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1.貴族の護衛

文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。

北方要塞 鉄嶺堡(てつれいほ) 駐屯軍最高指揮官 ドバ・バフリー



 ――最近魔物たちが騒がしいらしい、と聞いたのはここ3か月くらいの話だ。


「バフリー様!本日も魔物らしきものが数匹出没しており、ワルド南門守備隊長から至急ご確認頂きたいとのこと!」

「まったく……この私が直々に見るほどなのか?これだから平民はダメなのだ。何も考えない無能ばかりしかいないな」


 私は飲んでいたワインを机の上におき、そして手を振って女たちを下がらせる。


 平民は女くらいしか使えないな。女は金さえ渡せば何をしても従順であると言うのに。


 一応剣を持っていこうか考えたが、所詮平民が騒いでいるだけだ。そう思いなおし、このままでよいかと報告に来た者の前にゆっくりと近づく。


 やれやれ余裕がないな。そのこと自体が恥だと気づかないのか平民は。そもそもこの私を呼びつけるのに伝令だと?直接報告しに来るのが礼儀であろうが。


 わたしは飲み残したワインを一瞥した。


「……案内せよ」

「はっ!」


 この砦に配備されたときは、バフリー家は一家総出で喜んでいた。何せ初代帝が作りし北方防塞群(セプテント・ライン)の一つに砦の最高指揮官として配属だ。栄誉なことだと父も涙を流して喜んでいた。

 この私も当初は喜んでいたが、配属されてみると……まずは汚い。そして平民はともかくドワーフといった奴隷も多い。

 どうやら、この要塞の鉄鉱山を管理するためにいるらしい。しかし、平民でさえ汚らしいというのに、奴隷のドワーフとは。この私がいる場所として、相応しいとは思えない。



 それに加え――


「ワルド隊長!最高指揮官を連れてまいりました!」

「おおう。ご苦労。バフリー様、わざわざすみませんね。報告は聞きましたかね?」

「ああ。この私を呼びつけるとは余程のことであろうな?」


 南門のすぐ外に大柄な男が立っていた。灰色の髪に茶色の瞳。まさに平民を象徴している。


 そう。この男――ワルドの存在だ。この舐めくさった態度。そのくせに他の平民兵からは慕われている。貴族でもないのに、だ。


「へへ。大した事じゃねえですが。見てくだせえ。今日も緑の亜人が10匹も居たんですわ。それでですね、魔物が増加傾向にあるので、前に行っていた人員補充の話を――」

「またその話か!いい加減にしろ!この砦の人数だけで充分であろうが!」

「いえ、最近は特に多くなっているんでさあ。このまま増え続けると中位級の魔物も出るでしょう。ですから増援はあった方がいいと思ってるんですわ」


 何度目だ!この砦には1,000人近くの兵士がいる、奴隷も加えればもっといるんだ。貴族も私だけじゃない。中位貴族が5人もいるのだぞ。

 これで魔物の増加だけで援軍だと?この私が無能だ、と証明するようなものではないか。


「ここには貴族が5人もいる。中位貴族だ。それでも足りないと?我々貴族が頼りないとでも言いたいのか貴様は?」

「いえいえ。そう――」

「この話はおしまいだ!この私の時間を取らせるな!」


 まったく本当に平民は使えない。黙って私たち貴族のいうことを聞いていればよいのだ。

 ……今度父上にワルドを別の場所に左遷してもらうよう言おう。

 よし、そうしよう。少しは静かになるだろう。



*************************************


北方要塞 鉄嶺堡(てつれいほ) 南門守備隊長 ワルド



 ――ずかずかと足が響かせるように、貴(・)族(・)様(・)は去っていった。


「いいんですか?あの貴族様、ろくに話も聞かずに行っちまいましたぜ」

「ぺっ。しらねえよ。あのボンボン野郎。全然話を聞かねえからな」


 貴族だ?ざけんなよ。こちとら毎日命はってんだよ。くそが。


 俺は足元にあった石を思いっきり蹴っ飛ばした。そしてその石は、この先に続く深い森の方へ消えていった。紫(・)に(・)生(・)い(・)茂(・)る(・)奇妙な形をした木ばかり生えている森の方へ。


「これじゃあきっと増援は来ないですかね」

「キット……分かってるだろう?あの貴族の坊ちゃんが呼ぶわけねえよ。プライドが高いからな。呼べば自分の評価が下がるとでも思ってるんだろうな」

「プライド、ですかい。はあ。どうしようもないっすね。この北方でプライドなんてなんの意味もないっすよ」


 キット……冒険者時代からの付き合いだ。飄々としていて軽そうな印象だが、奥さん一筋10年だ。子供はもう9歳とかだったと前に聞いたことがある。


「前のおじいちゃん貴族の方がマシだったな。あの人は話は聞いてくれるしな。というか研究者だから指揮も丸投げしてくれて助かっていたんだがよ」

「ああ。ブラウンさんのことですかい?大将、名前覚えるの本当に苦手ですよね」

「仕方ねえだろ。長い付き合いかどうかもわからねえ奴の名前なんて、覚えてどうするんだよ」


 前の老貴族、あの人は興味が魔物の研究だったからな……。


 ある意味やばい人だったが、話は全部聞いてくれたし冒険者だから、平民だから、という偏見は少なくとも無かった。

 気づいたら中央に帰るといって風のように去っていったが。


 ――ちっ。次の後任がアレとはな。何考えてんだよ……。あいつ童貞じゃねえか。


 戦場が日常である、特に冒険者の間で【童貞】とは、初陣も経験したことがない者を指す。


「侯爵軍が展開しているって噂は聞いたっすよ。一応はちゃんと援軍が来るんじゃないっすか?」

「……最近警戒しなきゃ行けねえのは、魔物だけじゃねえだろうが」


 俺は周りにア(・)イ(・)ツ(・)等(・)がいないことを確認した。キットは俺の方へ顔を近づけてきて、小さな声で囁いた。


「ドワーフのことですかい?大将、本当なんですかい?」

「詳しくは知らねえ。けど、北門守備隊の奴らが言ってたんだよ。ドワーフ連中が集まって何かしてるってな。それに、あのボンボンが来てから、ドワーフの扱いは前より酷くなった。理由はそれだけで足りるだろ」

「……ヤバいですぜ。この砦はドワーフの力がいねえと守れねえっすよ」


 キットが顔を引きつらせながら言ってくるが、そんなことは俺も承知している。何せこの鉄嶺堡(てつれいほ)は、他の6つの砦を地下で繋ぐ巨大な補給要塞だ。鉄鉱山を抱え、ドワーフたちが築き上げた要塞だ。

 装備も地下への案内もドワーフ頼りだ。


「仕方ねえ。後で俺からドワーフの頭には酒を持って――」


 その時、後ろの門から兵士が1人出てきて、俺を見つけると走ってきた。

 そして息を切らせながら報告してきた。


「た、大変です!反乱が!ど、ドワーフの反乱がおきました!指揮官であるバフリー様が重傷を負いました!」

「な!なんだと!すぐ向かう!」


 カンカン!カンカン!


 場内に戻ると異常を知らせる警報が鳴り響いている。そして、至る所でドワーフと砦の人間の兵士が戦闘していた。


 まずいな。とりあえず、ドワーフの頭に繋ぎをとらねぇと――


 すると目の前で、貴族がドワーフの子供に向かって、魔法で攻撃を始めようとしているのが見えた。


 くそ!そんな事したらもう、後戻りできねえだろうが!



 俺はとっさにその子の前に立ちーーー



 轟音が、砦を揺らした。



*************************************



 ――ところ変わって碧狼傭兵団アジトでは、入り口にマーガレットが仁王立ちしていた。


「おせえんだよ!いつまで待たせるつもりだ?」

「そうだぞー。マーガレットさんを待たせるなんて何様だー」

「ルビーが喧嘩してるのを仲裁してたからでしょう?アルスが止めなきゃ、大変だったんだからね!」

「ええー?わたし悪くないしー」

「てめえのせいかよ!ふざけんなよルビー!」


 君たち入り口で騒がないでよ…メルがルビーに怒っているのを見るのも何回目だろうか。思わずため息が出てしまう。


「はぁ。とりあえず……。マーガレットさん!こっちにお願いします!カイもこっちの作戦部屋にいるんで!」

「アルス!てめえ、おせえんだよ!」

「すいません……。すぐ話聞くので、中へお願いします」


 こう言う時は謝るのがいいのだ。自分が悪くなくとも。前世の日本では社会人の鉄則だ。


 外で騒いでるメルとルビーを置いて、マーガレットを作戦部屋と呼ばれている部屋へ案内する。


「マーガレット。わざわざ来てくれてありがとう」

「カイ。ちゃんと部下の手綱は握っておけよ」


 元々あなたの部下だし、自分の事棚に上げて何言ってんだ……。


「あはは……それでどうしたんですか?急にボグから、マーガレットがこちらに来るって聞いて驚いたよ。仕事依頼は基本手紙だったからさ」


 カイが少し苦笑いしている。だが、さすがの爽やかスマイルだ。僕以外は気付いてない。


「そうなんだがな。この案件は、流石に手紙じゃなくてわたしが直接な……。

 貴族の護衛依頼が舞い込んできた。それもウチを通してお前にな」


 マーガレットを通して?つまり、マーガレットと僕たちが繋がっていることを知っているのか。

 それなりに知っている人はスラムでも多いだろうが、貴族で知っているとなると……。3年前の記憶が蘇ってくる。


「カイ。3年前も黒幕は分からなかったが、貴族だった。僕たちの事情を知ってる貴族は、あの抗争に関わっていた奴らに近しい可能性が高いよ」

「そうだ。アルスの言う通りだ。けどな、依頼人はでかい貴族でな。断るにも理由が必要だ。

 そこで、だ。カイのところに行けば、アルスが何かいい案出すだろうと思ってな」


 マーガレットが、愛用のパイプをポッケから出して火種をつける。


 一応ここ禁煙なんですよ……そう思ってるの僕だけだけど。


「ちなみに、どこの貴族か教えてくれるのか?子爵以上と考えると伯爵……まさか侯爵とか?」

「ふぅ。いい線いってるぜ、カイ。北方の侯爵だ。そして依頼に内容は、その子息に嫁ぐ伯爵の娘の護衛だ」


 僕は、頭の中で地図を広げて名前を思い出す。


「ヴァルグレン侯爵……だったかな?」

「そうだ。よく覚えてるな。わたしはあんまり覚えられねえがその侯爵に嫁ぐ娘だとよ」


 その護衛任務を僕たちに?益々怪しい……。確かに最近知名度は上がってきたし、依頼の成功率も高い。

 だが、貴族のーーそれも侯爵家に嫁ぐ令嬢の護衛は、普通侯爵家の領軍が護衛するはずだ。


「何か事情がありそうですね。侯爵家領軍はいるのですか?」


 一応、戦力確認はしておきたい。


「ああ、一応いるらしいが数が少ないらしい。それと他の傭兵団にも声をかけているらしいからな。あと冒険者もいるってな」

「なら、そこまで怪しくはないのか?俺はこの依頼は受けてもいいと思うが……アルスどう思う?」

「んー」


 どのみち侯爵家からの依頼を断った、となると外聞が悪い。それに他の傭兵団や冒険者もいるなら、そこまで怪しいことをするとは思えない。

 うまく行けば知名度も上がるだろうし、お金の面でも余裕がさらにできるだろう。


 それに僕、北方に行ってみたいな……北方は獣人が多いって聞くし。


 よし!


「受けようか!この依頼!」

「だな」

「おーし。んじゃ、わたしから話はつけておいてやるよ。金は4割くれればいいぜ」


 何言ってんだこの人。そんなに渡すわけないだろ。


 ここからは僕の交渉力の出番だな。今のところマーガレットへの勝率は2割くらいだけど、今回は負けないぞ。




 この後、アルスが泣いている姿を、カイとメルで慰めていたとか、いなかったとか…。



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