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7.侯爵領の実情

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

 侯爵が放った言葉はその部屋によく響いた。

 なにせ、大公が僕のことを知っているなど、普通ならありえないからだ。

 つまり、3年前のあの日に起きた僕たちへの襲撃事件は、大公も絡んでいた可能性がある。


 理由があるとしたら1つ心当たりがある。

 ――僕が皇族に連なることを知っているから?


 侯爵はそのまま話を続ける。


「ローゼンヴァルト大公がおぬし――アルスと言ったな。お前のことを教えてくれたのだ」

「なぜ……僕のことを大公閣下が知っていたのでしょうか?」


 頭に魔力が勝手に流れていくが、全然整理できない。そこまでの大物が出てくることなど予想していなかった。


「ローゼンヴァルト大公が言うには、お主はゲイン・ハイデルベルクを従えておるそうだな?ゲインのことは私もよく知っておる。月影騎士団の騎士団長だった奴だ。

 なぜ、お主に従っているのか?

 その理由までは教えてくださらなかったが、ゲインは皇室への忠義とは無縁の者であったからな。ついに、仕える相手を変えたのかと思ったのだ。しかし、お主のようなこわっぱに仕えているとは……」


 ゲインが皇室への忠義とは無縁?そんな感じには見えないが……。

 どう考えても忠誠心あふれる騎士のはずだ。


「兄上。私がカイ殿を迎えに行った際も、ゲイン殿はあまり表立っておりませんでした」

「ふん!あやつは、三大公や五大侯爵のような権力を持っている貴族も嫌いだからな。話しかけても一切話をしない、面白くないやつだ。

 きっと実力も大したことがないのだろう?そもそも、月影騎士団は解体せよ、と何度も大評議会で議題に上がっておるわ」


 なにかイメージがだいぶ違うな。ゲインは相当強いと思うし、僕と話すときはすごく話す。

 周りと話しているときも結構見かけるし、カイとか教えている子たちとも仲良さげだ。あれが演技とは思えないが……。


「まあいい。ともかく、ゲインを付き従えているスラムの子供ということでな。我々と話の際に上がったのよ。名前をその時に聞いただけじゃ。深い意味はあるまい。ローゼンヴァルト大公は情報収集に長けたお人じゃからな。

 それよりも――お主、案があるとな?聞かせて見せよ」


 侯爵は僕の方へ近づき、目の前で屈みながら僕の目を見て言った。


「貴族の会話を遮るほどの案なんじゃろうな?必ず成功するような案でないなら――

 お前らの傭兵団は潰す」

「……!それは!」


 カイとエルナ、どちらが放った言葉か。

 多分どちらも言っていたように聞こえたが、動揺しているのが伝わってくる。


「子供のお遊びにしては随分と戦力があるようじゃ。解体して私が使ってくれる」

「兄上!そのようなことをしてしまったら外聞が悪うございますぞ!」

「ふん!ドワーフどもの反乱以上に外聞が悪いことがあるか!今は少しでも戦力が欲しいのだ。

 それに――」


 侯爵は僕の瞳をじっと覗き込んでいる。圧がすごいな。目がギョロギョロと動き回っている。

 近くに来ると分かるが、この人かなり香水をつけているな。

 だけど不思議と嫌な臭いじゃない。


「お主自分の策に自信がありそうな目をしておる。その目……まあいい。話して聞かせよ」


 最後に侯爵は何か言いかけていたが、とりあえず話は聞いてくれるみたいだ……。良かった。

 だけれども、これから先の話でドワーフたちの未来も決まるな。

 責任重大だ。



 僕は侯爵に現状の話をした。ドワーフを保護したこと。そして、北方要塞へ傭兵団として行くこと。

 その際にドワーフたちを説得し、反乱を止めさせること。

 最後に反乱をおこしたドワーフを傭兵団で引き受けることまで話をした。


「……」


 侯爵はその話を一通り聞いてくれた。そのあとは部屋にある侯爵用の椅子に座っている。

 腕を組み目を閉じているが、時折目を開け何か呟いている。


「皆様。兄上が考えている間は中々終わりませぬし、話もあまり聞いておりませぬ。ここらで軽食を用意いたしましたので召し上がってくだされ」

「!ありがとうございます!」


 いやー。一気に話をしたからのども渇いたし、夜もだいぶ更けてきているからお腹もすいたよ。


 よく見ると皆もだいぶへとへとだ。僕だけがずっと話をしていたが、皆も緊張気で立ちっぱなしだったからな。

 心なしか皆もうれしそうだ。何せ貴族の屋敷で食べられるものなど気になって仕方ない。


 どんなものが出てくるのかな?軽いものだってヨルムさんは言っていたけど……。



 

 しばらく待って出てきたものは、黒パン、塩漬け肉の薄切り、根菜のポタージュ、魚の燻製。


 あとはガラスの容器に入っている黄色い液体……きっとエールだと思う。

 そこまで珍しいラインナップじゃないどころか、マーガレットがたまに呼んでくれた時に用意してくれるものと変わらない。

 食器が豪華なくらいだろうか。


「申し訳ない。いまはどこも食料不足でしてな。平時であればもっと歓待できるのですが……」

「いえ。歓待して頂いているだけ有難いです」


 カイは本当に嬉しそうにしている。僕だって塩の効いている肉はめったに食べれないから普通にうれしい。


「こわっぱ!こっちへ来い!」


 侯爵が僕のことを呼んでいるみたいだ。


 そんな……黒パンはよく見たらバター塗ってあるし、これ食べてからでもいいかな?


 ギロリと音がするように侯爵が僕のことを見ている。


 仕方ないか……。


「はい……」


 ちょっと大人がないかもしれないけど、不満そうに侯爵が座っている椅子の元へ向かう。侯爵は腕を組んだままではあるが、右手を人差し指を頭に当てて考えながら僕に聞く。


「まずはそのドワーフのガンテと話がしたい」

「ガンテとですか?」

「ああ、あいつのことは知っておる。あいつの言う通りなら私のところには陳情が届いているはずだが……私はそもそも受け取っていないぞ」

「え、そうなのですか?」


 確かにそれはおかしい。北方要塞の件を何度も聞いた時言っていたはずだ。

 そもそもの話、ガンテは誰(・)に(・)陳情を出していたんだ?


「なるほど分かりました……失礼ですが、侯爵閣下はいつも誰から陳情を受け取るのですか?」

「ふむ。お前も気づいたか。ヨルム!お前は誰から陳情をいつも受け取っておるのだ!」

「……そうですな。第2騎士団のマーズからですが……。そんなまさか!あの者に限ってそんなことは!」


 違和感はあった。

 侯爵は「鎮圧しろ」とは言ったが、「殺せ」とは一言も言っていない。食糧不足の中でも、ドワーフたちへの支援は続けていると言っていた。

 それなのに、ドワーフを殺して回っている騎士団がいる。

 そして決定的なのは――ドワーフたちの陳情が、侯爵の元に届いていなかったことだ。


 つまり、誰(・)か(・)が(・)侯(・)爵(・)に(・)届(・)く(・)は(・)ず(・)だ(・)っ(・)た(・)陳(・)情(・)を(・)握(・)り(・)潰(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。


「ヨルムよ!私たちが戦争の援軍としているである間に残っていたのは誰だ!そして、食糧配給をその間取り仕切っていたのは誰だ!」


 侯爵はもう確信している。


 きっとーー


「……第2騎士団のマーズです。私も兄上とともに従軍しておりましたゆえ。

 ですが、あやつは侯爵家を15年も支えている騎士ですぞ!」

「ええい!この馬鹿もんが!そんな事は関係ない!事実を正しく受け止めるのだ!あいつは今どこにいる!」

「……マーズは反乱をしていないドワーフの所に行き、場所を聞き出してくると言っておりましたが……」


 それは……まずいかもしれない!


「侯爵閣下!それは急いで止めたほうがいいかもしれません!」


 僕は思わず声を荒げて侯爵に詰め寄った。


「……理由は?」


 薄々、侯爵も気づいているのだろう。だがまだ確信を得ていないのか。

 カイが横から会話に加わってくる。


「第2騎士団には僕たちも会いました。マーズ・ボルドー子爵と名乗っておりました。

 そして彼らは袋を大量に馬に括り付けていましたがーー

 風に乗って、袋から血の匂いが漂ってきました」

「なんと!まさかあの者はーー

 ドワーフたちを殺して回っていると言うのですか!」


 ヨルムさんが、信じられないとでも言うように口を開いた。だが、思い当たる節があるようだ。


「……前にドワーフの存在について疑問に思っていました。奴隷のくせに不遜である等々、昔から貴族である事を誇りに思ってはいましたが……」

「ヨルム!すぐに第1騎士団を出せ!第3騎士団から第5騎士団まで、全ての騎士団を出動させろ

 第2騎士団たちがやろうとしている事は、北方が崩壊する事だぞ!必ず奴らを止めろ!」

「は!直ちに!」


 ヨルムさんが軽く敬礼をし、そのまま走り去っていく。

 そして侯爵は僕たちの方を向くと、怒りを隠さないまま僕たちに命令を出した。


「貴様らの派兵依頼は変更とする!ドワーフの鎮圧ではなく第2騎士団を探してもらうぞ!」

「侯爵閣下お言葉ですが、私たちは100人前後しか連れてきておりません……騎士相手に、それも数も分かりません」


 そうだー。カイ!負けるなー!

 

 侯爵は僕の方をギロリと見ながら、ニヤリと笑った。すごく迫力のあるまるで悪役の笑みだ。


「なに、元騎士団長や優秀な参謀がいるのだ。傭兵団とは言っても騎士団相手でも問題あるまい?

 第2騎士団は貴族が中心の騎士団だが、第1騎士団ほどの中位貴族は団長のマーズくらいだ。数も散っているならば、そこまで多くはあるまい。

 結局は傭兵であろう?金さえ払えば良いのであろう?

 いいからやるのだ!金は払う!やれ!」


 この人本当に貴族なのか?本当にヴァイキングじゃないか……。

 傲慢な感じは貴族だし、傭兵団を使ってやろうってのも貴族らしいけど。


「……分かりました。しかし、私も傭兵団の団長として部下たちを危険に晒す事は極力避けたいです。いくら金があろうとも、です。

 ですので、騎士団とは連携せずに動きますが構いませんか?」


 カイはさすが団長だ。お金よりもちゃんと僕たちのこと考えている。

 侯爵はカイのことを一度ジッと見つめた。


「いいだろう……好きにしてよい!その代わり金の分はしっかり働いてもらうぞ!

 武器等が足りないのであれば言え!食糧等は無理だがな」

「はい。閣下の温情に感謝します。それでは」


 話はこれで終わりだな。カイは立ち上がるとそのまま部屋を出る。後から僕たちも続く。

 最後に僕は、食べられなかったパンを見た。

 

 ちぇ。結局食べられなかったか……。ん?侯爵が僕の方を見ている……いや、扉の方か?


 だが侯爵は僕の視線に気づくと、すぐに手を振って、出ていけと促した。僕は疑問に思ったが、今は気にせずにカイの後を追った。



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