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17.鉄嶺堡《てつれいほ》の戦い_中

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 魔物たちが撤退した後、ドワーフたちに話を聞くと、大半の魔物は夜に活動することが多いらしい。

 ならば昼間に休めばいい――そう考えて、最低限の見張りだけを残して休もうとした。

 しかし、奴らは昼間にも攻め寄せてきたのだ。


「くそっ! 魔物たちは夜しか動かないんじゃないのか!」

「アルス坊! それは平時の話じゃ! そう何度も愚痴るでない! 今は魔王に率いられている! きっと活動の仕方も違うんじゃろうて!」


 僕とガンテは、次々とゴブリンたちを城壁の下に落としていた。

 その下は魔物の死体が積み上がり、城壁との高低差が徐々に無くなってきている。このままでは、奴らが登ってくるのも時間の問題だ。


「そんな、こと、言ったって……さ!」


 さらにもう一体投げ落とす。

 僕は基本的にリュシアと行動し、戦況の厳しい場所へ応援に入っている。

 その際は大楯隊――ガンテたちも一緒だ。

 大楯隊は僕の魔法で強化されている。昨日の夜にかけた魔法はまだ切れる気配がなく、彼らは細かい傷こそあれど深手はない。大楯でゴブリンをまとめて吹き飛ばすほどだ。

 ガンテなど敵のオークすら槌で城壁から吹き飛ばし、城壁の下よりもはるか遠くへ飛ばしていた。


 あれを見たときはびっくりしたよ。ガンテの2倍以上ありそうな巨体が簡単に吹き飛んだからさ……。


「ともかく、昼間も来られると全然休まらない。このままじゃ、僕たちはともかく他の戦線が持たないな」

「致し方ありません。私も含め、ここはアルス様の魔法が効いているおかげで被害が少ないですから……」


 リュシアが疲れ切った顔で答えてくれる。リュシアを含め暗部は重要な箇所で戦っている。

 何せ貴重な魔法使い。それも最低でも中位だ。数はそれほど多くないが、居なければもっとつらい戦いだったはずだ。


「いや、僕の力なんて微々たるものだよ。暗部の皆には本当に感謝しているよ」

「そんなことは!」

「そうじゃ! ここは本当に被害が少ない! 今の戦闘でもほとんど死んではおらんのじゃ!」


 二人が励ましてくれる。だけれども――

 城壁の壁にもたれかかる十数人のドワーフの死体。僕たちの援護が間に合わなかった者たちだ。

 救護班へ運ぶことすらできなかった。もっと早く気づいていれば。そう思わずにはいられない。


 昼間の襲撃は、再び敵の遠吠えで一旦の終わりを見せた。

 

 あの後、僕たちのところに中位級が2体同時に現れた。そして片方を倒している間にもう片方が暴れ、そちらを倒すときには更に被害は大きくなっていた。

 僕はその死体の前に行き、そっと手を合わせた。女神ルミエラのもとへ無事にたどり着けるように。


「坊……祈ってくれているのか? わしらドワーフのために」

「関係ないよ。皆懸命に戦ったんだ。悪いけど、作法はあまり詳しくないんだ。僕の知っている祈りはこれだけだから……」


 前世の作法だけど、祈るときはこれが一番しっくりくる。


「そう……じゃな。こいつらも懸命に戦ってくれたわい。後で酒を頭からかけてやらにゃ」

「逆に怒られそうだけど、ドワーフたちがそれがいいなら」


 ガンテと他愛もない話をしていると、後ろから斥候隊のものが声をかけてきた。


「アルスさん! カイさんから作戦部屋に集まるようにと!」

「わかった! すぐに向かう! ガンテ、悪いけどここで待機しててほしい。動きが違うならいつ来るかわからないから」

「おうよ! 任されたのじゃ!」


 僕はリュシアを連れてその場を離れカイたちのもとへ向かう。途中南門の上を通ったが、相当な被害が出ているように見受けられた。


 やっぱり、一番の激戦区は南門か……。このままじゃ、半分近くやられてしまっているかもしれないな……。


 


*************************************


 ――そして、その夜。

 その襲撃は昼間よりはるかにすさまじかった。


 敵も総攻撃なのか、オークの数も昼間とは比べ物にならないほど投入されていたし、見たことない狼のような魔物や、ゴブリンの中でも体格が人ほどある者たちまでいた。


 そして、明け方近くにまた敵は撤退していった。

 作戦部屋に集まった僕たちの表情は、暗かった。


「今日だけで数百人やられている。砦にいる非戦闘員も投入しているが……最初の頃から比べて、半数はやられた。もう、持たないかもしれない」


 カイが発した言葉は部屋の中でよく聞こえた。皆あちこち傷だらけで、カイ自身も顔に傷がある。小さい傷は回復させないでいるのだろう。


「カイ……悪いが東門は放棄した方がいいな。ゲイン殿が来て持ち直しているが、戦線を縮小させて南と西を守った方がいいだろう」

「マルクさん……東門のことは承知しましたが……」


 東門は洞窟みたいな構造だ。突破されたら地下から城壁内部に侵入される。それに……あそこには貴族の牢屋もある。


「ドワーフたちに聞いたんだ。どうやら、崩落させてしまうことは可能らしい。そうすれば、侯爵が援軍に来るまでは掘り起こされないだろうってさ」

「なるほど……あそこを崩落させてしまえば、城壁までは断崖絶壁ですからね」

「その分、南と西に来るだろうが……俺たちも合流して戦力を集めるしかない」


 マルクの提案を聞き、カイが僕に視線を寄せる。


「貴族たちはどうしようか? あの人たちは戦が始まったら逃げるんじゃないかな? 下手に動かれると困るな。今はミスリルの牢屋にいるから静かだけど、後ろから魔法を放たれたらたまらないよ」

「そうなんだよな……いっそ見捨てるか?」

「カイ……カイがそんなこと言うなんて珍しいね」


 カイは基本的には温厚で人を救うイケメンだが、今は疲れているのか少し荒んでいる。


「今は余裕がないんだ。ここであいつらを見ながら戦う、なんて無理だぞ」

「まあね。一応、中位級って話だから、戦力としては破格なんだけど。命令は多分聞かないし、何なら命令権をよこせと言ってきそうだよね」


 僕たちが頭を悩ませていると、ゲインがおもむろに口を開いた。


「東門に放置でいいでしょうな」


 カイと僕はゲインの方に目を向けた。それはつまり……。


「東門は彼らだけで守ってもらいましょう。そして、ドワーフたちには東門の崩落準備を進めてもらいましょう。

 必死に戦うのであれば、砦内部へ戻してあげましょう」

「いや、その話を受けるとは思えないけど……」

「アルス様。僭越ながら貴族の扱いはこのゲイン一番よく知っておりますぞ。私にお任せくだされ!」


 ゲインが自信満々に胸をたたく。ゲインの提案は魅力的だ。何せ中位級の力を持っていて役に立たないただ飯くらいを働かせるのだから。

 カイの方へ視線を向けると両肩をすくめて、好きにしていいんじゃない?という感じだ。


「じゃあ、ゲイン頼めるかな? ダメそうならゲインもすぐに離脱してね」

「もちろんですぞ! アルス様の警護がこのゲインの役目ですからな! 貴族のじゃじゃ馬どもをうまく使ってやりますぞ!」


 すごくいい笑顔で答えるゲインに、僕は大丈夫そうだなと、本気で思った。

 そして、マルク父さんに声をかける。


「じゃあ、マルク父さんは南門に行くのかな?」

「そうだな。南門が一番被害が大きそうだしな。西門の方は大丈夫なのか?」

「東門にいたルビーをもらえれば大丈夫かな? ルビーは南と東を行き来してもらう」


 ルビーは作戦部屋にほとんど来ない。戦闘が終わったらメルのところに行くか、城壁の上でドワーフと酒を飲んでいるからだ。

 だが、それではルビーに命令を出せない。だから、ケイトがこの場にはいる。

 

「わかりました! ルビーさんに伝えておくっす!」


 ルビーはいつもやる気なさげだが、戦う時はしっかり戦う。だる絡みもすごいけど。だが、救護班にはボグさんがいるから上手くあしらうだろう。

 一応組員の人たちは城壁で戦っているが、念のためボグさんだけはアリア、メルの護衛だ。

 もし、何かあったらこの要塞は終わってしまう。


「侯爵の援軍は早くても明日には来るんですよね?」

「そのように伺っております。兄上は時間はきっちり守るお方です」


 ヨルムさんの言葉を聞き、僕たちは明日までは何とか守り切ろうと決意した。



*************************************


 その後、貴族たちはゲインから話を聞かされた。最初は抵抗していたがゲインが剣を向けて、魔力で圧をかけるとおとなしくなった。

 

「貴様らには温情が与えられる。しかと働けば生かしてやるが、もし逃げ出したり役に立たないと判断したら私が魔法を後ろから打ち込むぞ!」

「な! 私たちは帝国貴族だぞ! 私たちを殺そうというのか! 帝国が黙ってはいないぞ!」


 一応、帝国法では貴族は帝都でしか裁けない。だから、よほどのことがなければ見逃されることが多い。


「何を言っておる! 戦場にいる以上、華々しく散ることもあるだろう! 殺すわけでは無い!」


 わあ。貴族の人たち真っ青だよ。でもそうだよね。戦死したら法律もなにも無いからね。

 

 渋々ではあるが、貴族たちは東門に配備されゲインが後ろで指揮をとるみたいだ。

 だが、明日増援が来なければ本気でまずいことになるだろう。侯爵からの伝令もあれからはきていない。今はどこにいるのかも不明だ。


 明日……増援が来なければ――


 僕を待っているのは、2度目の死。

 だけれども、仲間たちは失いたく無い。


 もしもの事も考えなければならないと、ゲインたちと別れて自分の部屋へ戻る。

 そこではメルが小さくなり寝息を立てていた。そばでは、アリアが膝枕をして頭を撫でていた。


「アルス……あなたも少し眠りなさい」

「アリア母さん……うん。そうするよ」


 僕は2人と距離を取って寝ようとしたが、アリアが手を引っ張り自分の膝の上に僕の頭を乗せた。


「よく頑張ってるわ。でも、こういう時はお母さんらしい事させて」

「そんな……」


 僕は気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが、疲れているのかすぐに瞼が重くなる。


 明日はどうなるのか――それは誰にも分からない。



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