1.新たな生命
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
帝都アルベリア 貴族区 古ぼけた屋敷 サリエラ
――古い屋敷の中は、蝋燭の灯りが静かに瞬いていた。
「姫様……」
幼い頃から、私たちはそう呼んできた。
今となっては、もう随分と懐かしい呼び方になってしまったけれど。
出産を終えた部屋から出て、蝋燭に火を灯し歩く。
新月の夜だった。
生まれてきた赤子は、義娘が身体を清めてくれている。
そろそろ終わる頃合いかしら――
義娘と赤子――アルス様のいる部屋に向かう。
角を曲がった先、部屋の扉の横に、同じく灯りを持つ壮年の男が立っていた。
「サリエラ殿、アルス様の事。我々も陰ながらお守り致します」
第一印象は巨人。
1.9ルムドはあるだろう壮年の騎士が、扉の前で声をかけてきた。
ゲイン殿。
長い付き合いになる帝国の騎士だ。
「ゲイン殿……いいえ、まずは姫様のことを優先してください」
「しかし、アルス様は――」
「それ以上は、この場で話すことではありません」
「……承知しました」
アルス様の存在を知る者は少ない。
それが、この子を守るために必要なことだった。
忠誠心が高すぎるというのも、困ったものです。
高位騎士が体を縮こまらせているのを見ると、少しだけ心が落ち着いてくる。
「ふぅ……」
少しだけため息が漏れる。
「他の騎士団の方は?」
「…… 外に五名。残りは警備隊の動きを探るために配備しております」
「そうですか。では、道中の確保は問題ありませんね。
我々は早急に移動を開始します」
「……はっ」
丁度、部屋の中から義娘のアリアが顔を出した。
「お義母様。終わりました」
「ありがとうアリア。換えの布と松明に火をつける布は混ぜないように気をつけて。それ以外は向こうにもあるでしょうから、必要最低限でお願いね」
「はい。お義母様。既に準備は終わっています」
本当によく出来た義娘だ。
わが息子がこの娘と結婚できたことを、誇りに思う。
部屋の中に入ると若干血の匂いが漂う。
奥に小さな籠が置いてあり、その中でスヤスヤ眠っている赤子が目に留まる。
「アルス様。いつか……いつか、必ず姫様に会えますよ」
私は、小さな声で呟きながらアルス様を見る。
そして、ポケットから一つの古ぼけた銀色の腕輪を取り出した。
腕輪は、一本の線が波打つように掘り込まれていて、近くで見ると細かい帝国文字が書いてある。
私はそれを間違いのないよう確認し、眠っているアルス様の腕につけた。
キンッ――。
腕輪は赤子の肌に吸い寄せられるように形を変え、腕に馴染んでいく。
腕輪が馴染むと、アルス様の髪はみるみる灰色に染まっていった。
「ッ!」
後ろで、一緒に見ていたゲイン殿も同様に感じているようだ。
目が赤い…。
涙腺が緩いのは、威厳が必要な帝国騎士団長としてやっていけるのか心配になる。
「ゲイン殿。後のことよろしくお願いしますよ?」
「……はっ!」
赤子の籠を持ち上げ、部屋を出て建物の裏口に近づくと外から馬の嘶きが聞こえる。
息子が馬車を手筈通り用意してきたのだろう。
裏口から外に出ると、馬のフンの匂い。長時間待っていたのだろう。
フード姿の騎士が二人と軽装の男が一人、小声で話していた。
その中で一番背の低い男――息子のマルクが振り向き、駆け寄ってきた。
「母さん! 後ろの荷台に乗ってくれ。アリアもお疲れ様」
「分かったわ。それとまだ油断してはダメよ。道中頼むわよ」
「分かってるよ。任せてくれ。さぁ、急いで」
息子がアリアの手を取り、荷台に乗せ一緒に前へそのまま向かう。
私は、アルス様を抱えているため、騎士二人が両側から支えるように乗せられる。
「ご婦人。足元どうかお気をつけて」
「えぇ、ありがとう」
荷台に乗り込んで、そっと腰を下ろす。
ゆっくりと馬車が動き出す中、裏口を見るとゲイン殿がこちらを見ていた。
ゲイン殿、姫様のことよろしくお願いします。
そう思い頭を少し下げた。
顔を上げると、ゲイン殿が一度だけ頷いた
あぁ、女神ルミエラよ。
どうか……どうか。姫様とアルス様に御身の加護がありますよう――。
馬車はゆっくりと、それでいて静かに進んでいく――。
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