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11.集落での戦後処理

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 死体を確認すると、胸に大きな穴が開いた騎士は、第二騎士団団長マーズで間違いないようだ。階位は中位クラスだったらしいが、リュシアたちエルフの敵ではなかった。


 エルフは、そもそも魔法適性が人間よりも遥かに高い。

 中でもリュシアは、戦闘用奴隷として買われていたほどの実力者だ。上位には届かないものの、中位の中でもかなり上の部類らしい。


 少し、空が青くなってきている。朝のスンとした空気を吸いたいところだが、今は焼けた匂いに埋め尽くされている。


「アルス。治療は大体終わったよ」

「うん。ありがとう、メル」


 背後からメルが声をかけてきた。後ろを振り返ると、服の至るところに血がついている。


「お疲れ様」

「アルスもね。けど、やっぱり間に合わない人はいたよ。お母さんなら、もう少しうまくやれたのかもしれないけど……」


 マルクやアリアたちは、騎士団と連絡を取り合うために城壁外の野営地で待機している。


「そんなことはないよ。メルのおかげで助けられた人が大勢いたんだ。回復魔法で重傷者まで治療できる人は、さすがに教会出身者だけだ。メルがいてくれただけでも幸運だったと思うよ。」


 四肢欠損等の重傷は、普通の回復魔法では効果があまりない。そこまでの治療をするためには教会の教えが必要なのだ。だから教会は権威があるのだから。


「うん。それよりもこれからどうしようか?」

「この騎士がマーズっていう、第二騎士団団長であることは分かった。

 だから、それをカイたちにまずは伝えないとね。そうすれば、ある程度は戦いやすくなると思うからね。」


 結局この騎士は何を思ってドワーフを殺そうとしていたんだ?どのみち侯爵たちにすぐ見つかるだろう。侯爵に見つかっても処罰されないような自信があったのか?それとも――。

 

「アルス様。その騎士の男……胸元に何か手紙のようなものがありますな?」


 考え込んでいたらゲインも近づいてきていたようだ。僕の目の前にある死体を指さしている。

よく見ると、確かに鎧のわきから手紙の端が見えている。

 僕はそれを手に取り、裏返してみると蜜蠟がされていて紋章が描かれている。目のような瞳が特徴的な紋章だ。


「この紋章……どこかで見たことあるな。確か……大公家の紋章かな?」

「なんですと!これは…アークレイン大公家の紋章ですな」


 ゲインも驚いている。僕もびっくりだ。帝国で三人しかいない大公からの手紙。なんで一騎士であるマーズが持っているのか……。


「これ封を開けるのはまずいかな?」

「……やめた方がいいかと。処分するのにもかなりの注意がいりますし、万が一、侯爵宛の手紙であった場合は処刑の対象になってしまいます」

「うへえ。手紙一つで処刑とか笑えないね」


 僕は途端にこの手紙を胸元に戻したくなってきた。

 

 これ見なかったことには……できないよね?まあ、それは絶対に無理だよね。メルとゲインは黙っていてくれるとは思うけど、もし侯爵たちがこの手紙の存在を知ってたら、知りませんでした!なんて通用しないから。


「はあ。とりあえずカイに渡してもらおうか」

「それがいいかと思いますぞ」


 とりあえず、カイたちが戻るまではドワーフの人たちに話を聞こう。


 僕はそう思い、騎士たちの死体を、傭兵団の者たちに馬車へ運ぶよう伝えた。

 その死体は厳重に警備しておくよう、それも併せて伝えた。万が一のために。


 死体に憎しみをぶつける人もいるだろうからね。でもそれだと、倒した証明ができなくなってしまうからね。


 そうして、死体の処理を任せ、ひとまずガンテの家族にでも会いに行こうかと思い歩き出した。



 半日くらい経っただろうか。被害状況や今後のことをドワーフたちに聞きながら待っているとリュシアが僕の元へやってきた。

 僕が膝をつくのを止めさせるより早く、リュシアは膝をついて報告してきた。


「アルス様。ほかのドワーフの集落へも向かいましたが、すでに侯爵家の騎士たちが間に合っておりました。いくつか襲われてしまった集落もありましたが……」

「そう……カイたちは戻ってきてるのかな?」

「はっ。一度アルス様とお話をしてから決めたいとのこと。しばらくすれば、皆この集落へ到着するかと思います」

「そっか……ならもう少し待とうか」


 僕はリュシアから視線を外して周りを見渡した。

 

 そう……だよね。ここに間に合ったこと自体が、奇跡みたいなものだ。被害がある程度出てしまうのは仕方がないか。


 心の中ではそう思うが納得はできない。もっと早くに気づいていれば、あの時、マーズと出会ったときに戻れていれば、など色々と考えてしまう。

 後ろから大きな手がそっと置かれてきた。

 

「アルス様。起きてしまったことは致し方ありませぬ。それでも、救われた方は大勢いたのです。そのことを喜ぶしか自分を納得させられませぬ。

 あまりご自身をお責めなさるな」


 ゲインの言葉が心に沁みる。

 

 そうなのだ。頭ではわかっているが心が納得しない。これは傭兵団をやり続けている時もあった感情だ。だけれど、僕はいつも過去に戻れたならば、もっと救えたのかもしれないと考えてしまうのだ。


「うん。ありがとうね。メルもリュシアも」


 2人も悲しそうな顔をして僕を見ている。心配をかけてばかりで申し訳ないな。よしっ!


「カイたちを出迎えに行こうか!とりあえずは、侯爵からお金をいっぱい貰おう!深夜残業手当も欲しいね」


 僕は、カイたちが来るであろう方向へ歩き始めた。後ろから3人とも付いてきてくれているのが足音で分かる。

 本当にいい仲間たちばかりだ。



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 それからカイたちと合流した。手紙のことも話し、一旦野営地に戻ることとなった。

 野営地に入る前に、侯爵家に回収した手紙を届けてくれるよう、門の近くにいた騎士にお願いをした。

 受け取った騎士は最初は胡散臭そうだったが、紋章を見た瞬間顔を青ざめて急いで走っていった。


 そのあとは、他の皆と泥のように眠った。次に起こされたときは、もう日がだいぶ傾いているころだった。

 どうやら侯爵から登城せよ、と連絡が来たらしい。


「もちろん、アルスも行くぞ」

「うん。そうだね。そうだよね。わかってたよ……」


 カイが僕を連れて行くのは決定事項だ。一応今回はメルとマルクも来てくれることになっている。


「カイ。無理してない?昨日からずっと働き詰めだし……」

「大丈夫だよ、エルナ。それを言ったら皆そうじゃないか」

「そうだけど……」


 エルナはカイのことが心配なのだ。僕にメルがいるようにカイにはエルナがいる。しかし、カイは結構なんでもできてしまうので歯痒そうだ。


 僕みたいに少し抜けている方が、支えがいがあっていいと思うんだよね!ま、呆れられてしまう可能性も、無きにしも非ずだけども。



 城門に近づくと、ヨルムさんが待っていてくれた。今日は護衛の騎士は他にはいない。

 ヨルムさんは軽く頭を下げてきた。


「皆様、この度はありがとうございました。皆様のご活躍大変勇ましく助かりました」

「ヨルム卿。私たちもヴァルグレン侯爵閣下のお役に立てたのであれば、この上無い名誉です。以後もよろしくお願いします」


 これは社交辞令だ。

 前回と違いこの時間は、城門前に様々な商人や、傭兵たちがいる。要はこの掛け合いで「ヴァルグレン侯爵と仲良くさせてもらってます。侯爵とは今後も付き合いあるからね」と周りにアピールしている訳だ。

 これが名前を売るということ。そして、ヨルムさんも分かっててこの場で言っているのだ。


「無論にございます。それでは、侯爵閣下がお呼びですので参りましょうか」

「はい。よろしくお願いします」



 侯爵家の城の中に入り、前回と同じ部屋に通された。そしてしばらくすると侯爵が不機嫌そうな顔を隠しませずやってきた。


「ふん。騎士団よりも先にマーズを倒したか」

「はっ、不甲斐ないばかりで申し訳ありません。確認も致しましたが、マーズで間違いありませんでした」

「あやつめ……」


 侯爵がヨルムさんの報告を聞いて不機嫌そうなのは分かる。そして懐から紙を一枚取り出し、机の上に置いた。


「これを読まなかった判断は褒めてやる。3年そこらの傭兵団にしては随分と貴族のことに詳しいな?やはり、ゲインがあるからか?」

「いえ、貴族とはあまり深くは関わらないようにしているだけです」


 カイが頭を軽く下げた。侯爵はじっとカイを見つめ「まあいい」と短く言葉を発した。


「報酬の件なら金貨500枚を用意した。護衛の件も含めてある」

「なんと……」


 マルクが思わず声を出した。金貨500枚は傭兵団としてみても破格の報酬だ。元々護衛依頼は金貨50枚くらいなので、上乗せは450枚ほどだ。

 

 これマーガレットに渡す分とは別だよね!大丈夫だよね!

 ボグさんに口止めとか無理だし、どうしようかな。誤魔化せるかな……。


 僕は出発前の交渉を思い出し、半分以上取られることを想像して1人恐怖していた。


「それで、だ」


 侯爵はそのまま話を続ける。貴族の話の続きは基本的には碌でもないことが多い。

 カイを見るとやはり顔が少し強張っている。


「追加の依頼を頼みたい」

「それは……魔王軍の侵攻と関係がありますか?」

「ほう……やはりお前たちの傭兵団は情報収集も長けているな。魔王が侵攻を開始してから早3年も経っておるからな。流石に民たちにも広まるか」


 そう、魔王軍南下の話は前々から帝都でも流れていた。そして、それは冒険者や傭兵間の間でも囁かれていた。


 魔王か……この世界は魔王って言っても、実は明確に魔王の存在は確認されていない。初代帝が戦った事があるって話から広まっただけで、本当にいるのかも不明だ。


 だが、話を聞く限り魔物たちの動きが活発になり、指揮するものがいる事から存在はしていると思われている。


「そうだ。侯爵領は北方防塞群(セプテント・ライン)に増援を送ることを責務としている。だが、今の状況は最悪なのだ。お前たちには話しておこうと思う」


 侯爵は手招きで僕たちを呼んだ。そして、机の上にあった手紙の上に地図を広げた。それはこの地域周辺の地図なのだろう。

 所々黒い四角があり、ばつ印がいくつかある。


「北方防塞群(セプテント・ライン)ーー

 北方にある七つの砦は今、三つを残して全て魔王軍の手によって陥落している」


 侯爵のその言葉は、帝国に暗い影を落とすものだった。



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