11.ゲインの話
文章がおかしい、誤字脱字等ありましたら申し訳ございません。
家の中に入ると、埃のにおいが鼻についた。狭い部屋の中には椅子がいくつかと机が1つ置いてあった。
ゲインさんの腕から降ろしてもらい、少し中を見回してみる。
すると、マーガレットたちも続々と中に入ってくる。
「ゲインさん。聞いてもいいですか?」
「ゲインとお呼びください!敬称は不要にございます。聞きたいことはもちろんお答えいたしますぞ。」
ゲインさんが大袈裟に声をあげた。声に渋みがあるけど大きい声だな。
「でも、貴族は敬称をつけないといけないんじゃ。」
「アルス様は不要にございます!」
ゲインさん――いや、ゲインがそう言う。自分もこの世界の言葉で敬称をつけて呼ぶのは大変なので、子供だから仕方ないよね!のノリでつけなかったりしている。
けど、この人貴族だしな。一応つけていたんだ。
「……わかった。ゲイン。あなたは何者なの?それと僕は一体何者なの?」
年上を呼び捨てなのは、前世の記憶から少しはばかられる。しかし、それ以上に聞きたいことがいっぱい出てくる。
「アルス様。私の口から話してよいことと、話してはいけないことがあります。ゆえに、まずは答えられる範囲で答えていきたく思います。サリエラ殿との関係についても話させていただきたく。」
「わかった。けど、サリエラの話をするのであれば、メルっていう子が来てからでもいいかな?」
ゲインは一度大きく頷いた。
「無論にございます!むしろ私もその子に伝えたいことがありますゆえ。」
ゲインは入口より奥にある椅子を僕に持ってきた。これに座れということか。
マーガレットは手前の椅子を二つ使い、横になっている。だが、話自体は聞くつもりなんだろう。顔はこちらに向けている。
しばらくして、メイズさんの隣で心配そうにしているメルが来た。だが、僕を見つけると嬉しそうに声をかけてきた。
「アルス!無事?」
メルが僕に駆け寄って抱き着いてくる。メルのにおいがする。家に帰ってきたかのような安心感がある。今頃になって、少し体が震えてきたかもしれない。
「大丈夫?」
メルが心配そうにこちらを覗き込む。
「ああ、少し今頃になって怖くなってきちゃって……。」
「ごめんね。一緒にいてあげられなくて。でも、一応包帯のやり方はお母さんから聞いていたから……。」
確かに、包帯なのか布なのか分からないけど、メイズさんは身体中に巻かれていた。
「助かりましたメル。一応、応急手当していただいたので、少しはマシになりました。」
「良かった。本当は魔法が使えればよかったんだけど……。」
メイズさんがメルにお礼を言っている。メルが言っているのは回復魔法のことだろう。
魔法は8歳くらいから教えてもらうのが普通だ。だから、5、6歳の僕たちは現状では、魔力はあるが魔法が使えない状態なのだ。
僕は魔法も使えないだろうって?……気にしてはいけない。
心の中で一人でツッコミを入れていると、メイズさんがマーガレットさんを見つけた。
一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「お嬢。油断しましたな。」
「うるせえ。てめえもだろうが。そもそも、エルフがスラムにいることがおかしいんだ。」
「エルフ?」
マーガレットは、同じように椅子の上で寝かされているエルフを顎で示した。メイズさんはエルフに少し近づき、確認すると淡々と言った。
「私が戦っているときには、いませんでしたから。」
「ちっ。まあいい。それより、ゲインさんとやら、そろそろ話をしてくれるのだろう?わざわざ騎士がスラムに来るくらいだ。相当な理由がなければ来ないだろう?そのアルスって子に何があるのか、わたしも知りたいんでな。」
マーガレットが少し体を起こして言う。
「サリエラ殿の孫……メル殿と言いましたな。まずはそちらに関係する話からでもいいですかな。アルス様の話にもつながりますからな。」
「かまわねえよ。」
マーガレットが再度寝ながら手を振っている。
一応貴族ですよマーガレットさん。その体勢で聞こうとするのは逆にすごいよ。
「え!おばあちゃんの……知り合いの人?」
ゲインはマーガレットから目線外し、僕と一緒にいるメルを見る。メルはその巨体を見上げて少しおびえながらも聞く。
「はい。サリエラ殿はわたしが騎士団に入ったころの教官でしてな。よく怒られておりました。そこからの付き合いになりますが、サリエラ殿は元月影騎士団という騎士団の所属でしてな。」
「月影騎士団……。」
メルがその言葉を、噛み締めるように呟く。
サリエラも盗賊に追いかけられている時、盗賊が言っていた名前だ。
ゲインはそのまま話を続ける。
「月影騎士団というのは皇帝陛下の影。つまり、陛下の御身を影ながらにお守りする役目。それに情報収集などを担っている騎士団です。」
ゲインは着ている騎士服の胸の部分を少し触った。そこには月のような紋章が光っていた。
「ですので、貴族は知っている人がある程度いるでしょうが、知らない者も多いでしょう。」
なるほど、だからさっきの貴族たちもゲインの顔を知らなかったんだな。
あれ?陛下を守るのが役目ってこと?なら僕をアルス様って呼ぶのは……もしかして――。
「そのアルスってやつは皇帝の隠し子的なやつなのか?」
マーガレットがド直球に聞いてくる。あなたは怖いものなしなのかな?
「いえ、アルス様は現皇帝陛下とは関係はありませんな。しかし、月影騎士団の成り立ちとしては、大いに関係があります。ゆえに、私が助けに来た理由になります。」
「ゲイン。それって僕は、帝国の皇族ということになるの?」
「そうなります。現皇帝陛下本人とは血が繋がっておりませんがーー」
ゲインは一度そこで言葉を切り、僕をみてはっきりとした口調で続けた。
「アルス様は皇族でございます。」
瞬間、皆が僕をすごい見てくる気がする。カイたちも驚きを隠せていないし。
メルは……普段通りだ。何言ってんだろうって感じだ。
「やっぱり、そいつの髪の色と瞳は隠しているのか?」
マーガレットがそう聞いてくる。
「ええ、アルス様の腕輪がそう見えるようにしております。これは理由があってのことですが、その話は私の口からは言えませぬ。申し訳ありませんが……。」
ゲインがこちらを少し窺うように見てくる。
まあ。ある程度理由があってついているとは薄々思っていたんだ。最初は赤子につけるアクセサリーかなって思ってたけど、メルはつけてないし。
それに話せないこともあるって最初に言っていた。僕のことなのに、僕にも話せないって相当なことだぞ。
「まあいい。それで、その小僧たちはどうするんだ、ゲインさんよ。あんたが来たなら、そのまま引き取って保護すればいいんだろう?わざわざスラムにいる必要もねえ。」
そうか、確かにそうだ。カイたちを見るとカイも少し悲しそうな顔をしているのが見える。
そうだよな……。
「いえ、実はですな。私は騎士団を辞してきたのです。なので、貴族籍はありますが、領地なし貴族ですし。今はただの貴族籍を持っている、元騎士の老人ということですな。」
ゲインは堂々と胸を張って答えた。
「はあああ?騎士じゃないのか?そのアルスってやつは皇族なんだろう?騎士団にいる時に、保護してやればよかったじゃねえか。」
マーガレットが驚いた顔をして言う。
いや確かにその通りだよね。わざわざ辞めてこっちに来たってことなのか。
何のために?
前にサリエラが、騎士団に助けを求めるのを渋っていたと考えていた。そのことに繋がっているのかもしれない。
「ゲイン。騎士団の中に僕を殺そうとしている人がいるってこと?」
ゲインはバッと音がするような勢いで、こちらを振り返り、僕の肩を抱いて言った。
「アルス様!その話どこまで聞いていたのですか!サリエラ殿にもその話は伝えられませんでした。どこで……まさか!月影騎士団に襲われたのですか!?」
ゲインの顔に、今日一番の焦りが浮かんでいた。
「いや、そうなのかな、って。伝えられなかった……ってことはゲインはサリエラがどうなったか知っているってこと?」
僕はゲインが最初に会った時、サリエラのことを聞かなかったことを今更だが不思議に思った。
つまり、サリエラと僕たちが一緒にいないことを知っていたんだ。だから助けに来たんだと思う。
「……アルス様は5歳でしたな。お年のわりに随分と大人のような冷静さと落ち着きがありますな。サリエラ殿のことは、どうなったか知っております。わたしもその現場に向かいましたし、調査もしましたからな。」
メルがその大きな瞳を、目一杯開いて言った。
「おばあちゃんがどうなったか知っているの!?おばあちゃんはどこにいるの!」
メルが会話に入って聞いてくる。メルは、最後まで一緒にいたサリエラはどこかで生きていると思っている。
マルクやアリア同様、サリエラの亡くなった姿を僕たちは見ていないし、そこにしか希望がないからだ。
「メル殿……。サリエラ殿は残念ながら亡くなっておりました……。」
メルの表情が固まり、一瞬呼吸が止まってしまったかのように見えた。
「お、おばあちゃんが……死んだの?嘘……。」
メルは信じられないと言わんばかり目を見開いている。
「……はい。死体はございませんでしたが、なくなっているという確証がありましたゆえ。サリエラ殿の血統魔法の爆発は自分にも死をもたらす魔法です。私としても生存は難しいと判断しました。」
「サリエラ……。」
サリエラ、最後に僕たちを守るために、本当に命がけで戦ってくれたんだな。
「助けが間に合わず申し訳ございませぬ。」
ゲインが小さなメルに頭を下げている。
メルは完全に泣いてしまっている。死んでしまったなんて、この年で受け入れるわけがないのだから。
ここ最近だって、僕と一緒にいるから何とか頑張ってきたんだ。この話はメルにとっては重すぎる。マルクやアリアのことだってあるのだ。
「ですが……。」
ゲインは、メルが少し落ち着くまで待ってから切り出してきた。
そしてメルが涙をぬぐい、ゲインを見上げる。
「メル殿のお母さまのアリア殿、お父さまのマルク殿は生きております。」
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