6.北方侯爵
前章のリュシアの話は削除しました。
皇国と連邦の話のみに。
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
騎士たちは騎乗したまま、こちらを待っている。時折、こちらへ視線を向けてくる。
きっと、特徴も聞いているだろうからカイの存在は天幕の外に出た時点で分かったはずだ。
「アルス。シルフィーナ様に連絡を取る必要はなさそうだ」
「そうだね。侯爵が名指しで呼んでくれるなら大丈夫。カイが話をつけて来てくれれば問題ないよ」
カイはその青い瞳を僕に向けて、少し笑った。
「何言ってんだ。うちの参謀も連れていくに決まっているだろう」
「え、僕も行くの?」
「ここまで来たら侯爵と交渉するのもアルスの方が手っ取り早いじゃないか」
「いや!待って――」
だが、カイは僕の言葉を最後まで聞かずに声を上げた。
「碧狼傭兵団団長カイです!侯爵にお呼びいただき感謝に堪えません!しかし、すでに日も暮れ、服も正装ではないが問題ないだろうか!」
「やはりそなたがカイであったか!無論こちらから呼んでいる以上問題ない!服装もそのままでよい!また簡単ではあるが歓迎の準備もあるとの仰せだ!
数人選抜し、我らと共に城壁内へ参られたし!」
「承知した!今しばらくお時間を頂きたい!」
先頭の騎士が大きくうなずくのが見える。
ええ。僕も行くの?さっきドワーフの人たちと交渉してきてから、侯爵との交渉はカイに丸投げしようと思っていたのに……。
「アルス。行ってくれるよな?」
爽やかな笑顔だよ、本当に……。
僕もお返しに爽やかな笑顔をカイに返したつもりだが、カイに少し引かれた。横にいたエルナとガストも苦笑いだ。
難しいな、爽やかスマイルは……。
入城すると、今は夜だからか町全体が静かだ。春先とは言え寒い、人もほとんど出歩いていないようだ。
先行して先ほどの騎士が、次にカイと僕。左右にエルナとガスト、更に後ろに騎士が2騎付いてきている。
僕は馬にまだちゃんと乗れないので、カイと一緒に乗っている。エルナが少し羨ましそうに、こちらを見ている。
「少し石畳が滑りやすいかもしれません。お気をつけて下され」
「ありがとうございます。ところで、侯爵が一傭兵の私に用があるとは思いませんでした。騎士殿は何かご存知でしょうか?」
カイは傭兵団の団長として礼儀作法をしっかり学んでいる。まるで別人のように振る舞えるのも、帝都で人気の理由だ。
荒々しい傭兵団のイメージをカイは完全に覆している。
人は第一印象で、その人の8割を印象付けてしまうものらしい。その点でいえばカイは貴族然としているし、同じ貴族からしても仕事を振りやすいのだろう。
「申し訳ございませんが、私も理由までは聞いておらぬのです。申し遅れましたが、私はヴァルグレン侯爵騎士団第一騎士団団長ヨルム・ヴァルグレンと申します」
ん?ヴァルグレン?ってことはこの人。
「侯爵家に連なる方でしたか。大変無礼を働きました」
「はははっ。皆さん同じような反応をなさるのですが、私は先代の庶子でしてな。現侯爵閣下が私と兄弟でして、名乗るのを許されておるのですよ。名前だけで特に貴族としての力は無いのです」
そのようなことは無いだろう。しかし、庶子なのに名乗りを許しているのか。侯爵との関係性が気になるな。
魔力はそこそこ中位くらいかな?ゲインと同じ雰囲気を感じるが、ヨルムさんの方が線が細いイメージだ。
「このような夜遅くに申し訳ありませんな。なにぶん事態は深刻でしてな」
「……」
「あまり驚かれない所を見ると、どうやら話が来ることも予想しておりましたかな?そこのアルスという子が――」
その言葉を発したヨルムさんは、少し青みがかった目をこちらに向けた。まるで僕のことを知っているかのようだ。
カイたちはすぐに構えようとする。すると周りにいた騎士たちも剣に手をかけた。
今この場にゲインはいない。侯爵にゲインは顔が割れているからだ。
「……待て。落ち着け」
ヨルムさんが手を挙げて騎士たちを制止する。
「申し訳ありません。警戒させてしまいましたか」
「……なぜ僕のことを知っているのでしょうか?」
僕のことを知っている貴族は3年前の襲撃に関わっていた可能性が高い。
つまり、僕の家族たちを殺そうとしている可能性だってあるのだ。
「失礼ですが碧狼傭兵団のことは調べさせて頂きました。カイ殿が優秀なのはもちろんですが、カイ殿が傭兵団運営をしているというのに疑問を感じましてな。
スラム出身であることは、調べればすぐに分かります。その子供が傭兵団をいきなり運営できるとは思えません」
確かに調べればカイがスラムの出身であることは貴族なら分かるだろう。だけれども、同じ子供である僕が傭兵団のブレーンだ、とたどり着くのはあり得ない。
「そして、あるお方からあなたの事を聞いたのですよ」
「ある……お方?」
「申し訳ございませんが、そこから先のお話は侯爵閣下が直々にお話をなさると思われます」
それ以降ヨルムさんは前を向いたまま一言も話さなかった。
僕たちは暗がりの中進んでいき、そして、もう一つある城壁にたどり着いた。そこには他にも騎士が数人おり、ヨルムさんの顔を見ると胸に手を当て道を譲った。
前を見ると、橋のような先に大きな門がある。重そうな門だ。きっと鉄でできているのだろう。
その重厚な扉が開くのかと思ったが、横にある人の背丈より少し大きい扉が開いた。
そうだよね。日常的にここを開け閉めしていたら大変だよね……。前世の日本のお城にも同じようなものがあった。確か、潜り戸って言うんだっけ?
「私だ。件の傭兵たちを連れてきた。中へ入らせてもらうぞ」
「は!お疲れ様です!」
「すまないですが、ここで全員下馬してもらいますぞ。馬屋にしっかりと入れておきますゆえ、安心なされよ」
これは逃げる時すぐに馬に乗って逃げられないな……。
退路の確保は傭兵団にとって死活問題だ。だが、侯爵家に正式に招かれた身で殺されることは、まずないだろう。外聞が悪すぎる。
そして皆が門をくぐり、そしてさらに奥へ進む。何階か階段を上がり少し広い部屋へ案内された。黒い絨毯が目につく。少し……香水のような匂いがするな。
「閣下をお呼びいたしますので、今しばらくお待ちくだされ」
そう言ってヨルムさんは扉から出て行った。直後カイが話しかけてきた。
「アルス。ヴァルグレン侯爵は信用できるか?」
「さぁ、どうだろう。少なくともここまで呼んだからには用があるのは間違いないとは思うけどね。
敵意があるかどうかは流石にわからない」
「……不安だな」
それ以降、僕もカイたちも黙って侯爵が来るのを待っていた。
そして10分ほど経っただろうか?この世界は時計がないから時間感覚は曖昧だ。
「侯爵閣下がお越しになりました」
若いメイドが入ってきて頭を下げて僕たちに告げた。
そして、メイドが脇へ退いた後すぐに男が2人入ってきた。1人はヨルムさんだ。鎧は脱いでいるが剣は帯刀している。
もう1人は顔つきはどことなくヨルムさんに似ている。だがその目つきは鋭い。髪は短い金髪。瞳は緑色だ。
ヨルムさんにはない長い顎髭を一つに結っている。年は40くらいに見えるな。
なんて言うか……前世のバイキングに貴族の服を着せたような人だ。
「お前がカイか」
「はい。碧狼傭兵団の団長を務めております」
侯爵はカイを上から下まで見た後、顔をじっと見ている。
「あ、あの?」
カイが戸惑っているのをみるのは珍しいな。確かにかなり長いこと一言も話さないで見ているだけだもんな。
「……お前たちに仕事の依頼をしたい」
何か含みのある言い方だったが、仕事の依頼がやはりあった。
そしてそのまま侯爵は続けた。
「ドワーフたちが反乱を起こしている。それの鎮圧を頼みたい」
侯爵が言った言葉は派兵依頼ではあるが、僕たちにとっては都合の悪い方への派兵依頼だった。
「ドワーフの鎮圧……ですか。失礼ですが、ドワーフはこの北方において必要な存在だと認識しているのですが」
「言うことの聞かない奴隷など不要だ!今は反乱などを起こされて足元を疎かにしている場合ではないのだ!」
急に声を大きくして侯爵は吠える。余程許せないのだろう拳を握りしめている。
「あやつらめ!わしはちゃんと食糧や酒を渡していると言うのに、やれ足りない、やれ酒を寄越せとどれだけ消費するつもりだ!」
んー、この話を聞く限り渡してはいるみたいだな。となると、単純に量が足りてないとかそう言う問題なのか。
「これ以上渡せば、領民が秋まで食べるものすらなくなる!それに今年は出兵が重なっているのだ!これ以上はアイツらが働いてその金で食糧を手に入れなければならないというのに……!
冬は帰ると言うから、さらに多く渡して働くように言ったのだぞ!それなのに反乱を起こしおる!これ以上は我慢の限界だ!」
「閣下ーーいえ、兄上!一旦落ち着いてくだされ!」
「ヨルムよ!私たちの食糧すらままならないと言うのに!アイツらは……許せん!」
すごい剣幕だ。余程こたえてきたんだな。でも待って欲しい、こちらも確認したいことがあるんだ。
「侯爵閣下!発言を許していただけないでしょうか?」
「なんだ貴様はっ!」
おお、めっちゃ怖い。けどマーガレットで鍛えられた僕を舐めては困る。
「私は傭兵団で参謀を拝命しています。アルスと申します」
「しらぬ!今はーー待て、アルスだと?」
侯爵は、今度は目玉をギョロっとこちらへ向けてきた。
「貴様がアルス……」
侯爵の鋭い目が、僕を射抜く。
「そうか、貴様が――」
一瞬の沈黙。
「ローゼンヴァルト太公が言っていた奴じゃな?」
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