているだけだが……。確証はない」

「それは? どういう――」

「すまんな、侯爵。後で話す。先行するぞ!私に続け!」


 太公は、後ろについてきていた青い鎧の騎兵に声をかけた。そして、そのまま騎士団を引き連れて駆け出した。


「……我々も急ぐぞ!」

「「はっ」」


 一体何が起きているんだ――



*************************************


 ――脳が焼けるように熱い。心臓から溢れ出る魔力は、戦場の至る所に行き渡り、仲間たちへと注がれている。


 ドクンドクン――まるで自分のものではないようだ。腕輪は、まるで生き物のように僕の腕を走り回り金属音を響かせている。

 仲間たちの位置や感情が一気に流れ込み、脳が悲鳴を上げた。


 このままでは会話すらままならない。


「アルス様! ご無事ですか! アルス様!」


 リュシアが呼びかけてくれているのが分かるが、頭の雑音に紛れてしまい、意識が霞む。


 だが――倒れるわけにはいかない!

 まだ皆が戦っているんだ。僕のこの力が少しでも役に立つなら!まだ意識を失うわけには!


「坊! リュシアの嬢ちゃん! 坊は大丈夫なのか!」

「わ、わかりません! ただ、アルス様の膨大な魔力が暴走しています。このままではアルス様の身が持ちません!」

「坊! わしらは無事じゃ! 城壁の上の敵は一掃したぞ! 敵もどうやら恐れて登ってこなくなったのじゃ!」


 皆の声が聞こえるが、僕はリュシアに抱き抱えられたまま動けない。

 カイの声も聞こえる。だけどなんで言っているのか分からない。


 その時、僕の魔力が他の軍勢の気配をとらえた。侯爵の援軍だろう、ようやく援軍が来たことに僕は安堵した。

 すると体から出ていた魔力が、急激に落ち着いてくるのがわかった。

 心臓から出る魔力もどんどん萎んでいき――


 僕は意識を手放した。



*************************************


鉄嶺堡(てつれいほ) 碧狼傭兵団 カイ


 ――急に可視化できるほどの青い魔力が、城壁一帯を包み込んだ。その瞬間に傷は癒え、体にアルスの限界突破(リミテッド・ブレイク)に似た力が宿っていくのを感じた。


 だが、その力は今までとは比べ物にならなかった。剣を払えばバターのように敵を薙ぎ倒し、ルビーの魔法は、城壁にへばりついていた敵を一瞬で一掃した。


「アルスの力か! 威力が上がったのか!」

「すげえな! これなら守り切れるな!」


 レオが喜びながら残った敵を倒している。


「アルスはどこだ!」


 その時ケイトが俺のところに来て、アルスはまだ西門と南門の梯子を守っていると聞いた。


 あいつ!自分の立場を忘れたのか!


「ガスト! ここの指揮は任せる! アルスの様子を見てくる!」

「……まかせろ」


 俺はすぐに西門付近まで近づいた。すると、エルナが近づいてきて、アルスがガンテたちと殿(しんがり)をしていることを聞いた。

 俺はすぐに梯子の所まで行くと――

 そこには、絹のように白(・)い(・)髪(・)の少年がリュシアに抱き抱えられ、ガンテがそばで声をかけていた。


「アルス……なのか? 髪が……白い……! リュシア無事か!」


 すると俺の声に気づいたリュシアは、目尻に涙を溜めながら答えた。


「カイ! アルス様が! 魔力を使ってからこの状態で! 声も届かない! 顔が真っ青だ!」

「……! この魔法のせいか! アルス! 一旦は大丈夫だ! もうやめろ!」

「無理だ! 声が届かないんじゃ!」


 なんだと! このまま使い続けたらアルスはどうなる!


 俺がどうしようか悩んでいると、背後からレオが呼びかける声が聞こえた。


「カイ! 援軍だ! 侯爵の援軍が来たぞ!」


 その言葉に、城壁の上から砦内部を見る。

 そこには青い鎧を着た騎士が次々と馬でかけてくるのが見えた。


 あれは……侯爵の援軍なのか?

 北から来たということは、侯爵軍に違いない。


 俺はそう思い再度アルスのいる梯子付近に近づく。


「アルス! 本当に大丈夫だ! 援軍が来たんだ!」


 その言葉が聞こえたのか分からないが、アルスは少し身じろぐと、急に力が抜けたようにリュシアに寄りかかった。

 そして、魔力が収まっていくのが目に見えてわかった。


 ――魔力が霧散した瞬間、白かった髪がゆっくりと黒へ戻っていくのが見えた。



*************************************



 ―― ――次に目を覚ますと、そこには見慣れない天井があった。

 起きると、夜だったみたいでメルが近くで寝ている。リュシアやガンテも床で寝ていた。

  

「メル……ありがとう」


 腕から見える顔は泣き跡がしっかり残っていた。きっと泣きながら、僕のことを看病してくれていたのだろう。


「あら? アルス、起きたのね」

「アリア母さん……」


 僕は戦いがどうなったのか聞こうと口を開きかけたが、アリアが口に指を当てている。

 そしてメルの方を少し見てから、近づいてきて小さい声で教えてくれた。

 

「あなた丸一日以上寝ていたのよ?」

「そんなに……」


 僕がちゃんと反応を返してきたからだろう。その後のことについても教えてくれた。


「戦いは侯爵の援軍が来てくれたおかげで終わったわ。魔物たちも引いていったわ」

「そっか……助かったんだね。皆も無事?」

「ええ。カイも起きたら連絡が欲しいと言っていたわ。真夜中だから……流石に寝ていると思うわ」

「そう……」


 たくさん寝ていたせいか体は軽い。だが妙に空腹だった。気づいたらお腹が小さくぐぅ、となるのが聞こえた。

 アリア母さんが微笑んで「ご飯を持ってくるわ」と言って扉の方から出ていった。


 一人になって、ようやく考えられるようになってきた。侯爵の軍勢が間に合ったおかげで助かったのだろう。


 だがその前に僕が見せた力――

 右腕についている腕輪を見てみる。少し銀色の輝きが月明かりで今までとは違って見える。


 これはなんだ?僕の魔力を抑えてくれているのか?ゲインは僕が皇族だと言っていたが、凡位であることに疑問を持っていなかった。

 本当の両親のことを知っているなら、魔力の量も当然ある程度予想がつくはず。それなのに言ってこなかったところを見ると……。


 これが何なのか……ゲインなら知っているのかもしれない。


 その時、扉をノックしてくる音が聞こえた。その音でリュシアとメルが起きてしまった。


 アリア母さんかな?ご飯を持っているから扉が開けられないのかな?


「アルス様! 起きられたのですね!」

「アルス……アルス! 起きたの! よかった! 心配したんだよ!」


 二人とも駆け寄ってきて僕の心配を凄くしてくれているが、アリア母さんが扉開けられないと思う。そう思って言い出そうとした瞬間、再度扉を叩く音が聞こえた。


 するとリュシアがその扉に近づき扉を開けた。何か話をしている。そしてリュシアが道を譲った。


 アリア母さんじゃない……誰だこの人は?


 白い髪に青い瞳が、月明りを浴びてより一層際立っていた。鍛えられた体つきも、ただ者ではない雰囲気を放っている。

 その男は僕のそばまで来ると、急に膝をおった。


「いと高き御身に女神ルミエラの祝福を」

「えっと……?」


 すると男は、無表情の顔を崩し少しだけ笑いかけた。


「お初に御意を得ます。帝国西部にて太公位を拝命しております――

 ヴァレリウス・エドガルド・アークレインと申します。以後お見知り置きを」


 その男――アークレイン太公はそう名乗った。

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