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4.ドワーフの反乱

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

北方地方 野営地 ガンテ


 ーーわしらが馬車の中で待つように言われてから、どのくらいの時間が経っただろうか。

 わしは目を閉じ、身じろぎひとつせずじっと、待っていた。すると、目の前で誰かが座る気配がした。

 片目を開けて見てみると、坊主と出会う前まで話をしていた同胞ーーゴンズが座っていた。


「ガンテ。我らは本当に大丈夫だろうか」

「ゴンズよ。これ以上はどこにも逃げられまいて、食糧もない。酒も無い。それに皆疲労が溜まっておった。

 これ以上は厳しいじゃろう」

「しかしな」


 ゴンズが険しそうな顔をしている。無論気持ちはわかる。帝国人共は信用できん。アイツらは、わしらを本当にひどく扱った。


 じゃがーー

 さっきの坊主は、どうにかしてくれそうな気がしておる。わしの勘はよく当たると妻から評判だった。


「ゴンズ。不安なのはわしも一緒だ。自分の勘だけが頼りじゃ。だが、さっきの坊主なら、任せても良いと感じておる」

「……お前の勘はよく当たる。だからこそ、我らが今逃げ切れている。ーーそのお前が信じると言うのであれば、我らも信じよう」

「すまんな、ゴンズ」


 わしらはニカッと笑い合う。

 しばらくすると外から足音がするのが聞こえた。


 この足音は……2人か。わしらを騙して騎士を呼んだわけでは無さそうじゃ。


「ガンテさん。アルスです。少し話せますか?」

「坊主か。もちろんじゃ、わしらも話をしたいと思っていた」


 さて、坊主からどんな話が出るかの。やはり受け入れられないという話なら、せめて食料と酒が少し貰えるように交渉せねばならないかの。

 坊にも迷惑をかけた。そこまでの地位ではなかろうに、わしらのために骨折りをさせてしもうた。


 馬車の天幕を開けて外を見ると――巨大な騎士が、鎧姿で立っていた。


「っ!坊主!騙しおったか!」

「え?……ああ!ゲインといいます。僕の護衛ですよ。騎士の鎧を着ていますが紋章を削っているでしょう?なので、帝国騎士ではないですよ」


 確かに……紋章は削っておる。黒騎士というやつか。


「アルス様の護衛を務めております。ゲイン・ハイデンベルグと申します。以後お見知りおきを」

「ハイデンベルグ?性があるということは、おぬし貴族か!」


 わしらの間では帝国貴族は最悪の存在じゃ。皆顔に怒りをあらわにしている。

 まさか、坊主も貴族じゃったか。わしの勘も衰えたわい。侯爵にわしらを渡すつもりか……。


「あ、皆さん落ち着いて。確かにゲインは貴族ですけど、僕は貴族ではありませんよ」

「嘘をつけ!貴族の従者がついているなど、余程高位の貴族じゃな!それにその騎士、かなり強いであろう!わしらが見てきた中で一番強いわい!」

「い、いえ!そうだけどそうじゃないと言うか何というか――」


 その瞬間、件の黒騎士が殺気を飛ばしてきた。


 むう。強いと思っていたがこれほどとは、魔圧も使えるのか!これは……殺される!


 だが、すぐにその殺気は霧散し、護衛の騎士が坊主に振り返り一言。


「アルス様。皆様お話を聞く準備が整ったようにございます」

「う、うん。ありがとうゲイン」


 その後は何事もなかったかのように坊主の後ろに控えておる。


「とりあえず、僕たち2人に敵意はありません。侯爵にも連絡は入れていませんし、侯爵家の騎士も呼んではいません。安心してください」

「……わかった」


 そうじゃな。今のでゲインという騎士の力は分かった。こやつ一人でわしらは瞬殺されてしまうだろう。

 それでも会話をしようというのだ。これで更にごねるのはドワーフの恥じゃ!


 わしは同胞たちに一度視線をおくり頷いた。今のでだいぶ萎縮しておるが目までは怯えておらん。

 よし。ここからどうなるのかこの坊主に賭けてみようじゃないか。



――――――――――――――――――――――――――



 ――天幕付きの馬車にいるドワーフたちは、話を聞いてくれるようになったみたいだ。


 良かった。ゲインに付いてきてもらって良かった。僕だけじゃ真実味に欠けるからな。傭兵団の時も僕のことを舐めてくるやつによくやった手だ。


「ガンテさん、それから他のドワーフの方々に聞きたいことと、お願いしたいことがあります。

 まず1つ目、なぜ反乱を起こしたのかの詳細を。具体的にどうすれば反乱を止めてくれるのか知りたいです。

 そして2つ目のお願いになりますが、一度僕たちの傭兵団入団してください」

「なんじゃと?反乱を起こした理由を教えるのはやぶさかでないが、なぜわれらが、坊主のいる傭兵団に入らねばならんのじゃ?」


 ガンテたちは不思議そうに僕を見ている。確かにガンテたちからすれば急に傭兵団に入れ、なんて意味が分からないだろう。


「そうだね。その説明をするよ。でも、その話は反乱の話と無関係じゃないんだ。だから、先にガンテたちの方から事情を説明してもらってもいいかな?」

「むう。そうじゃな」


 ガンテは後ろを振り返り一人のドワーフを呼んだ。そして、黒い髪と髭がつながっているドワーフが一人出てきた。


「わしはゴンズという。わしには従妹が居てな。そいつが北方要塞の鉄嶺堡(てつれいほ)という場所で暮らしていたんじゃ。あの場所はドワーフの住処と砦が一体化している場所でな、かなりのドワーフが住んでおるんじゃが――

 どうやらそこに住んでいたドワーフたちが皆殺された、という話が広まってきたんじゃ」


 その話はカイが教えてくれた話と、かなり関係がありそうだ。


 ゴンズと呼ばれたドワーフが顔を下に向けたまま話を続ける。どうやら彼にとっては耐え難い話らしい。


「そこには丁度その砦にいる友の元へ遊びに行っていた息子がいたんだ。どうやら息子はそこの砦の指揮官に殺された、と聞いた。

 わしは居ても立っても居られなくなっての、領都の鉱山を飛び出して侯爵に真実を問いただそうとしのだ――だが結果は門前払いでの。ほかにも砦に知り合いのいるドワーフたちが大勢詰めかけていたのだが、完全に取りつく島もなくてな。

 一応執事が確認をすると言っておったが。しかし、冬はいつもならもう村に帰る時期だ。息子も一緒に帰らねば妻に顔向けできん」


 ゴンズさんは拳を強く握りしめている。よく見れば血がにじんでいる。よほど苦しい思いをしていたのだろう。家族が殺されたと聞いて安心していられるわけがない。

 その気持ちは僕自身もよくわかる。


 それにしても侯爵はそんな奴なのか?ドワーフの存在は北方要塞の要であろうに、何をしているんだ?


 そして、後ろで聞いているドワーフたちもその気持ちは同じなのか同意の意を示している。

 ゴンズさんの話は声が段々と大きくなってきている。


「しかしだ!一向に連絡が来ないどころか、侯爵からきた連絡は冬も働けという無慈悲なものだった!しかも、食料も酒もロクに渡さないときた!さすがにわしらも我慢ならなくてな。

 もともとその場所にいた同胞と、鉄鉱山の連中も含めて反乱を起こしたっつうわけだ。今はさらに広がっててな。そこら辺の鉱山や北方要塞で同胞たちが反乱を起こしている」


 結構大きい話になってるな。これは戦犯はどう考えても帝国側だ。

 まず、鉄嶺堡(てつれいほ)にいるドワーフに喧嘩を売った時点で初犯。そして、侯爵の後手に回りすぎている対応で2点減点だ。さらにドワーフたちを無理やり従わせる対応の悪さで3点減点。

 

 完全にスリーアウトだな。フォローできないし、ドワーフ側に落ち度なさ過ぎて一緒に謝りに行こうなんて言えないな。


「それで、ここにいるガンテに反乱を率いてもらっておるのだ。ガンテはドワーフでも歴戦の戦士でな」

「ゴンズよ。それは昔の話じゃ。今や北方の鉱山を取りまとめているだけの爺じゃよ」


 ガンテさんはドワーフの中でも尊敬されている存在ってことか。それならガンテさんを説得するしかないか。


「それでアルスの坊主。わしらを傭兵団に入れる理由はなんじゃ?」

「んー。今の話を聞いていると悪いのは完全に帝国人――つまり僕たちだ。ドワーフの人たちに落ち度ないよね。

 なんなら申し訳ないよ。帝国人を代表ってわけじゃないけど、まずは謝罪したいな。罪のないドワーフの人たちを僕たち帝国人が苦しめてしまって申し訳ない」


 そしてそのまま僕は頭を下げることにした。


 完全に悪いときは、ただ頭を下げるのが誠意ってものだ。大人になると謝るってだけでも結構難しい。見栄もあるし。

 でもね。やっぱり悪いときは悪かったと認めて謝らないと、その後の関係は一生元には戻らない事が多いから……。


 ――あれ。周りがすごい静かだな……。誰か何か言ってほしいな。


「……ガ――」


 が?


「ガハハハッ!ガハハハハハ!」


 急にガンテさんが笑い出した。かなり笑っていて大きな声だ。大丈夫かなそろそろ皆寝てるころだと思う、


「あ、アルス様!むやみに頭を下げてはなりませぬ!し、しかも、奴隷に頭を下げるのなど!スラムに住むものたちでも致しませぬ!」

「頭なんか下げるときに下げておけばいいんだよ。悪いことしたんだからね。大人になったら中々下げれなくなるんだから今のうちだよ」

「そういう事ではありませぬ!」


 ガンテはまだ笑っているが、後ろにいるドワーフたちは目を大きく広げている。まるで信じられないものを見たかのような顔をしている。


「――ガハハハッ!こ、小僧!いや、アルスの坊!中々やるではないか!気に入ったぞ!よかろう傭兵団に入ってやる!」

「ガ、ガンテ!いいのか!」

「ゴンズ!帝国人でわしらに頭を下げるやつなど居ないぞ!このアルスの坊主を除いてな!わしの直感が言うておる。この小僧についていけば間違いない、とな!」

「むう……」


 なんかドワーフたちは勝手に納得している。唯一この場で納得していないのは、今も後ろで小言を言っているゲインくらいだ。僕は一旦ゲインに手で話を止めさせた。


「それで、よく分からないけど傭兵団に入ってくれるかな?」

「もちろんだ!われらの命をアルスの坊主に預けてやろう!」

「いや!そこまでじゃなくていいよ……それに団長は別にいるからその人に命を預けて戦ってね」


 僕に預けられても困るよ……。まあいいや、言質はとったからね。むふふ、悪いことをしているみたいだ。とりあえず、話はよく分からないけどまとまった。

 一旦カイに報告して、それから――


 馬車から離れ、一旦ドワーフの人たちを皆にどう紹介しようかな、とか考えていると――


「アルスの坊」


 不意にガンテさんから声をかけられ、後ろを振り向いた。


「本当に感謝している」


 ガンテさんが馬車から降りて僕に頭を下げていた。


「僕も感謝しているよ、ガンテさん」

「ガンテでよい。これからよろしく頼むのじゃ」



 

 ――のちに、このドワーフたちの集団は数を増やし、幾度となくアルスと共に戦場にあり続けた。


 黒き鎧をまとい、自らの身の丈を越える大楯を構え続けた。

 その大楯で守るは常に一人の存在だけだった。


「同胞の恩人よ!我ら、その身を守る盾とならん!」


 ドワーフたちは、戦場に立つたびに必ずその言葉を口にした。


 敵が何千、何万と来ようともその盾より内側には何人たりとも寄せ付けなかった。


 魔物の群れが押し寄せようとも。

 敵軍が大地を埋め尽くそうとも。


 彼らは一歩たりとも退かなかった。


 その大楯が並べば、そこには鉄壁が生まれる。

 その鉄壁の後ろにいる限り、アルスは決して傷つかない。


 やがて敵は、彼らを恐れるようになる。


 ――黒き鉄壁。


 それが、後に大陸中へと知れ渡る彼らの異名となった。


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